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隙間の出来事・11

 さすがに唖然とした様子のグリューシナに、目の前に対峙した男はふっと楽しげに笑う。まるで氷のような透き通る水色の髪をかっちりと撫でつけ、その頭上に若干うっとうしそうに王冠を乗せた男は、今の今まであまたの星降人(プレイヤー)からその姿を見かけないことが話題に上がっていた、第十代目スネドゥロニジェン国王、アレクセイ・ゲルディアルその人だ。

 御伽噺戦争(メルヒェン・クリーク)・VRは、そのサービス開始から数年がたちアカウント数が五千万を超え、アクティブだけでも三千万はいるといわれているほどにユーザー数がいる。そのうち、凡そ八百万がレッドキャップ、サンドリオンが六百万、ブルー・バードとワルキュレアが四百万ずつ、スネドゥロニジェンに三百万、残り五百万はトレディシェンのある各小国に散り散りと所属している。

 そう、スネドゥロニジェンにはおおよそ三百万人の星降人(プレイヤー)がおり、様々な活動を繰り返している。国家任務も特殊マップであるスペリオーザス湖地下を除けばそれなりにこなされており、そのうちの一人がナルツィアだ。

 そんな大多数のスネドゥロニジェン所属プレイヤーが、誰一人として面通りすることのかなわなかったスネドゥロニジェン国王に、一番最初に顔を合わせたのが隣国所属のそこそこ新規のプレイヤーというのは、本当に心臓が痛いことだ。

「スヴァラハやロッドルヴァーンの小僧から話は聞いていたが、まさか本当に貴様が我が国の困りごとを解決してくれるとはな」

 もったいぶった動作で足を組みなおしたスネドゥロニジェン国王は、相変わらず楽し気に笑いながらグリューシナを見ている。

 そもそも、なぜこうなったのか。

 グリューシナとそれに付き添ってくれているナルツィアは、イリアンサたち友人四名の協力の下、数百あったスペリオーザス湖地下の特殊マップ専用依頼をすべて達成した。達成した直後は全員で万歳三唱ししばらく依頼は受けたくないという意見の一致を感じたうえで各国に戻り、スネドゥロニジェンを旅行している二人は各スポットを回ってそろそろスネドゥロニジェンの旅行記も終わりだね、とアザールラでのんびりしていたところだった。

 次はサンドリオンか、ブルー・バードかと悩んでいたところに、指名で呼び出しがあり、ギルド経由で二人はアザールラよりも南西にある地に向かってほしいといわれた。その場所には、特に何もないはずだった。氷の湖や断罪の崖付近のような密度はないものの氷樹でできた森がある。それだけだった。

 しかし、それだけだったはずの森に訪れたとたん、グリューシナとナルツィアは立派な屋敷の前にいた。どうやら、何かの結界で今まで幻覚を魅せられていたのか、入ったとたんに特殊な技術でこの屋敷の前に飛ばされたのだと思われる。

 そうして、屋敷を訪ねて出会ったのが雲隠れのうわさも出ていたスネドゥロニジェン国王だったわけだ。

「わたしとしましては、ただ陛下の領地を楽しく旅行していただけなのですが……」

 若干困ったようにグリューシナが答えるが、アレクセイはいいや、とかぶりを振って否定した。

「貴様はわかっておらんが、スペリオーザスの地下街は、ここ最近我々との交流を断っておってな。すでに貴様らは知っての通り、我が国の氷塊以外の物は基本的にスペリオーザスの地下街が賄っていた。スネドゥロニジェンにかの地が併合されたのちも、その契約でスペリオーザスの地下街に自治権をある程度許容しておったのだ」

 なるほど。話を聞いたナルツィアは何となくこれまでの経緯を理解した。スペリオーザスの地下街を初めて訪れた際の住民の態度と、住民から聞きかじった話を丁寧につなげていけば簡単に想像がつくことだ。

「やらかしは我が父だが、連座でわしも嫌われてしまってな。わしが玉座に座っておるとヒートアップしかねん除隊が続いておったゆえ、彼奴らから聞き及んで負った貴様を待っていたということだ。まあ、こちらから依頼する前に解決されたのは驚いたがな」

「随分と買っていただいていたようで……ありがとうございます。とはいえ、わたしはワルキュレアから鞍替えする予定はなく、そろそろ他国へ足を延ばそうと思っておりますので……」

「ああ、わかっておるわ。有象無象と湧いてくる星降人なぞ代理戦争の駒にしかならんと思っていたが、貴様のおかげで使える者もいるとわかった。おそらくは、サンドリオンやアジュールからも貴様は重宝されるであろうな」

 若干ニヤついた様子でそういうアレクセイに、グリューシナは嫌そうな顔を隠さない。

 それがなおの事面白いのか、アレクセイは声を上げて笑い出した。それを見たグリューシナは、がっくりと肩を落として考えるのをやめた。

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