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05.己の価値、すべき事

 今後についての話を終えた言身たちは教室を出た。

 ・・・今からでも陸奥先生に会えるかな。

 「コトミちゃん?」

 何かを感じ取った昇子が言身を見る。

 「私ちょっと寄りたいとこある。」

 察して、昇子は両親に向き直った。

 「ママ、パパ、先に帰ってて。私たちは歩くから。」

 「おっ、了解。それじゃあママたちは買い物してるね。今日はご馳走にするから。」

 「やった!」

 「ただ、夕食前にはちゃんと帰ってくること。間食は控えること。いい?」

 「もっちろん!」

 昇子は屈託なく笑った。

 「それじゃあ行きましょ、あなた。」

 「ああ。」

 妻に返事を返した父親が言身を見る。

 「言身ちゃん、昇子のことよろしくね。」

 「うん。」

 そうして昇子の両親は去っていった。

 「で、どこ行くの?」

 昇子が首を傾げ問う。

 「陸奥先生のとこ。この前の続き・・ちゃんと言わないと。」

 聞いた昇子は「どゆこと?」と理解できてない表情で首を傾げたが、取り敢えず納得し言身の横についた。ついでに手を握った。

 「・・・行かないの?」

 昇子がもう一度首を傾げる。

 「ああ、うん。行くよ。取り敢えず職員室かな。」

 言いたいことを改めてまとめながら、言身は歩き出したーーーー。

 扉を3回ノックし開く。

 「失礼します、陸奥先生いますか?」

 「ああ、ここに・・・って・・・」

 言い終える前に陸奥先生と目が合った。陸奥先生は扉を空けてすぐの場所にいた。

 「お前たち・・・。どうした?」

 「話したいことがあって・・・この前のことで・・・。」

 「そうか、なら部屋を移動しよう。生徒指導室でいいか?」

 「はい。」

 ーーーー生徒指導室へ移動してきた。

 「今回はお菓子がなくてすまないな。」

 「いえ、それはさすがに。この前のは特別だったってわかってますから。」

 「・・・そうか。それで?どうしたんだ?」

 聞かれ言身は一度深呼吸を挟み、しっかりとした眼光を陸奥先生に向ける。

 「陸奥先生は、やっぱり志願するべきじゃないって言いに来ました。陸奥先生の”戦場”はそこじゃないって思ったから。」

 陸奥先生は何を言うでもなく、ただ黙って真剣な眼差しだけを言身へ向けた。

 「陸奥先生は、厳しい人です。校則にはもちろん厳しくて、それ以外のこと・・校則に含まれてはいないけど、他の生徒や地域の人に迷惑をかけそうなことも良しとしない。だからいつも怒ってばっかのイメージがあるけど、でも実は優しくて・・・もちろんその優しさは自己主張が主体のものじゃなくて、ちゃんと相手を想って慮ることができる優しさで、つまり・・その・・・・陸奥先生がすべき事は戦場に赴いて戦うことじゃなくて、今後フィリデイとなる多くの子どもたちに寄り添ってあげることなんだって私は思ったんです。生半可で自分本位な優しさじゃ、私たちから悩みや迷いは取り除けない。陸奥先生のような人が”本気”で見て聞いて諭して怒ってくれて初めて、意味のある優しさを私たちは受け取ることができると思うんです。だから・・私は言いたい。陸奥先生の”戦うべき場所”は決して戦場だけじゃないって。」

 陸奥先生の表情はなんとも表現しにくいものだった。だが間違いなく、言身の言葉を聞いて、陸奥先生の心が揺らいだのは確かだろう。

 『よかった・・・私の言葉、届いた。』

 例え気の所為でも、これを伝えることができた。それだけで満足・・・な訳がなく、自身の行動にちゃんと意味がなければと、時間が経つほどに言身の心臓は強く脈打ち始める。

 昇子が言身の手を強く握った。

 『・・・ありがと。』

 ーーーずっと考え込んでいた陸奥先生がようやく口を開く。

 「そうだな。確かに・・俺は・・・見てなかったのか。お前たちのことを。」

 その事実を知って、陸奥先生は自嘲気味に笑った。

 「失望し焦るあまり、見えてなかったわけだ。・・・確かに、戦場に立つ兵士は有り余っている。現に国も、徴兵はすれど銃器の扱いとサバイバル術を覚えさせることを主目的としている。決して無理を押して戦場へ行かせようとはしていない。・・・なら、そうだな。確かに俺には俺の役割がある。いや、わかっていたような気もするよ。ただ、迷ってたんだろう。俺自身も。本当に俺なんかが役に立てるか?・・・とな。まあでも、言われたからにはやるしかないか。ありがとうな、寸生子。・・ふっ・・まさか生徒に教えられるとは・・・・。」

 「陸奥先生なら信用して任せられます。」

 「俺たちはあまり関わりがないはずだろう?」

 「まあ確かにそうですけど、でもずっと見てはいましたから。話さないだけで。」

 そう。陸奥先生は生徒の多くが知る先生だ。だから多くの生徒が陸奥先生の人となりを知っている。私もその内の一人であり、そして直接触れ陸奥先生の在り方に嘘偽りないと知ることができた。だから信頼を寄せることができる。

 「・・・そうか。・・・そういうものか。・・・俺は案外好かれているらしいな。昔は嫌われるも同然だと考えていたんだが・・・。」

 「それこそが理由ですよ。私が陸奥先生を信じられる一番の。」

 「・・・そうか。・・・そうだな。ありがとう。」

 陸奥先生は全てを素直に受け止めた。

 そうして2人は話を終えた。昇子は・・・結局ひと言を発さなかったーーーー。

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