09.触○プレイ、媚○漬け
サミア戦線は、南サミアの戦闘を行いやすい海岸を起点とし、そこから北上及び西方へ向かうルート・・・ただしここらは山脈が多い地形の為なるべく山脈を避け、その上で傾斜は無視しフェアリエの侵攻ルートに対し直線的である地形・・・を利用し通り、中央や中東のサミアと接する特殊な水域(自然上は湖だが、国際法上及び経済的に海と認められている水域)の北東部辺りを終点としている。そのため形としては十字に4分割した円の右上の形に近い。
そしてこの戦線を、言語や全体的な力量をもとに各国が合同で対応するために、南部の海岸から第一、第二、第三・・・と続き、特殊な水域付近に第八防衛線が敷かれている。
これらを前提とした上で、海を・・・正確には広大で深い水域を・・・渡れないとされるフェアリエは、この特殊な水域を渡ってこれず、加え第八防衛線の西側は特殊な水域が相当な距離で続いているため、フェアリエの侵攻ルートとして最も近距離に位置するのが第一及び第二防衛線であり、第八防衛線は他戦線に比べ戦闘開始時におけるフェアリエの数が少なく、尚且つ戦闘開始時間も若干遅い。・・・とはいえこれらは多少であり、なによりサミア戦線の形は、密集し侵攻してくるフェアリエを分散できるという利点がある。
そんなわけで、朝に弱い・・というよりも睡眠時間が長い言身や昇子は、ゆっくりと眠ることができた。
そうして朝・・・ついに来た今日この日を前に、うとうと・・としながらも言身は服を着替える。
「・・・はじまうね・・・。」
目を擦りながら昇子に肩を預ける。
「・・・ふぅぁ〜・・あ〜・・・・だね〜・・・。」
昇子は呑気に答えた。
そんな2人をエリカが引っ張る。
「ほら!2人とも!行ーくーよー!!」
エリカに連れられ、言身たちは若干はだけたまま集合場所に辿り着いた。
「ちょッ・・2人とも・・・。」
シノが近づき、2人の服を直す。
「これで、よし。うん、バッチリだね。」
満足したシノは元の位置に戻った。
「ほら、整列。」
2人を移動させてから、エリカも整列した。
「・・・呑気なのは良いことだが、気を引き締めろ。」
待っていた藍実教官が声を張り上げる。
「今日から始まる戦闘は遊びじゃない。怠けていると殺られるからな。」
その後も少し話が続き、ようやく解放された言身たちはいつでも出撃できるよう、軽い運動を行った。そしてーーーー。
ーーーーキチキチキチと・・芋虫が持ち得る牙で脳みそを食い散らかされているような音が聞こえる。
それは私の頭の中にだけ響く鳴き声で、それがずっと反芻している。とても悍ましくて気持ち悪い・・筈無のに・・・どうしてこうもゾクゾクするのか・・・・。
・・・頭が中からはじけてしまいそう・・・。
少しだけクラッ・・っときた。
・・・平常心・・・平常心・・・。・・・大丈夫・・落ち着いて・・・。
数回深呼吸を挟み、言身は目を見開いた。
「よし。」
皆がヘリから飛び降りていく。そして最後に言身も飛んだ。もちろん昇子と共に。
「うひゃ!」
昇子が愉しそう声を上げた。
空気が体を押し上げているのがわかる。しかし人の重さを支えきることは到底不可能だから、体はそのまま落ちていく。・・・とても不思議な感覚だった。
もちろん、5メートルほどの高さ飛び降りること自体は初めてではない。既に訓練で幾度も試していたから。・・・けれど戦場においては初めての行動だったためか、少しだけ感じ入るものが違うと感じた。
人の身では感じ取れなかった情報が、フィリデイとなり知覚できるようになった。おかげで世界そのものが一変した。ただそれだけでなく、心の変化も機敏に感じ取れるようになったらしい。
「ヤーヤー!」
言身と昇子を受け持った先輩フィリデイ・・アオシャンが大きく手を振る。
「ショーコちゃん。」
「わかってる。行こ。」
そうして2人はアオシャンと合流し、そのまま定位置へと向かった。
「ゴーゴゥーォ!」
真剣な面持ちの言身を尻目に、アオシャンはテンション高めに愉しそうな雰囲気を醸し出していたーーー。
各自配置についた803の皆と先輩フィリデイたちが、一様にインシーニェを握りしめる。
「うわぉッ?!」
言身が・・そして803の皆が驚きの声を上げる。・・・各自のインシーニェの持ち手の上部辺りに寄生?しているかのような白い肉塊が、枝のような触手を伸ばし握られた拳に絡みついてきたからだ。
もちろんこれも事前に通達されていた現象である。ただ、インシーニェは戦場に来て初めて手にすることができた代物であり、そしてインシーニェ本来の形を実際に体験したのはこれが初めてであるがために、さすがにちょっと気持ち悪かった。
ーーーーインシーニェは基本的に、張り付いた肉塊以外は通常の武器とさして変わりない。そのため普段の運用の際はただの武器でしかない。しかしこれをフィリデイが握り、そしてフェアリエの存在を感知すると”共鳴”を起こす。・・・インシーニェに張り付いた肉塊は息を吹き返した生き物かのように蠢き始め、その細胞一つ一つが活性化を促され、伸縮自在の触手が芋虫みたく・・あるいは浮き出た血管の如く前腕にまで這い上がってくる。そうして初めて、”本当の意味”でフィリデイという名の決戦兵器は完成される。
なお寄生されている間は筋肉と融合しているが、融合に際して痛みが伴うため、これを麻痺させるために即効性の高い薬液のようなものを分泌する。・・・その副作用か、痛みではなく、フィリデイとなった際に感じたあの快感に劣るが近しい状態の快感が全身を駆け巡ってしまう。
またインシーニェが一度目覚めてしまうと、起動時よりもさらに遠くへとフェアリエが消えてくれない限り、前腕に寄生する触手が剝がれることは決してない。仮にもし無理にでも剥がそうとすると、前腕の一部ごと引きちぎることとなるーーーー。
「なんかちょっと癖になるね、これ。」
「ない。」
昇子の言葉を言身は即座に否定した。・・・ただ、今はとても心地が良い。先程まで聞こえていたあのキチキチ音は何処へやら・・・。
世界が暗転したかのような静けさを前に、言身の心はただ平穏に包まれていた。
・・・ああ・・これ・・・・好き。
この静けさが一生続いて欲しいと願う程に、心地よかった。・・・そしてこれは昇子も同じだった。
ーーー言身の満足そうな表情を見て、昇子も満足したと笑う。
「・・・なに・・?・・・別にいいじゃん。」
言身の言葉に、昇子は再び笑う。
「んふふ、そうだね。」
「クルーよ。イイーね?」
アオシャンの言葉に2人が正面を向く。
「ミテーて・・・ね!ふんッ!!ラッ!チャァァァ!!!!」
正面から迫った1体のフェアリエを、アオシャンは縦に綺麗に切り裂いた。そして雄叫びを上げた。
「コトミちゃん!」
「大丈夫。」
真っ二つになった肉塊は慣性に従いそれぞれが言身と昇子の元へ。・・・2人はそれをさらに2等分し、結果4つの肉塊が後方へと飛び散っていった。
・・・すご。
あまりの切れ味に快感を覚える。まるで高級霜降り肉を天才職人が仕立てた切れ味バツグンの包丁で切り裂くような感触だった。ただ・・・。
・・・見た目皮膚と骨しか無さそうなのに・・・。
骨すら容易に断ち切るあまりの鋭利さに、若干引いてしまったような気もする。・・・正直、押し負けさえしなければ鋼鉄も容易に切断できそうだった。
「ツギツギ〜・・イッショ〜にヤル〜よ〜。」
言ってアオシャンは言身と昇子の真横に立つ。・・・これで正面から迫るフェアリエがアオシャンに誘引されることはなくなり、言身も真っ向から戦える状況となった。そして目前には2体・・・少し離れて4体のフェアリエがこちらに迫ってきているのを確認した。
「マエ〜の、ワタシ〜はミテ〜るね。」
アオシャンが一歩下がる。
・・・大丈夫・・大丈夫。
言身は心を落ち着かせ、視野を広く持った。
「・・・頑張って。」
普通に滑舌よく喋ったアオシャンに言身は驚く。
喋れたの?!
・・まあそれはいいとして、言身は迫るフェアリエの爪を避けながら武器を斜めに振り上げた。そしたらフェアリエは真っ二つに切れる。
しかしまだ息の残るフェアリエが力を振り絞り、鋭利な牙で言身を喰らおうと迫った。
言身は迫るフェアリエの頬に足蹴を入れて、そのまま体勢を崩したフェアリエをさらに細切れにした。
「ヤル〜〜・・グッジョブね。じゃあツギも行ってみよ〜。」
ーーーーそうしてアオシャンと昇子と共に、1日の初めの戦闘である第一撃を・・・そして言身たちにとっての初めての戦闘を難なく終えることができた。
そして再びの戦闘である第二撃、その次の戦闘である第三撃、また次の戦闘・・・と、少しづつ激しくなる戦闘を幾度と乗り越え、やがて西の空が夕焼け色に染まった。
・・・・止まった・・?
何が起ころうと走り続けていたフェアリエたちがその足を止め、夕焼け色の空を眺めていた。そして進行方向を切り替え、巣へと帰っていくのだった。
・・・そっか・・・これで・・・。
これで今日の戦闘に幕が下ろされたーーーー。
ーーーー「うす」区域戦線は今日のところ、一切の移動が無かった。そのためフィリデイが最も危険とされる殿役を任されることはなく、おかげで順調に戦闘経験を積むことができた。・・・しかしやはりまだ不安は残る。実際に殿役に直面した際、どれほどの対応力を見せられるかは未だ未知数だから。・・・それでもやはり、安定して戦闘経験が得られたという現状はとても素晴らしいことだろう。戦場に来て1日目で危険に晒されると、恐怖のあまり二度と戦場に立てなくなる者も多くいるのだからーーーー。




