04.価値ある存在、定められた運命
適性検査を受けてから1週間が過ぎた。陸奥先生とはあれからひと言も話せていない。ただこの1週間のおかげで、陸奥先生が戦場へ行くべきでないと諭すことができるだけの理由は見つけた。これでもう、否定だけで終わることはない。ちゃんと陸奥先生の深く根ざした心境を変えてやることができる・・・はず。
「寸生子さんはいる?」
教室の扉が開き呼ばれた。
「ます。」
廊下に並べられた椅子から立ち上がり、名を呼んだ人・・・つまり私の担任である朝香先生を見る。
「入っていいよ。藤依さんとご両親は少しお待ちください。」
「わかりました。」
ショーコちゃんのお母さんが了解の意を返して、お父さんは頷いた。
けれどショーコちゃん本人は口をあんぐり空けて不満げな表情をしていた。
「待ってて。」
「イヤ。」
速効で反対された。
「いやいや・・・ね?」
「・・・意味ないじゃん。どーせ後で話すのに。」
「確かにそーだけど・・・。」
「ね?」
「昇子、あなた・・・・はぁ・・・。」
ショーコちゃんのお母さんが額に手を当ててため息をつく。
「えっと・・ごめんね藤依さん。貴方たちのことは先生もよく知っているけど、今回のことはまず寸生子さん一人で聞いて欲しいことだから・・・ね?」
朝香先生は苦笑いをしながら、私を一人で呼んだことにもちゃんと理由があるから・・・と。おかげでショーコちゃんもおとなしくなった。
「・・・わかりました。」
だいぶ不満そうだけど納得してくれた。ほんと・・めんどくさい。
「じゃあちょっと待っててね。」
「ん。」
朝香先生が先に教室へと入り、私も一度ショーコちゃんへと手を振ってから教室の中へ。
「それじゃ、まずはこれを。」
言って渡されたのは適性検査の検査結果書。
『氏名/寸生子 言身。年齢/14-。判定/A。適性値/100オーバー。』
検査結果という見出しの下にはまずその3つが書かれてあって、さらにその下には各判定における適性値区分だったり、適性者のイコル接種に関する注意事項だったりが書かれていた。
これ・・・100オーバーって・・・・すごいことなんじゃ・・・、…
「えっとね・・・寸生子さん。貴方の適性値・・100オーバーっていうのは、本当に稀な存在らしいの。確か聞かされた話だと、フィリデイ全体の1%に満たないみたい。」
やっぱりすごいことなんだ。・・・・なんで私が・・・・。
その瞬間の私の心を表すなら、驚き半分、不満半分と言ったところか。
正直こんな結果は望んでいない。確かに検査を通ること自体は望んでいたけど、だからってこんな特別な結果を欲していたわけじゃない。
「それでね、寸生子さん。実は貴方には、フィリデイとなって戦場へ行く行かない以外にも選択肢があるの。だけど・・・・。」
言われて気づく。
上から下へと流し見ていた検査結果書の下辺りには、フィリデイとなることの可否。また上記選択に際し戦場へ赴くかという可否。この2つが書かれている。これは恐らく適性検査を通った他のみんなにも書かれていることだろう。ただその下にはさらにもう一つの選択肢が書かれていた。
『適性値100オーバーを記録した適性者たちへのフィリデイ研究参加協力可否。
現状におけるフィリデイはまだ研究途中段階にあり、最低限の安全を確保したにすぎません。加え膂力や再生力の上昇幅も現状不完全であり、今後の行く末、さらには犠牲者を減らすためにも、貴方様の力を我々は必要としています。
詳細情報は秘匿性確保のため直接お会いしてお話しします。尚、大変申し訳ありませんが、研究参加協力の可否は関係なく、まず一度研究所へお越し頂きたく願います。
”研究所来訪の日時は貴方様にお任せます”。
そちら方の教師とは既に話を通してありますので、決まり次第、指定された日時に従い貴方様へと迎えを出します。』
・・・えっと・・要はフィリデイのことをもっと知るための研究協力ってことでいいのか?・・・ただその研究内容はまた後で話すとして、取り敢えずまずは研究所の来てくれ・・と。あとその日時は私が決めていいと・・・・。
「・・・っていうことなんだけど・・・長ったらしいよね。えっと・・取り敢えずそれは一度置いておいて、まず寸生子を一人で呼んだ理由について話してもいいかな?」
「うん。」
「まず最も重要なことなんだけど・・・寸生子さんのお母さん・・は、確かゼロイチ患者だったよね?」
少しだけ申し訳なさを滲ませながら聞かれた。
気にしなくていいのに別に・・・。
「ん。そう。」
「・・・実はフィリデイやイコルには、どうもゼロイチ患者との何かしらの関係性があるみたいでね?」
その言葉に私は驚きを隠せなかった。けれどその驚きは、決して母親が助かるかもしれないという希望から生まれたものではなく、ただ単純に想定外の事を聞いたからだ。ただそれだけのこと。
「それで、適性値が100をオーバーしていて、尚且つ肉親にゼロイチ患者を持つ適性者ってことで、寸生子さんには特に研究への参加協力を求められているの。」
「絶対ってこと?」
「いや、任意だよ。寸生子さん自身で決めていい。・・・けど、もし少しでも気持ちがあるなら、お願いしたいってだけかな。・・・それに研究への参加期間も、寸生子さんが自由に選択できるみたい。だから・・・・」
朝香先生が少しだけ止まって、再び口を開いた。
「寸生子さんは戦場に行きたい・・・んだよね?」
既に一度・・検査日に聞かれたことを、再びここでも聞かれた。
「うん。」
私の頷きに朝香先生は下を向く。しかしすぐに視線を戻し話を続ける。
「・・・うん・・それでね、要は戦場に向かうにしても、まず半年・・・あるいは一年。もっと短くするなら一か月か、言ってしまえば数日だけでも研究協力して、それから戦場に向かうこともできるってこと。・・・ただ本当に、これについては・・・これ以外のことも全て寸生子さんの自由だから・・取り敢えずまずは藤依さんとも話し合って決めて欲しい。それで決めたら、先生に教えて。」
「うん。わかった。」
「ありがとう。それじゃあ次いくね。」
「ん。」
「さっきも言ったけど、フィリデイとゼロイチ患者には関係性があって、研究者たちは今それも含めて研究を行ってる。ただゼロイチ患者自体数が多くなくて、そして寸生子さんみたいに肉親が適性値を振り切っているゼロイチ患者はもっと少ない。だから・・・その、研究所は寸生子さんのお母さんにも研究所に赴いて欲しいと願っていたの。」
私のお母さんを実験台に・・・。
「だけど寸生子さんのお母さんは今完全な植物状態で、尚且つ肉親は寸生子さんただ一人。つまり寸生子さんが許可一つで、寸生子のお母さんが研究対象に含まれることになるの。」
そっか。・・・お母さんの今後は私が・・・。
「もちろん安全は保証されてるし、今後必要になってくる医療負担費も全額免除される。それに何より、研究所の医療施設は最新の技術が揃えられているから、だから・・・その、研究所の人たちからはこれも合わせて是非説得して欲しいって頼まれているの。だけどこれも結局は寸生子の自由。寸生子さんが望む形で決めてくれたらいいから。」
・・・私は別にいいんだけど。・・・お母さんのこと・・・好きじゃないし・・・。
それに今後の医療費全額免除はとても重要だ。今現在、そして私が成人するまでは、お母さんの医療費は国が補填してくれる。けどその後は、全て私の自費。ゼロイチ患者に保険は適用されないから、お母さんを生かすために相当な費用が必要になる。
もちろん対応策はちゃんと用意されている。医療費が払えない。けど死んで欲しくない。そんな人のために用意されている選択肢は一つだけで、ゼロイチ患者を、もちろん生存は保証した上で実験対象とすること。また体内機能停止時、つまり死亡時に解剖を許可すること。今後も増え続けるであろう患者の為に礎となってくれというもの。
まぁ、それと今のこれとで何が違うのかはよくわからないけど、どっちみち選ぶであろう選択肢は変わらないから。
「お母さんのことに関してはお願いします。・・・って伝えておいて・・・でいい?」
「・・・わかった。それじゃあ・・・数日以内に寸生子さんのお母さんは研究所に運ばれると思うから、その時寸生子さんも一緒に研究所に赴くって感じでいいかな?」
「うん。それでいいよ。」
「わかった、ありがとう。あと今後の選択に関しては、その時に研究所の人に直接話してくれてもいいし、まだ悩んでるって言うんならその後いつでも先生に教えてくれたらいいから。」
「ん。」
「よし、それじゃあ藤依さんたちも呼ぼうか。」
「呼んでくる。」
席を立った私は教室の扉を空けた。
「終わったの?」
「うん。次だから、みんな入って。」
「はい。」
ショーコちゃんが私に手を伸ばす。私はそれを掴み引き寄せた。
「ありがとう。」
「はいはいどういたしまして。」
ちょっとしたことだけど、これだけでショーコちゃんは不満を晴らしてくれる。
そうして私たちは席に着いて話を始めた。ただ、先程朝香先生と話した内容については今はまだ黙っておくことにした。




