02.終わる平和、始まる地獄
「終末の喇叭が吹かれたというのでしょうか。この惨劇は今まさに、デトメス大陸南東部で発生している出来事であり・・・・」
無機質な機械から鳴る音は全て偽りの声だ。それと同じように、携帯の画面に映る惨劇とやらも所詮はフェイク映像でしかない。
それでも開いた口がふさがらなければ、釘付けにされた意識が引き離されることは無い。どれほど非現実的な映像であろうとも、だ。
・・・・けれど何故なのだろうか。こんな馬鹿げた映像に、彼女は口角を上げていた。
それは馬鹿げた嘘に対する嘲笑?・・・それともこの世の終わり、その始まりである喇叭の音へと贈る賛美とでも言うのかーーーー。
視線を画面に戻せば、心を穿たれるような惨劇が再び視界に入り込む。
真っ赤になってバラバラに落ちる。真っ赤に染まって全てを覆う。かけられたモザイクは何一つとして意味を成していない。そんな世界の上を、白い悪魔が駆け回る。
「Laat ons dit aanvaar! Ons lot!(受け入れよう!我らの運命を!)」
無力な只人は悠然と両手を広げた。
「Dit is die oordeel van God! Goddelike straf sal neergedaal word!(神の裁きだ!神罰が降される!)」
「Daar is nie genoeg gebed nie!(祈りが足りない!)」
「Ons is deur God verlaat!(我々は神に見放された!)」
「Die einde van die wêreld kom!(終末がやってくる!)」
逃げ惑う咎人たちは、画面の向こうで悲痛に叫ぶ。
「Here, hoor ons gebed. Vergeef ons ons sondes. Wees ons genadig. Red ons, Here.(主よ、我等の祈りを聞き給え・・・我等の罪を赦し給え・・・我等に憐れみを与え給え・・・我等を救い給えーーーー。)」
敬虔なる信徒たちは、両手を組んで天を仰ぐ。
彼等は皆、神様に祈りを捧げているのだろう。救いを求めているのだろう。言語が分からずとも、動きや表情などからそれが伝わる。
哀しい・・・苦しい・・・痛い・・・辛い・・・。
画面が動く度に私の心が穿たれる。涙が一粒零れ落ちる。
「なんでコトミちゃんが泣くの?」
その指で涙を掬いながら、彼女が私に問いかけた。
「わからない。・・・なんでだろ。」
痛くて、苦しくて、哀しい。それが辛くて、涙を零した。だけどどうしてそういった感情が沸き起こるのかが、私には理解できなかった。
「・・・・・・。」
彼女が一度口を開くが、しかし直ぐに閉じてしまう。
私が抱えた疑問に対しては何か言おうとしたみたいだけど、何を言えばいいのかがわからなかったらしい。
ーーーー暫くして画面が静止した。
「規制かかっちゃった。」
「だね。」
仕方のないことだろう。寧ろこの数分間持ったことの方がすごいことだ。本来であればこんな映像は投稿すら・・できないはずなのに・・・・。
できないはずの投稿が実際に行われていた事実を前に、少しだけ苛立ちを覚える。
可能性として、上の立場の人間にこれを是とする人間がいて意図的に行ったと、そう推測してしまったから。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもない。」
「そっか。」
彼女はそれで納得してくれた。
ーーーー結局のところあの映像はフェイクだったのだろうか・・・・。
実際のところ機材さえ揃っていれば、現実と区別がつかないフェイク映像は簡単に作れてしまう。ただそれに対してフェイクかフェイクじゃないかを明記しないことは、世界全体で規制の対象になっている。
けどあの映像に映っていたの国はデトメス大陸南部身を置く国で、映像の出どころも多分そこら辺だろうと思う。そしてデトメス大陸にはまだ無法地帯みたいな国が少なからず残ってる。だからこういったフェイク映像を作ってばら撒くことは容易に可能。
もちろん、なんの目的があっての行動かは知らないけど。
それだけじゃない。そもそも「規制されている事実」と「フェイク映像が世に流される」ことはイコールで結びつかない。だから別の大陸の国が絡んでいたりもするのかも知れない。
とは言え、この映像は明らかに空想の範疇がすぎる。流石に誰かのいたずらだとしか思えない。
それでも私は危惧している。正直不安だ。だって相手はデトメス大陸。・・・昔に比べたらだいぶ発展しているらしい大陸ではあるけど、所属する国の多くで未だに”黒魔術”とか”呪術”といったオカルト部分が根強く残っている。そんな国々に対してまるで啓示かのように滅びを告げてしまうと、それを本気にされかねない事態に陥る・・・かもしれない。
人はそこまで馬鹿じゃない。けど馬鹿じゃないからこそ己が賢い人間であると勘違いする。そして理性で本能を抑えつけることができる人間は限られている。
大抵の国であれば国家としての体裁を守る為に牽制してくるくらいだろうけど・・・でも力を持ったオカルト国家・・・それも他国によって無理やり開拓された国ともなれば、最悪戦争を引き起こす引き金になるかも・・・なんて・・・。
世界は未だに混沌とした時代を生きているらしい。秩序を保ってるっぽく見えるのけど、それはあくまでも表面が綺麗に覆われているだけ。
まったくもって人間らしいなぁ・・・なんてありきたりな独り言を入れてみたり。
誰もが手を取り合える世界なんてのはやっぱり夢物語であって実現不可能な理想論。なのに人類はそれを求めて・・・。
平和の為に造られた秩序機関である『世界連合』は、世界平和と人類発展を掲げて発足された。だから加盟国となったデトメス大陸の国々に対しても、余りあっても足りない程の時間と労力と資金と暴力を投じて発展させ続けている。
結果デトメス大陸の国々は無事発展を遂げることができたけど、でも既に育ちきった教養の足りない大人や金持ちに狂わされた大人は、夢見がちな思想に囚われ、新たな価値観に染まることも論理的な思考を得ることもできない。
そしてそんな状態の彼らが国を動かす位置についてしまった。だからちょっとした国家間の諍い事を解決する為に、前時代的な外交手段である戦争をポンと引き起こしかねない国家群が多く形成されてしまい、それを大国が強大な暴力で圧し続ける状況が作られてしまった。
「発展と平和の為には必要なこと。これは通過儀礼として受け入れるしかない。」と先進国は己の失敗を正当化する。しかしそんな大国がいくら圧をかけても、神様を信じ大義を得た盲信者たちは止まることを知らない。
だからこそ、「旧時代に取り残されてれば良かったのに・・・。」なんて考えてしまう人が未だに多く残されていたんだと思うーーーー。
いつも通りの風景を眺めながら私はただ嘆いていた。この世界に蔓延る気持ち悪い何かに対して。
学校への道すがら、彼女との会話が弾むことはない。ただしそれは仲が微妙というわけでなく、所謂・・話さずとも気まずくならない間柄なだけ。
それは手を繋いで歩く私たちを見れば一目瞭然だったーーーー。
学校に着くと結構人が居た。
早めに家を出たはずが、みんなにとっては普通だったのかも。
「おはよう!お二人さん!」
エリカちゃんが体全体を使って手を振っている。
エリカちゃんは相変わらずの元気さだった。
「おはよ、エリカちゃん。」「んはよ。」
「うん!いい朝だね!」
エリカちゃんは今日も明るい。
なんならちょっと熱い。
熱が空中飛んで伝わってきてるんだけど。
熱放射してる?
通常時の百倍くらい元気になってるせいかな?
もちょっと抑えてくれません?
「ねぇねぇねぇねぇでさ!ニュース見た?すごかったよね?やばいよね?なのに学校に来てるわ、た、し、た、ち。おぉぅぢぃーざぁす!呑気すぎて困っちゃぁう!」
怒涛の気迫はまるで太陽が落ちてきたようで、ちょっと私の方が困っちゃぁう・・なんだけど。
というか元気百倍なのはこれが原因か・・・ってなんでこの状況下でテンション上がってるの?
頭の中バグってる?
・・・やば。
危険な物質とか出てない?ってそれだと生物としてバグりすぎてるか。
いや・・でもあり得るね。
だってエリカちゃんだし。
流石!元気溌剌の言葉が一番似合う子!
はッ?!まさか人間じゃない?!
なんてこった。なら尚更納得だな。
「・・・呑気なのはエリちゃんの方だね。テンション高すぎ。バグった?」
ほら。ショーコちゃんも人間か疑ってるよ?・・・あ、いや違うか。
これはあくまでも人間の範疇としてエリカちゃんのテンション感が今までに見たことない程ぶち上げになってたから・・・に対しての「バグった?」だよね。
わかってるわかってる。
「かもぉ!朝のニュース見て以来頭の中やばいしか出てこないの!熱が上がってくぅ~!」
思考放棄したら何故か頭が茹だるんですが?だそうです。
どういうこっちゃねん。
知恵熱って普通、思考が巡りすぎた結果起きる現象じゃないんですかい・・・。
あや・・・いやそうか。
今のエリカちゃんは思考が巡りすぎた状態にあるのか。
だからいつまで立っても「やばい」以外の単語が湧いてこないと。
なるほど。
「取り敢えず落ち着いて。」
そうだよ落ち着いて。
ビークール、ビークール。
まずは頭を冷やすんだ。
会話の続きはそれからダヨ。
「その通りだ、"光の天使"よ。現状で動いている軍はデトメス大陸に身を置く国家の軍隊だけ。どこもかしこも旧式の兵器しか有していない前時代国家さ。それに対して世界にはまだまだ強力無比な国々が残されている。・・・教えてあげよう!」
大手を広げながら会話に割り込んできたのは田中君。さっきまでは同志と呼び合っている佐藤君と話してたみたいだけど、どうやら熱に浮かされて自制心を無くしてしまったみたいだ。
普段なら女子同士の会話に割り込んでくるとか絶対にあり得なかったのに。・・・慌てふためいて会話すらできずにゴニョゴニョ状態に陥るくせに・・・。
まったく。君も君で熱くなるんじゃないよ。
ショーコちゃんもちょっと引き気味だよ。気づけ!
あ、エリカちゃんは興味を示してるぞ!続けろ!
「自由を掲げ、正義を掲げ。自国繁栄こそが第一の主義。今尚揺るぎなき覇権国家として君臨し続ける最強国家!フレーオ合衆国!」
おう・・・。
「衰退したかつての大国たちが再び燃え盛る!長年戦争の中心点として争い続けた国家群がついに和解を打ち立てた!不可侵!非戦争!互いに手を取り合った先で完成された一大組織!大テルラ連合!」
おお・・・。
「敵の敵は味方理論!表面上は闘う理由が無く!また互いが互いの繁栄材料と成り得!多少のわだかまりはあれど今や共栄を宣言した身!圧倒的人口!独自文化の塊!歴史に埋もれたかつての願いが今再び呼び起こされた!東サミア地域に掲げられた共栄の旗を見よ!東サミア共栄国家群!」
おおう・・なんて・・・・なんて恥ずかしいんだ。しかしその堂々たる立ち振る舞い。私は好きだぞ。
そうして田中君は満足そうに立っていた。・・・死んでいた?
まあ、これで終わりっぽい。
一応西サミアの方にも国家群はあるけど、核兵器を除いた戦力比で見てみるとどうしても見劣りする。とはいえ豊富な資源を抱えた国家を有しているから下手な手出しは自傷を招く。
現在世界に存在する大勢力は大体この四つ。
あと世界全体の秩序維持と緊急時における国家運営の代理者という役割を持つ世界連合があるくらい。因みにこの世界連合には、現存国家すべてから正式な国家として承認されている国の全てが参加している。非加盟国は無し!補足は以上!
「ふぅ・・・。」
「終わり?」
「ああ、そうだな。だがまあ、『アルボム・アルジェーントゥム・ドラコ』を前にして全ては無力。白銀の龍たる僕にかかれば・・・ふふ、全ては迅速に終結するだろう。しかし・・クソッ・・・。僕は真なる姿も力も封印されてしまっている。嘆かわしいことだ。世界の危機に傍観者でいるしかできないとは・・・。」
そうして田中君は歩き去って行った。
アルボム・アルジェーントゥム・ドラコ。それが彼の真名。彼の真なる姿は白銀の龍そのものなのだ。
彼は命星創生初期に星の核となった神、『ヤレマ』を敬愛していた。故にヤレマに仕える天使たちの軍隊である『生命の夜明け(ウィルローラ)』と共に、ヤレマの願いを叶えるために尽力した。
誰もが一度は読んだことのある命星創生物語。それは命星創生期を描いたとされる偉大な神様とその臣下たちのお話。彼はそこにいたらしい。
しかし命星創生物語に彼の名は出てこない。2体の龍は名と共に姿が写し出されているが、彼の名と姿は何処にも出てきていない。それについての言及は避けてほしい・・・と、田中君は言った。
紡がれた物語では一切語られることのない忘れ去られし白銀の龍。アルボム・アルジェーントゥム・ドラコ。彼は一体何者なのだろうかーーーー。
・・・じゃないよ。って、ダメだダメだ。関わっちゃいけない。関わっちゃいけない。よし。
「あーーー・・・席、戻るね。」
「あいよ。」
放心状態に陥ったエリカちゃんがユラユラと歩き始めた。
オーバークールしちゃってるじゃん。
元気が取り柄のはずが冷めちゃって静かに・・・。
「僕も戻るとするかな。」
そう言って田中くんも席に戻った。
「・・・コトミちゃんはああいうの好き?」
「ん?」
「ほら、厨二病。」
「あ~・・・まあ、聞く分には?いや、人によるかな?田中君と佐藤君はなんだかんだ言って設定練ってるっぽいから・・・まあ聴いてて飽きない。他の患者さんに関しては・・・そもそも会ったことないから。」
「そっか。」
「ショーコちゃんは?」
「ん〜・・・楽しそうで何より?かな。」
「興味無しなんだね。」
「まあそうだね。あ、でもコトミちゃんがやってくれるなら一緒に楽しめそう。」
「2人でなら、まあ。」
「ならば今宵、夜のベッドで語らうとしようか。"姫"。」
ショーコちゃんが私の手を取る。
「はにゅッ!襲われちゃう!」
「呼んだ?」
"ヒメ"という言葉を聞いた可憐で綺麗なお姫様こと姫華ちゃんが、開いた窓から顔を覗かせる。
「呼んでない、ゴーバック。」
ショーコちゃんが軽く窓を閉める。
「むきゅッ!」
姫華ちゃんの顔が挟まれお餅みたいに柔らかそうな頬が潰される。
・・・可愛い。
「はぁ。邪魔が入っちゃった。」
「なんかごめん。ほら、名前呼ばれちゃったからついつい・・・。」
「まどろっこしい。改名してよ。」
「いきなり?!ヒメ、ショォック!でも・・ホントにごめんよぉ〜。」
「ま、許したげる。」
「ありがとぉ!お礼にチョコボールあげる。」
「4つね。」
「その倍。はい、ど〜ぞ。」
「ありがとう。」「ん。」
「じゃあね。ショウコちゃんにコトミちゃん。」
「終わり?」
「うん!」
窓枠の向こう。廊下側から突然に現れた姫華ちゃんと蓮花ちゃんは、そうして去っていった。
「タイミング完璧だったね。」
「完璧すぎ。ま、チョコボールくれたし結果オーライ。」
「今朝の内に情報売ったのかな。」
「あ〜・・・流石に持参の方でしょ。それかお恵みか。というか売れる情報・・なんかあった?ここ最近は結構静かだったと思うんだけど。」
「ショーコちゃんが知らないなら私も知らないよ?情報共有してるんだから。」
「そうだね。当然だ。よし、エリカちゃんに聞こう。エリカちゃん!ちょっといい?」
放心状態から覚めていたエリカちゃんが再びこちらへ。
「どったのしたの?」
「耳貸して。」
「はいよッ。」
「さっき姫華ちゃんからチョコボール貰ったんだけどさ、それが裏新聞からの謝礼じゃないかって話してたの。」
「なるほど。つまり聞きたいのはヒメちゃんが何かしらの情報を売ったかどうかってことね。今日中に当たりつけるから待っててくれる。」
「ありがと。これで答えは出そうだね。ま、エリカちゃんは特に知らなかったみたいだしハズレかな。」
「そっか。・・・そうだね。」
ーーーーと思っていたけどお昼時のこと。給食を食べ終えブラブラと中庭を歩いていたところにエリカちゃんがやってきた。
「いたいた。」
「どーしたの?」
「朝の続き。」
「あ〜・・・あれ・・・。結果は?」
「ビンゴだったよ!」
「おっふ、まじか。」
「えっとね、一昨日の放課後5時過ぎのこと。場所は校門から左側道なりにある沼木の前公園、公衆トイレ裏側、更に進んだ茂みの奥。公園内に入らないと見えない死角だね。そこでとある女の子がナツ君に告白したみたい。」
「精密すぎ。というか夏君に告白って・・その子知らないの?」
「いや、知ってたみたい。バッチリ”録音”されてた。内容については一言一句余すこと無く裏新聞に掲示されるっぽいけど・・・今聞く?」
「聞きたいかも。その哀れな女の子の証言を、ね。」
「要約すると、これからは友達じゃなくて彼氏になって欲しい。ヒクレ君とは関係上彼女の立ち位置にいるんだし私の彼氏になっても問題ないよね?・・・と。」
「んんん?・・・なんとも・・難解な・・・・・そっか。確かに夏君は見た目女の子だし、檜呉君の彼女だし、なら彼氏の枠余ってるよね?ってことか。・・・凄いなその子。」
「だよね。エリもちょっと引いちゃった。」
「で、その後は?」
「もちろんノー。ナツ君だしね。まあでも多少迷ってたみたいな?それも合わせて裏新聞に載せるみたい。」
「迷惑組織極まれり・・・。」
「まあ需要は尽きないから。」
「というか姫華ちゃんはどうやってその情報手に入れたの?あの時間帯のあの場所って人の目が存在しないような気がするんだけど。」
「あ〜・・・他言無用ね。」
「わかってる。弁えてる。」
「えっと、リオナちゃんがその時間トイレを"使用中"でね。それでまぁいきなり外で声がしたと思ったら告白タイムが始まったものだから、これは大チャンスってことで録音したみたい。それを材料にヒメちゃんと何かしらの交渉した結果ヒメちゃんの手にチョコボールとその他複数のお菓子が渡った次第。」
「極悪だぁ。魔境だぁ。沼須乃木中学校には悪魔が住み着いているぅ・・・。」
「まぁ・・・否定できない・・ね。うん。」
「ありがとう。聞かなきゃ良かったけど聞けて良かった。はいこれ、お礼のお菓子。」
「まいど!」
そうして話しは終わり、エリカちゃんは校舎の方へタッタッタと駆けていった。
「地獄だね。」
「言っちゃダメだよ。みんな我欲の塊だったでけだから。」
「自分の恋のために三股を持ちかけた女の子。何かしらの対価を求めて盗聴を行った莉緒菜ちゃん。お菓子の為に情報を売り払った姫華ちゃん。終わってるよ。いや、一番終わってるのは裏新聞か。」
「私たちも追われたもんね。」
「あれは苦労した・・・。あ、ダメだ。思い出しちゃいけない・・・うぅ・・・。」
「疼いちゃう?」
「そそ。あんなにも爽快感を感じたのはあの一度きりだったから。」
「綺麗なボディーブロー、決めてたもんね。」
「鉄拳制裁ってね。まああの時に比べて今の裏新聞はだいぶ大人しくなったよね。」
「そう?」
「違う?」
「いやぁ・・どうだろ。・・・まぁでも確かに、結局去年の3年生が一番荒れてたから。それが居なくなったことで裏新聞組織と情報売買行為の統率は取れてるみたい?だから・・・うん。表面上大人しくはなったのかな?」
「まぁそっか。内容自体はいつも通り過激だもんね。プライバシー皆無。見つかれば1から10まで全て覗き見アンド掲載。これで大人しいって言う方がアレか。」
「飢えた狼ではあるけど、躾されて飼い慣らされてるだけマシ。去年の3年生は首輪もなく学校中に放たれてた・・とも考えれるから、やっぱり全体的に大人しくはなったはなったと思う・・・でいいと思う。」
「・・・なんかややこしくなった。」
「忘れよう。私たちにはもう近づかないって誓約立てさせたし。」
「そだね。」
ーーー学校の終わりを知らせるチャイムがなった。
「きりーつ、きょーつけ、れーい!」
「「さようなら。」」
「はい、さようなら。皆さん気をつけて帰ってくださいね。」
ガヤガヤと雑音が湧き始める。いつも通りの日常が過ぎていった。朝のニュースも、今じゃみんな忘れているような・・・。結局あれは何だったのか。気になりはするけど、今は取り敢えず家に帰ることにする。どうせ今頃追加情報を速報で届けてくれてるだろうしーーーー。
戦争はより過激なものへと移り変わっていく。長く続くほどに疲弊が募り、だと言うのに敗北への調印が受け入れ難い状況へと置き換わってしまう。とはいえ人間同士の戦争であればいずれ終わりがもたらされる。人が人を殺しきる前に、ひとつの終わりを迎えることができる。
今のこの世界が置かれている状況から見るならば、そんな破滅的な在り方もひとつの救いなのかもと感じてしまう。それくらいに人間が立たされた今現在の状況は酷く絶望的だったーーーー。
光の灯る画面に、またしてもそれが映し出される。
それは白かったり、灰色のようにくすんでいたり。そのせいか赤がとにかくよく目立つ。
目は無く空洞となっているように見えるが、しかし同時に、その2箇所が真っ黒く塗りつぶされているだけのようにも見えてくる。
不規則に並べられた棘が口の中をぎっしりと覆う牙となり、垂れた舌が棘に突き刺されたまま血を流す。
別の個体は口が見えず、長い布の様に垂れ下がる皮膚が頭と顔全体を覆い隠してしまっている。
四足歩行か二足歩行か・・・そこに確かな境界は無く、しかし直立型か前傾型かである程度は決まっている様に見て取れる。
手足は見てわかるくらいに長い。そして指先になるにかけ太くなる脚は樹木の幹のようで、逆に指先にかけ細くなる腕は樹木の枝の様に見えてくる。
説明の限りでは1メートルから3メートルくらいの身長があるらしい。
そんな化物と今、人間は戦争している。
「外生命体。未確認生命体。侵略者。白い悪魔。灰の化け物。・・・正式名称は『フェアリエ』。人間を餌として捕食。そして栄養を溜め増殖を繰り返す異生物。神罰代行者。神の使い。・・・・時間が立つごとに呼び名が増えていくね。」
捉え方は千差万別。人の数だけ形が生まれる。けど取り敢えずはフェアリエが正式な名前ってことになった。
「・・・・あ・・壊滅だって。」
今しがた、西サミア連盟から派遣された軍隊がデトメス大陸で壊滅的被害を負ったとの速報が入った。
「・・・やばいね。」
「・・・・ん。・・・ばい。」
朝のネットニュースから今に至るまで取り敢えず何処かしらのサイトに出回っている映像をたくさん見返したり、まとめサイトに飛んだりしてみた。けど結局出てくる言葉はやばいの一単語だけ。そこに全ての感情が乗せられる。絶望的状況。世界の終わり。人間の絶滅。終末の始まり。そこから生まれる恐怖、不安、焦燥、放心。
深夜だというのに、目が冴えて仕方ない。
「・・・・スピィーーー。」
あ、寝ちゃった。
毛布に包まれた中でショーコちゃんが寝息を立てる。
ごめんね、ここまで起こしちゃって。
彼女の寝顔を眺め、また画面に視線を戻す。
嘘だと思っていた。こんなのはただのフェイク映像で、きっと時間が経てば消えていくものだと思っていた。・・・でも違った。今やあらゆる場所に情報が拡散されて、最早規制の対象ですらもなかった。
これらは事実。嘘偽りない事実。一つの大陸が今、滅びようとしている。
・・・怖い?
正直、わからない。けど多分、どうでもいい。本当の心はいろいろと苦しんでいるけど、そんなのがどうでもいいと思ってしまえるほどに今の心は壊れきっているから。
それでも私は祈ろうと思う。無駄で無価値で嘘っぱちだらけの行為だってことは分かってるけど、それでもこれは誰にだって示せる最低限の優しさだから。
「・・・どうか・・・どうか・・・・。」
両手を組み、涙を零す。なぜ泣いてしまうのかはわからない。それでも”自分を許せるまで”、私は祈り続けた。




