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隙間の出来事・14

「いーやーでーすー!!!」

 バンバンと目の前のデスクを力強く叩きつけ、テア・ヤパ(どめられた読者)は断固拒否を訴えた。周囲にはそんなテア・ヤパの姿を見て苦笑するもの、同情するもの、にやにやと笑うものと様々ではあったが、テア・ヤパの拒否宣言をまともに取り合う気はないことだけはよくわかる。

「大体、なぁんでその場にいなかった私が巻き込まれてるんです!? その場にいた水仙(ナルツィア)さんたちでやればいいでしょ!」

 それはその通りである。指摘された以外の人物が一つ頷いた。ほら! とテア・ヤパがもう一度デスクをたたくが、指摘された人物たちは口々に拒絶する。

「俺は赤ずきん(レッドキャップ)所属だから無理」

「あたしも戦乙女(ワルキュレア)所属だから……」

青い鳥(ブルー・バード)所属だもんだめだめ。それに、木蓮(マグノリア)ちゃんはまだ始めたばっかりなんだからそんなの押し付けられないでしょ」

「悪いが、統率能力が欠如している自覚がある」

 順にイリアンサ、アルメニアコン、クラースィア、ナルツィアである。途中名前を出されたマグノリアはおろおろとしている。

 回答しなかった指摘外の面々もまあだろうなと頷いている。特にナルツィアの発言には壊れた人形かのようにぶんぶんと首肯している。テア・ヤパも、一番最後のナルツィアについては、まあ、納得するしかなかった。

「そもそも、トップファイブを実質つぶしたのはどめでしょ?」

 それまで発言をしてなかったチサが長い髪を指先でもてあそびながら笑う。

「そうそう。藤さんに歯向かったって聞いて勢い勇んでぶっ潰したのはどめでしょ~」

「どめの顔クッソわらった~。どめ何人殺したっけ~?」

 ケラケラと笑うもう二人。双子のエラッタとベルシィカはお互いの爪をつつきながらテア・ヤパを笑い飛ばすのはいつもの事だった。

 声に出さない面々も、大体が同じ意見らしいとみて、テア・ヤパはデスクに突っ伏した。少しの間をおいて、ぐすぐすと泣き声が聞こえてきたが、周囲でその様子を見ていた人々は、相変わらずおろおろしているマグノリア以外は冷めた目で見ていた。

「とりあえず、代理戦争を引っ張るトップが不在なのは戦力の拮抗を保つの意味でもこまるからね」

「かといって、トップファイブの次はちょっとねぇ……」

「あそこは横暴が過ぎるからダメダメ。住人たちの評判悪すぎるんだよな~」

 スネドゥロニジェン所属の面々が両手をバッテンの形を作る。即答のそれに大半が苦笑した。大体どこの国のGvギルドも変わらないと言えば変わらないが、ここまで即答されるほど住人たちとの関係が悪いのはもう笑うしかない。

 ワルキュレアから始まり、レッドキャップやサンドリオンのトップファイブはすでに舵切りを行っている。ブルー・バードも困惑を隠せないまま舵を切る方向に進んでいた。それまでに縋りついていて、舵切りを考えもしなかったのはスネドゥロニジェンくらいであった。トレディシェンですら、他の長いものに巻かれろの姿勢だ。

 ある意味取り残されていたスネドゥロニジェンは最近は戦力の拮抗を保てないでいた。それはそうだ。ワルキュレアを含め、各国のGvギルドは精力的に国家任務をこなし始めた。

 国家任務をこなすことによって、Gvに有用な協力なスキルが手に入るとわかってからはどこの国も躍起になって国家任務をこなしてスキルを入手し、乱発を始めた。その中で、唯一国家任務のスキルの入手がかなわず、ココ数回のGvで負け続きなのがスネドゥロニジェンだった。

 それまでトップとして君臨していた彼らは、勝てないことの屈辱を、その原因をすべてグリューシナに押し付けてきた。

「というか、もうどめをギルドリーダーとして国に届け出てるから交代はできないよ」

 髪をいじるのに飽きたのか、チサが指先をもてあそびながらぴらりと一枚の紙を取り出す。スネドゥロニジェンの国章が押印されたその紙は、国に提出されたギルド設立申請書だというのは、紙面の一番上の部分に記載された文字で読み取れた。

 その紙の下部、ギルド名とギルドリーダー(国によってはマスターとも表記される、まあどちらでも代表者であるとわかればいい)の名前が記されており、そこには見慣れた「藤染め旅行軍@雪の女王支店」の文字と、「テア・ヤパ」の名前。テア・ヤパの名前については彼自身の文字ではなく別の人間の筆記だった。

「私は!!! 許諾してない!!」

 まだいうか。申請書に記載された文字を見てもまだあがくテア・ヤパの姿を見てその場にいた全員(おろついているマグノリア以外)が座った目で見つめる。すでに申請されて、国章という申請が通った証が押されてるのに、今更変更はできない。できてもかなりの時間や手間がかかる。どうしようもない事情でもないのに、そんなことをするほどこのばにいる人間はお人よしではなかった。

「そもそもさ~、どめいがいにできる人いないじゃ~ん」

「昔取った杵柄ってやつでしょ、どめ~」

 エラッタ&ベルシィカはいつの間にか席から立ち上がり、いまだにデスクになついているテア・ヤパのふわふわとした髪の毛にぶすぶすと指をさして遊びだす。わーいと楽し気な双子の手を払うようにするテア・ヤパだが、それを無視して双子は遊んでいた。

「で、そろそろ駄々こね終わった?」

 遠慮も容赦もなくそう問いかける声に、それまで泣いていたテア・ヤパははぁ、と一つため息をついて顔を上げた。一瞬前まで泣き声を上げていたはずのその顔は、涙にぬれた様子もなくひどく冷めた表情をしていたのに、おろつきながらもテア・ヤパを心配していたマグノリアがビクっと体を震わせる。

 マグノリア以外の面々はそんなテア・ヤパにようやく腹くくったか、と笑うだけだった。

「藤さんにご迷惑をおかけするわけにもいかないから、やるよ、やればいいんでしょ」

 疲れたといわんばかりのテア・ヤパはそういいながら立ち上がる。

「とりあえず、次のGvで赤ずきんと青い鳥をぶちのめしますよ。藤さんの名前を冠して私がトップを務める以上、負けは許しませんよ、わかってるでしょうけど」

「ほいほい~」

「藤ちゃんフリークうぇーい」

 茶化してくるエラッタやベルシィカを小突きながら、テア・ヤパはため息をつきながらも次のGvに備えて準備をするために部屋を出ていく。

 その後ろ姿を見送ったマグノリアは、横に座っていたクラースィアの服の裾を引く。クラースィアはそんなマグノリアに、お茶目にウィンクをして見せた。

「大丈夫よ。どめくんはすごいんだから」



 その週のGv、スネドゥロニジェンにあった紛争地域はその週にできた新興ギルドである「藤染め旅行軍@雪の女王支店」にことごとくが蹂躙され、敗北を期した。

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