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隙間の出来事・17

 どうしたもんか。グリューシナは受諾済み任務一覧を見つめてため息をついた。

 このゲームはUIで視界を埋めてしまうことを嫌ってか、必要最低限のウィンドウしか開かないようになっている。メニューも、必要なウィンドウを開いた後にメニューウィンドウは消えるし、別のウィンドウを開きたいと思いながら開いているウィンドウを消せばそちらのウィンドウが開くという、ユーザーの思考を反映した開き方をする。これは、もちろんウィンドウを残したまま別のウィンドウを開きたいと思えば、複数ウィンドウを開くこともできた。

 で、今グリューシナの目の前に開かれているウィンドウは、三つある。「受託済み任務一覧」、「完了済み任務一覧」、そして、「進行中世界規模国家任務状況」の三つだ。

(グリューシナ)さん、どうする? これ、進めてみる?」

 隣で同じようにウィンドウを開いて状況を確認していたクラースィアがグリューシナに問いかける。「どうしようねぇ」と回答しながら、グリューシナは別のウィンドウを開いてフレンド登録一覧を確認する。現時点でログイン中なのはテア・ヤパ、アルメニアコン、イリアンサ、チサ……四人だけか。

(クラースィア)さん。水仙(ナルツィア)ちゃんと黒檀(エベーヌス)くんに連絡つく?」

「黒檀くんはたぶん無理ね。こないだまで藤さんに付き合ってちょっと無理したみたいで入院してるわ。体強くないのに無尽蔵体力の藤さんに付き合ったりするから……」

「それについてはちょっと反省してるよ。あの子、大人になっても病弱だもんねぇ」

 十年の付き合いでリアルの事情もそれなりに見知っている関係で、おそらく一番長尺になると想定されていたサンドリオンの補助役に彼を選んで付き合わせてしまったのはグリューシナだった。否、本人の熱烈な希望だったとはいえ、年上で大人だったグリューシナの方が断るべきだったのに、付き合わせてしまった。そういう意味では、入院するまで連れまわしてしまった件について謝罪しにいかないとなぁと考える。

「水仙ちゃんは、今日明日泊りがけの出張研修に出てるからたぶんログインできないと思う。ということで、二人は当分無理ね」

「う~~~~ん、ブルー・バードの旅行記を書き終わるまで保留にしてもいいかなぁ」

「最低限、黒檀くんと水仙ちゃんとは足並みをそろえたいわよねぇ」

「そうなんだよね。あと、フレンド登録し忘れてたんだけど、木蓮(マグノリア)さんも連れて行ってあげたいな。スネドゥロニジェンで随分手伝ったもらったから」

「それはいいわね。テア・ヤパくんもつぶしたGvギルドの代わりに頑張ってくれてるもの、少しは還元してあげなくちゃね」

 クラースィアが笑いながらそういうのを聞いて、グリューシナの指がフレンドのテア・ヤパの名前をタップする。立ち上がったのはいわゆるネット電話のような小さなウィンドウで、電話の呼び出し音が一瞬鳴る。

『はい、藤さん! 御用でしょうか?』

「相変わらず早いね、どめ(テア・ヤパ)くん」

『藤さんからの連絡ですからね!』

 元気いっぱいにワンコールが鳴り始めた瞬間に通話にでたテア・ヤパに苦笑がこぼれる。グリューシナが旅行記を書き始めてから数年して、コメント欄に荒らし行為が横行したころには読者になっていたらしいテア・ヤパは、どういうわけかグリューシナを崇拝しているらしい。

 らしい、というのは、グリューシナにはそれがいまいちよくわかっていないからだ。慕われている、懐かれている、というのは理解しているのだが、なんでそんなことになっているのかがよくわからない。エベーヌスに関しては理解できるのだ。彼は彼の両親に話をつけてVRの世界が拓けた関係で感謝されているのを知っているから。

 こんなに好かれる要素なんてどこにもなかったはずなんだけどなぁ、と思いながら、テア・ヤパに簡潔に用件を問いかける。

「ねえ、どめくん。君、わたしに付き合って世界規模(ワールドワイド)国家任務の謎を突き詰める気がある?」

『もちろんです!!!!』

 若干食い気味に返ってきた回答にもう一度苦笑がこぼれるが、ありがたいことだとグリューシナはすぐに気を取り直して会話を進める。

「じゃあ、申し訳ないんだけど、藤染めの面々も含めてトレディシェン以外の、重要国家任務を開始できるまで進めてほしいんだ。旅行記が終わった後、世界を荒らしに行こう」

『わかりました! 全員に進めさせますね!』

「あ、いや、時間ない人とかやりたくない人は無理にやらなくて大丈夫だからね? 最終的に完璧に進めるのは黒檀くんが退院して意思確認してからだから」

『あ、黒檀さん入院中なんですね、了解しました。退院されそうなころまでで進めておきます』

「よろしくね」

 テア・ヤパとの通話を終わらせて息をつけば、クラースィアがにまにまと笑っている。締まりのない顔を隠さないクラースィアに一つデコピンを食らわせた。周りには隠しきれているが、この女は何気に愉快犯な面があるから、締まりのない顔をしているときは止めるために一撃を加えるのはもういつものことだ。

「さ、黒檀くんが退院してくるまでにわたしたちも少しは進めようか」

「は~い」

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