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10.鋼の精神、勇気の証明

 ーーーー夜明けの光がボクを照らす。太陽の光に当てられてボクらは目覚める。まるで陽光がエネルギー源であるかのように、ワタシは走り出した。

 始めは1匹・・気づけば10匹・・・。やがて陽光が増すにつれて、多くのキミたちも目を覚ます。

 既に目覚めて走り出した先頭を追いかけ、多くのナカマが故郷を目指す。

 何処とも知れぬ彼方を夢見て、今日も今日とて玩具と遊ぶーーーー


 ーーーーハッ・・と目覚めてみれば、いつの間にか空の上。

 ・・・まだ、実感が湧かない。それでも・・・。

 それでも言身たちは戦場へ向かい空をとんでいた。その事実が変わることはなく、これから死を目前にして戦っていくという事実もまた変わりなし。


 ーーーー空の上、窓の外。ついに戦場が見えてきた。

 かつて生い茂っていた草木や建造物は跡形も無く消え去り、残された平坦な大地だけが遥か地平線の彼方まで続いている。

 ・・・ここが・・・これが・・・。

 言身の耳に、誰かの息を呑む音が聞こえた気がした。

 それは不安故の行為か、あるいは興奮故の行為か。どちらにせよ、多くの者が通常の精神でないことは確かだった。・・・しかしそんな中でも言身と昇子は、至って平然としていた。

 死を知り恐れることができなくなってしまった者。あるいは本心から死を望む者。

 人の死を悲しむことができなくなってしまった者。あるいは人の死を嘲笑う者。

 2人にとって自身の・・あるいは他人の死は本能ですら否定されない。

 2人が唯一否定するもの・・・それは互いの死。

 2人はただ一つの塊であり、どちらかが死ねばもう片方も死んでしまう。それ程までに、2人の命は強固に結ばれてしまった。

 それは悲しむべきことか・・それとも喜ぶべきことなのか・・・。

 少なくとも2人にとっては・・・そうあることでしか生きることを望めない”今”の2人にとっては、これは間違いなく喜ばしい結果であったのだろう。だからこそ2人は生き、喜び、楽しみ、笑い合えることができたのだからーーーー。


 ーーーー言身たちが担当する戦線は第八防衛線「うす」区域戦線であり、現在までにおいてこの戦線に配属されていたフィリデイは全て海外からの派遣部隊だった。

 今日の言身たちは主にその彼女たちの動き・・・戦場への降下タイミングと撤退のタイミングとフェアリエとの戦闘方式を頭に叩き入れるため、戦場の真上近く・・・実際にフィリデイが待機する位置の近くを、滞空するヘリの中から見学することとなったーーーー。


 ーーーー日の出から約1時間ほど経過した頃、けたたましいサイレンの音が戦場全体に鳴り響く。・・・これはフェアリエが来たこと・・即ち戦闘体制に入ることを知らせる合図だ。

 ーーー戦場全体の空気が一段と重くなったーーー

 サイレンの音を聞いた全ての人が配置に・・ついていた。

 そもそもフェアリエが攻め込んでくるタイミングはある程度決まっている。そのため既に戦場に慣れきった多くの兵士たちは、サイレンが鳴るより前に戦闘体制をとるための準備を終えていた。・・・またこれは、確かに戦闘慣れきった故の行動であるが、しかし同時に不測の事態に際して・・・即ち予定外のフェアリエ侵攻に対して即座に対応できるようにするためのものでもあった。

 そうして戦場が静まり返る中、言身たちには既に地平線を越えてフェアリエの塊が・・・まるで白い津波と形容するに相応しいそれがはっきりと見えていた。


 ーーー恐怖。・・・白い津波を前にして、誰も彼もがそれを抱く。

 しかし津波を目視で捉えようとも、重機関銃を携える彼らはそこに鎮座する。・・・ただ静かに指を震わせながら。

 待つのだ・・・待つのだ。

 己の命を・・妻を・・家族を・・恋人を・・・・世界を守るために、その命を捧げよ。

 怯えるな。焦るな。冷静でいろ。・・・一糸乱れぬ弾丸の幕だけが奴らの足止めを可能とするのだ。

 汗を滲ませる兵士たちはただその瞬間を待ち続けるーーー。

 そして空から落ちた爆弾の雨が火の海を作り、ついに開幕の狼煙が上げられた。

 続き「うす」戦線に並べられた全ての銃身・・あるいは砲身が火を噴く。そうして距離にして大体2000m付近。そのあたりで急激にフェアリエの動きが鈍くなった。・・・手足が飛び散り、胴体に風穴があき、全身が焼け爛れ、フェアリエが有する驚異的な機動力が大幅に損なわれる。・・・しかしそれでも侵略の足音が止まることはなく、後続から続々と雪崩れ込んでくるフェアリエが同族を踏み潰し飛び跳ねる。跳ねる。笑う。

 ・・・・笑う?・・・笑った?

 目視の限りそうは見えない。フェアリエはいつだって無表情・・というかお面を張り付けているような・・・・。しかしそれでも、言身は不思議とそう感じとった。

 ーーーー暫くして火を噴く音が鳴り止む。そしてフィリデイの出番がやってきた。

 いくら強固な弾幕を張ろうが、それでも数匹のフェアリエは緩衝地帯・・・自陣より向こう側遅延したフェアリエの塊よりこちら側の領域へと侵入してくる。が、これが数十匹程度であるならさしたる問題はない。しかし数があまりに増えると一個体を足止めできるだけの火力が足りなくなり、結果として自陣へのフェアリエの侵入を許してしまい戦線が崩壊・・あるいは撤退せざるを得なくなる。この事態を早急に防ぐため、緩衝地帯に一定数のフェアリエが侵入した際に、フィリデイがこれの殲滅にあたる必要がある。

 そういうわけで戦場真上にて滞空していたヘリは、フェアリエから少し離れた地点にて低空飛行に。そこからフィリデイたちがロープなしで飛び降りる。高さ的には4、5メートルほどか。

 しかしプロペラ(ローター)の風圧だったり地面の粉塵が舞い上がる中、そこを飛び降りていくフィリデイというのは、いくら迅速な行動が優先されるからといっても「流石にちょっと嫌だな」・・と言身は思った。

 ーーーー緩衝地帯に入り込んだフェアリエを全て・・またはある程度殲滅し終えたフィリデイたちは、後方にて降りてくるヘリに素早く乗り込んだ。

 これに関してはタイミングをしっかりと合わせる必要がありそうだ。仮にもたつけばフェアリエへの一斉射が遅れ、その分だけ射撃部隊員とフェアリエとの距離が縮まってしまうから。

 とても危険だがとても重要な役目。これを毎日毎日繰り返していく。いずれ”必ず”訪れる、フェアリエ戦争終結のその日までーーーーー。


 ーーーー次の日。言身たちも早速戦場に立つこととなった。とはいえまだ言身たちだけに任せるわけではなく、今日と翌日に限り既存部隊である先輩フィリデイたちと共に戦うこととなっている。

 そして仮にもしこの2日で言身たちに任せられると現場が判断したなら、その時点で先輩フィリデイたちは他戦線に回されることになる。

 戦場におけるフィリデイの数は今なお不足気味であり、今後それが解消されることはない。・・・そもそも安定した戦況を維持するためにも、各戦線におけるフィリデイの総数はなるべく多いほうがよい。

 また近頃は各戦線におけるフェアリエの侵攻総数にも”対処しきれない程の差”が生まれ始めており、今後の激戦区と予測される中央辺りにより多く・・そしてより経験に勝るフィリデイが必要とされていた。

 そんなわけで、言身たちや他戦線に配属された新規フィリデイたちが安全に実戦を行える場を長く設けるわけにもいかなかったーーーー

 

 「さて、いいかお前たち。」

 言身たちの教官である藍実あいざね准尉が、識別番号803の神子隊・・・つまり自身の部下である言身たちに向かい言葉をかける。

 「既に幾度と釘を打たれたことを今一度改める。まず押し寄せるフェアリエを全て排除できない以上、フェアリエの数は時間経過に併せ増大していく。これ即ちお前たちの戦闘も、時間経過に併せより苛烈なものになっていくということだ。」

 ーーーー現時点において全てのフェアリエは、同一の生活習慣のもと行動を行う。それは日の出と共に起きて、近くの人の居る地に向け走り、夕方過ぎに帰路につき、日の入りと共に睡眠状態へ入るというものだ。そして基本的に、フェアリエは侵攻している地点付近にて睡眠をとる。なおこれらは現在の推測として、フェアリエが太陽の光を直接エネルギーに変換し、ただしこれを貯蓄できずそして即座に消費されるため、こういった活動方法を取っていると考えられている。

 次に、命星エルダの自転は左回転だ。つまり太陽は東から昇る。そのためフェアリエは基本、サミア大陸戦線付近にて休息するものから目を覚まし活動を始める。

 もちろん先述した通りフェアリエは侵攻している地点付近にて睡眠をとるため、ある程度は塊になっているが、それでも”数時間の差”は存在している。このため1日の戦闘開始初期段階においては戦線付近のフェアリエのみを相手取り、少し遅れて後続のフェアリエも合流を始める形となっている。

 そして人の手には、迫るフェアリエ全てを排除できるための術が無く、故に現在の戦闘においてはフェアリエを団子状態とし足止めすることしかできないため、後続のフェアリエが合流する度に物理的な火力が足りなくなり、緩衝地帯へと入り込むフェアリエの数が時間と共に増加していく。そのためフィリデイが戦闘において最も危険とされている時間帯は、疲労が溜まり集中力が切れ始める午後過ぎと夕方頃とされているーーーー。

 藍実教官はまず、それを理解し警戒するよう警告した。

 「次に、いくらフィリデイといえど能力には過信するな。お前たち個人が相手にできるフェアリエは、おおよそ2から5体程。これですら危険であり、そして何よりお前たちが一度フェアリエに囲まれると、その時点で我々がお前たちを回収できる術が無くなる。お前たち自身でどうにかできない限り、我々はお前たちを見捨て・・囮とし、戦線を後退せざるを得なくなる。故に緩衝地帯内におけるフェアリエの数には、常に注力していろ。もちろん俺からも指示を出すから、耳にかけたその無線機だけは絶対に落とすな。それがこの戦場において最も大切なものだ。」

 ーーーー基本的にフィリデイの戦闘は、2つ以上の隊に分かれ順々に防衛を行うよう指示されている。そのため仮にどちらかが危険に晒された場合は、待機している神子隊が助力することでこれを解決する手法が取られることもある。ただし現場が助力不可・・つまり助力が意味をなさず神子隊全員に危険が及ぶと判断した場合は、地上にて戦闘を行う神子隊の内、回収可能な人数だけを回収し、残りは見捨てる形となる。

 またあるいは、ここで機動部隊の後退が間に合わないと判断された場合には、未回収の神子隊を残したまま制圧射撃・・及び爆撃隊と砲兵隊による弾幕投下をが実施される。・・・これは文字通りフィリデイを巻き込む攻撃であり、故に多くの指揮官がこの手法を取ることはまずない。その結果としてこの事態を多くのフィリデイ・・並びに一般兵士は知らずにいるが、しかし作戦指示書には確かにその手法が「”最も安全に事態を打開できる作戦手法”」と記されていた。

 そして藍実教官は、本来なら多くの指揮官が黙るこの作戦を”803にのみ”真正面から伝えているーーーー。

 「いざとなったら、伝えてある通りだ。俺はお前らの上官として、お前らを犠牲にすることも厭わない。それが嫌だと言うのなら、しっかりと指示を聞け。そして驕るな。お前たちは強いが、しかし”自分が人であること”を忘れるな。無理をせず、お前たちの命を優先しろ。今時戦争において、”フィリデイこそが最も価値ある存在”だからな。・・・俺からは以上だ。」

 ・・・その場において、藍実教官は確かに803たちを犠牲にするだろう。しかし本心としては、きっとフィリデイの命を優先し一般兵士の命を犠牲にする。

 教官の言葉は、それを暗に伝えているような気がしたーーーー。

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