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(破棄)火玉  作者: 椿 木春
人魔大戦、初期前夜
2/67

【SK】生まれたての✕たちは

 「なに・・これ・・・。」

 それは心の奥底から出た無意識の呟き。ショーコちゃんも私も、ただその映像に思考を奪われ続けた。

 『終末の喇叭が吹かれたというのでしょうか。この惨劇はまさに今、ウーラン大陸南東部で発生している出来事であり・・・・』

 「フェイク映像・・・だよね?」

 どうだろうか・・・。確かに機材さえ揃っていれば、現実と区別がつかないフェイク映像は簡単に作れてしまう。けど・・でもそういうのは大抵の国で規制の対象になってる。

 ・・・いや、でもこの映像の出処はウーラン大陸。あそこにはまだ無法地帯みたいな国が少なからず残ってるし、何の目的かは知る由もないけどこういったフェイク映像を作ってばら撒くことは容易に可能。

 それだけじゃない。そもそも規制されているからって、『フェイク映像が流されない』と『それ(規制されていること)』はイコールで結びつかない。

 まあこの映像は、明らかに空想の範疇がすぎるけど。

 でも製作者陣が「これは本物です。」って嘘ついたなら、それは国家を煽る行為に他ならない。なにせ「お前の国は滅びる。」って意味に捉えられるから。

 昔に比べたらウーラン大陸もだいぶ発展したらしいけど、それでも未だに黒魔術とか呪術といったオカルト部分は根強く残っている。そんな国々に対してまるで啓示かのように滅びを告げてしまうと、それを本気にされかねない事態に陥る。

 大抵の国であれば、国家としての体裁を守る為に牽制してくるくらいだろうけど・・・でも力を持ったオカルト国家ともなれば最悪、戦争を引き起こす引き金となるかも・・・なんて・・・。

 世界は未だに、混沌とした時代を生きているらしい。秩序を保ってるっぽく見えるのけど、それはあくまでも表面が綺麗に覆われているだけ。

 まったくもって人間らしいなぁ・・・なんてありきたりな独り言を入れてみたり。

 誰もが手を取り合える世界なんて、やっぱり夢物語であって実現不可能な理想論だよ。なのに人類はそれを求めて・・・。

 平和の為に造られた秩序機関・・・『世界連合』は、世界平和と人類発展を掲げた。だから加盟国であったウーラン大陸の国々を時間を掛けて発展させていった。でもその結果が、前時代的な外交手段である『戦争』をポンと引き起こしかねない国家群への成長だった。

 発展と平和の為には必要なこと。これは通過儀礼として受け入れるしかない。いくら大国が圧をかけても、神様を信じ大義を得た盲信者たちは止まることを知らない。

 だからこそ・・・「旧時代に取り残されてれば良かったのに・・・。」なんて考えてしまう人が、多くいたんだと思う。

 『・・・・現地ではこれを神罰と呼ぶ声が強まっているようです。またオルマラ教信者が神の代行者として、人狩りを始めたとも叫ばれている模様。既にウーラン大陸全土はカオスの余波に包まれたとされており、世界連合はウーラン大陸への立ち入りを一切禁止にしました。またウーラン大陸とシグミア大陸を繋ぐ唯一の陸地、パストポロスディベルを封鎖したとの発表がありました。』

 「だってさ。亜東あずま政府だけじゃなくて世界連合まで動いたんじゃ、もうフェイクとは言い難いね。」

 「まじか・・・。え、じゃあどうなるの?」

 「知らなぁい。」

 「世界の終わり?」

 「終末の喇叭らっぱが吹かれたらしいし、あり得るかもね。」

 「やっばぁぁい・・・。」

 「ま、あと6つ残ってるから。それまでは大丈夫大丈夫。」

 「じゃないでしょ。ひとつ目吹かれた時点で滅びが確定したじゃぁん?」

 「だ、だだだ大丈夫大丈夫。ま、まだ救いは残ってるって。きっと・・ね?」

 「ふっ・・・。だといいね。」

 「なにその真犯人風。」

 「真実はいつもひとぉつ!」

 「それは探偵側が言うことでしょ。」

 「事実はひとつしかぁない!運命は全てを知っているのだかぁら!」

 「急にどうしたの?」

 「まぁまぁ、いいじゃん。取り敢えずさ・・学校行こ。」

 「ああ・・うん。そろそろ時間だもんね。」

 結局のところ私もショーコちゃんも、嘘半分でしかこの事実を信じていなかった。真実なんてどうでも良かった。だって私たちは、ただずっと一緒にいられればそれだけで良いから。

 世界がどうなろうとも、どんな荒事に巻き込まれようとも。生きて死ぬまで。ショーコちゃんとずっと一緒にいられるなら、それでいいと・・・私たちの心根が抜け落ちることは決してないと、私は確信している。


 「おはよう!お二人さん!」

 「おはよ、エリカちゃん。」「ん、はよ。」

 エリカちゃんは今日も明るい。

 なんならちょっと熱い。

 熱が空中飛んで伝わってきてるんだけど。

 熱放射してる?

 通常時の百倍くらい元気になってるせいかな?

 もちょっと抑えてくれませんかね。

 「ねぇねぇねぇねぇ!ニュース見た?すごかったよね?やばいよね?なのに学校に来てるわ、た、し、た、ち。おぉぅぢぃーざぁす!呑気すぎて困っちゃぁう!」

 怒涛の気迫はまるで太陽が落ちてきたようで、ちょっと私の方が困っちゃぁう・・なんだけど。

 というか元気百倍なのはこれが原因か・・・ってなんでこの状況下でテンション上がってるの?

 脳内における情報を認識するごとに元気が倍々にしていく体質なの?

 やば。

 危険な物質とか出てない?ってそれだと生物としてバグりすぎてるか。

 いや・・でもあり得るね。

 だってエリカちゃんだし。

 流石、元気溌剌の言葉が一番似合う子。

 はッ?!まさか人間じゃない?!

 なんてこった。なら尚更納得だなななな。

 「呑気なのはエリちゃんの方だね。テンション高すぎ。バグった?」

 ほら。ショーコちゃんも人間か疑ってるよ。

 あ、いや違うか。

 これはあくまでも人間の範疇として、エリカちゃんのテンション感が今までに見たことない程ぶち上げになってたから・・・に対しての「バグった?」だよね。

 わかってるわかってる。

 「かもぉ!朝のニュース見て以来頭の中やばいしか出てこないの!熱が上がってくぅ~!」

 思考放棄したら何故か頭が茹だるんですが?だそうです。

 どういうこっちゃねん。

 知恵熱って普通、思考が巡りすぎた結果起きる現象じゃないんですかい・・・。

 あや・・・いやそうか。

 今のエリカちゃんは思考が巡りすぎた状態にあるのか。

 だからいつまで立っても「やばい」以外の単語が湧いてこないと。

 なるほど。

 「取り敢えず落ち着いて。」

 そうだよ落ち着いて。

 ビークール、ビークール。

 まずは頭を冷やすんだ。

 会話の続きはそれからダヨ。

 「その通りだ、"光の天使"よ。現状で動いた軍は、ウーラン大陸に属する国家の軍隊だけ。どこもかしこも旧式の兵器しか有していない前時代国家さ。それに対して、世界にはまだまだ強力無比な国々が残されている。教えてあげよう。」

 大手を広げながら会話に割り込んできたのは田中君。さっきまでは同志と呼び合っている佐藤君と話してたみたいだけど、どうやら熱に浮かされて自制心を無くしてしまったみたいだ。

 普段なら女子同士の会話に割り込んでくるとか絶対にあり得なかったのに・・・。

 なにせ慌てふためいて会話すらできずにゴニョゴニョ状態へと陥るから。しかし・・・。

 まったく。君も君で熱くなるんじゃないよ。

 ショーコちゃんもちょっと引き気味だよ。

 気づけ!

 あ、エリカちゃんは興味を示してるぞ!

 続けろ!

 「自由を掲げ、正義を掲げ。自国繁栄こそが第一の主義。今尚揺るぎなき覇権国家として君臨し続ける最強国家!ホヘト合衆国!

 衰退したかつての大国たちが再び燃え盛る!長年戦争の中心点として争い続けた国家群がついに和解を打ち立てた!不可侵!非戦争!互いに手を取り合った先で完成された一大組織!大シグンド連合!

 敵の敵は味方理論!表面上闘う理由が無く!また互いが互いの繁栄材料と成り得!多少のわだかまりはあれど今や共栄を宣言した身!圧倒的人口!独自文化の塊。歴史に埋もれたかつての願いが今再び呼び起こされた!東サミア地域に掲げられた共栄の旗を見よ!東サミア共栄国家群!」

 これで終わりかな。

 一応西サミアの方にも国家群はあるけど、核兵器を除いた戦力比で見てみるとどうしても少しばかり見劣りする。けど豊富な資源を抱えた国家を有しているから、下手な手出しは自傷を招く。

 現在世界に存在する一大勢力は、大体この四つ。

 あと秩序維持の為の国際組織として、世界連合があるくらい。因みにこの世界連合には、現存国家すべてから正式な国家として承認されている国、その全てが参加している。非加盟国は無し。補足は以上!

 「ふぅ・・・。」

 「終わり?」

 「ああ、そうだな。だがまあ、『アルボム・アルジェーントゥム・ドラコ』を前にして全ては無力。白銀の龍たる僕にかかれば、全ては迅速に終結するだろう。しかし、クソッ・・・。僕は真なる姿も力も封印されてしまっている。嘆かわしいことだ。世界の危機に傍観者でいるしかできないとは・・・。」

 そうして田中君は歩き去って行った。

 アルボム・アルジェーントゥム・ドラコ。それが彼の真名。彼の真なる姿は白銀の龍そのものなのだ。

 彼は命星エルダ創生初期に星の核となった神、『ヤレマ』を敬愛していた。故にヤレマに仕える天使たちの軍隊、『生命の夜明け(ウィルローラ)』と共に、ヤレマの願いを叶えるために尽力した。

 誰もが一度は読んだことのある命星エルダ創生物語。それは命星エルダ創生期を描いたとされる偉大な神様とその臣下たちのお話。

 しかし命星エルダ創生物語に彼の名は出てこない。2体の龍は名と共に姿が写し出されているが、彼の名と姿は何処にも出できていない。それについての言及は避けてほしいと田中君は言った。

 紡がれた物語では一切語られることのない、忘れ去られし白銀の龍。アルボム・アルジェーントゥム・ドラコ。彼は一体何者なのだろうか・・・。

 ・・・じゃないよ。ってダメだダメだ。関わっちゃいけない。関わっちゃいけない。よし。

 「あーーー・・・席、戻るね。」

 「あいよ。」

 放心状態に落ちたエリカちゃんがユラユラと歩き始めた。

 オーバークールしちゃってるじゃん。

 元気が取り柄のはずが冷めちゃって静かに・・・。

 ま、いいか。

 落ち着いたってことで。

 「・・・コトミちゃんはああいうの好き?」

 「ん?」

 「ほら、厨二病。」

 「あ~・・・まあ聞く分には?いや、人によるのかな。田中君と佐藤君はなんだかんだ言って設定練ってるっぽいから、聴いてて飽きない。他の患者さんに関しては・・・そもそも会ったことないから。」

 「そっか。」

 「ショーコちゃんは?」

 「ん〜・・・楽しそうで何より?かな。」

 「興味無しなんだね。」

 「まあそうだね。あ、でもコトミちゃんがやってくれるなら一緒に楽しめそう。」

 「2人でなら、まあ。」

 「ならば今宵、夜のベッドで語らうとしようか。"姫"。」

 「はにゅッ!」

 襲われちゃう!

 「呼んだ?」

 姫華ちゃん?!

 「呼んでない、ゴーバック。」

 「むきゅッ!」

 あ、窓に顔挟まれてる。

 可愛い。

 「はぁ。邪魔が入っちゃった。」

 「なんかごめん。ほら、名前呼ばれちゃったからついつい・・・。」

 「まどろっこしい。改名してよ。」

 「いきなり?!ヒメ、ショック!でも・・ホントにごめんよぉ〜。」

 「ま、許したげる。」

 「ありがとぉ!お礼にチョコボールあげる。」

 「4つね。」

 「その倍。はい、ど〜ぞ。」

 「ありがとう。」「ん。」

 「じゃあね。ショウコちゃんにコトミちゃん。」

 「終わり?」

 「うん!」

 窓枠の向こう。廊下側から突然に現れた姫華ちゃんと蓮花ちゃんは、そうして去っていった。

 「タイミング完璧だったね。」

 「完璧すぎ。ま、チョコボールくれたし結果オーライ。」

 「今朝の内に情報売ったのかな。」

 「あ〜・・・流石に持参の方でしょ。それかお恵みか。というか売れる情報・・なんかあった?ここ最近は結構静かだったと思うんだけど。」

 「ショーコちゃんが知らないなら私も知らないよ。情報共有してるから。」

 「そうだね。当然だ。よし、エリカちゃんに聞こう。エリカちゃん!ちょっといい?」

 放心状態から覚めていたエリカちゃんが再びこちらへ。

 「どったのしたの?」

 「耳貸して。」

 「はいよッ。」

 「さっきヒメカちゃんからチョコボール貰ったんだけどさ、それが裏新聞組織の謝礼じゃないかって話してたの。」

 「なるほど。つまり聞きたいのはヒメちゃんが何かしらの情報を売ったかどうかってことね。今日中に当たりつけるから待っててくれる。」

 「ありがと。これで答えはでそうだね。ま、エリカちゃんは特に知らなかったみたいだしハズレかな。」

 「そっか。・・・そうだね。」

 と思っていたけどお昼時のこと。

 給食を食べ終えブラブラと中庭を歩いていたところにエリカちゃんがやってきた。

 「いたいた。」

 「どーしたの?」

 「朝の続き。」

 「あ〜・・・あれ。結果は?」

 「ビンゴだったよ!」

 「おっふ、まじか。」

 「えっとね、一昨日の放課後5時過ぎのこと。場所は校門から左側道なりにある沼木の前公園、公衆トイレ裏側、更に進んだ茂みの奥。公園内に入らないと見えない死角だね。そこでとある女の子が夏君に告白したみたい。」

 「精密すぎ。というか夏君に告白って・・その子知らないの?」

 「いや、知ってたみたい。バッチリ録音されてた。内容については一言一句余すこと無く裏新聞に掲示されるっぽいけど・・・今聞く?」

 「聞きたいかも。その哀れな女の子の証言を、ね。」

 「要約すると、これからは友達じゃなくて彼氏になって欲しい。檜呉ひくれ君とは関係上彼女の立ち位置にいるんだし、私の彼氏になっても問題ない・・・と。」

 「んんん・・・なんとも・・難解な・・・。そうか。確かに夏君は見た目女の子だし、檜呉君の彼女だし、なら彼氏の枠余ってるのねってことか。凄いなその子。」

 「だよね。エリもちょっと引いちゃった。」

 「で、その後は?」

 「もちろんノー。夏君だしね。まあでも多少迷ってたみたいな。それも合わせて裏新聞に載せるみたい。」

 「迷惑組織極まれり・・・。」

 「まあ需要は尽きないから。」

 「というかヒメカちゃんはどうやってその情報手に入れたの?あの時間帯のあの場所って、人の目が存在しないような気がするんだけど。」

 「あ〜・・・他言無用ね。」

 「わかってる。弁えてる。」

 「えっと、リオナちゃんがその時間トイレを"使用中"でね。それでまぁいきなり外で声がしたと思ったら告白タイムが始まったものだから、これは大チャンスってことで録音したみたい。それを材料にヒメちゃんと何かしらの交渉した結果、ヒメちゃんの手にチョコボールとその他複数のお菓子が渡った次第。」

 「極悪だぁ。魔境だぁ。沼須乃木中学校には悪魔が住み着いているぅ・・・。」

 「まぁ・・・否定できない・・ね。うん。」

 「ありがとう。聞かなきゃ良かったけど聞けて良かった。はいこれ、お礼のお菓子。」

 「まいど!」

 そうして話しは終わり、エリカちゃんは校舎の方へタッタッタと駆けていった。

 「地獄の様相だね。」

 「言っちゃダメだよ。みんな我欲の塊だったでけだから。」 

 「自分の恋のために三股を持ちかけた女の子。何かしらの対価を求めて盗聴を行ったリオナちゃん。お菓子の為に情報を売り払ったヒメカちゃん。終わってるよ。いや、一番終わってるのは裏新聞か。」

 「私たちも追われたもんね。」

 「あれは苦労した・・・。あ、ダメだ。思い出しちゃいけない・・・うぅ・・・。」

 「疼いちゃう?」

 「そそ。あんなにも爽快感を感じたのはあの一度きりだったから。」

 「綺麗なボディーブロー、決めてたもんね。」

 「鉄拳制裁ってね。まああの時に比べて、今の裏新聞はだいぶ大人しくなったよね。」

 「そう?」

 「違う?」

 「いやぁ・・どうだろ。ああ・・でも確かに、結局去年の3年生が一番荒れてたから。それが居なくなったことで裏新聞組織と情報売買行為の統率は取れてるみたい?だから・・・うん。表面上大人しくはなったのかな?」

 「まぁそっか。内容自体はいつも通り過激だもんね。プライバシー皆無。見つかれば1から10まで全て覗き見アンド掲載。これで大人しいって言う方がアレか。」

 「飢えた狼ではあるけど、躾されて飼い慣らされてるだけマシ。去年の3年生は首輪もなく学校中に放たれてた・・とも考えれるから、やっぱり全体的に大人しくはなったはなったと思う。でいいと思う。」

 「・・・なんかややこしくなった。」

 「忘れよう。私たちにはもう近づかないって誓約立てさせたし。」

 「そだね。」

 

 「きりーつ、きょーつけ、れーい!」

 「「さようなら。」」

 「はい、さようなら。皆さん気をつけて帰ってくださいね。」

 ホームルームが終わり、ガヤガヤと雑音が湧き始める。今日の学校もいつも通りに過ぎていった。朝のニュースも今じゃみんな忘れているような・・・。結局あれは何だったのか。気になりはするけど、今は取り敢えず家に帰ることにする。どうせ今頃、追加情報を速報で届けてくれてるだろうし・・・ーーー。


 戦争は、より過激なものへと移り変わっていく。長く続くほど疲弊は募り、なのに敗北への調印が受け入れ難い状況へと置き換わってしまう。だけど人間同士の戦争であれば、いずれ終わりがもたらされる。人が人を殺しきる前に、ひとつの終わりを迎えることができる。

 今の私たちが置かれている状況から見るなら、そんな破滅的な在り方もひとつの救いなのかもと感じてしまう。それくらいに、人間が立たされた今現在の状況は酷く絶望的だった・・・。

 ・・・光の灯る画面に、またしてもそれが映し出される。

 それは白かったり、灰色のようにくすんでいたり。そのせいか赤がとにかくよく目立つ。

 目は無く空洞となっているように見えるが、しかし同時にその2箇所が、真っ黒く塗りつぶされているだけのようにも見えてくる。

 不規則に並べられた棘は口の中をぎっしりと覆う牙となり、垂れた舌が棘に突き刺されたまま血を流す。

 別の個体は口が見えず、長い布の様に垂れ下がる皮膚が頭と顔全体を覆い隠してしまっている。

 四足歩行か二足歩行か・・・。そこに確かな境界は無く、しかし直立型か前傾型かである程度は決まっている様に見て取れる。

 手足は見てわかるくらいに長い。そして指先になるにかけ太くなる脚は樹木のようで、逆に指先にかけ細くなる腕は木の枝の様に見えてくる。

 説明の限りで1メートルから3メートルくらいの身長があるらしい。

 そんな化物と今、人間は戦争しているらしい。

 「外生命体。未確認生命物体。侵略者。白い天使。灰の化け物。・・・総称命名。正式名称フェアリエ。人間を餌として捕食。そして栄養を溜め増殖を繰り返す異生物。神罰代行者。神の使い。悪魔。・・・・時間が立つごとに呼び名が増えていくね。」

 「捉え方は千差万別。人の数だけ形が生まれる。」

 「けど取り敢えずは、フェアリエが正式な名前ってことになったね。」 

 「うん。・・・・あ・・壊滅。」

 今しがた、西サミア連盟から派遣された軍隊がウーラン大陸で壊滅的被害を負ったとの速報が入った。

 「やばいね。」

 「・・・・ん。・・・ばい。」

 朝のニュースから今に至るまで。取り敢えずたくさん見返したりまとめサイトに飛んだりしてみたけど、結局出てくる言葉はやばいの一単語だけ。そこに全ての感情が乗せられる。絶望的状況。世界の終わり。人間の絶滅。終末の始まり。そこから生まれる恐怖、不安、焦燥、放心。

 深夜だというのに、目が冴えて仕方ない。

 「・・・・スピィーーー。」

 あ、寝ちゃった。

 毛布に包まれた中で、ショーコちゃんが寝息を立てる。

 ごめんね、ここまで起こしちゃって。

 その後勝手に意識が落ちるまで、私はスマホの画面と睨み合いっ子を続けた。

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