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隙間の出来事・7

すみません、直接できな描写はないんですが、ほんのりとエッでレィpな感じの内容が混じってます。

そういう内容が苦手な方は次の旅行記回をお待ちください。

「……よろしかったのですか、スヴァ様」

 カツコツと靴音を建てながら廊下を進んでいると、後ろからついてきている、長年側仕えをしてくれているスォルグンがスヴァラハにおずおずとそう声をかけてきた。まだ向かう先までは距離があるが、振り返って顔を見れば、なんとも不満げな顔をしていて、スヴァラハはプッと噴出した。

「お前はなんて顔をしているんだ?」

「ひどいです、私は……」

「ああ、ああ、かまわんよ。アレらなら許容範囲であろうて」

「ですがスヴァ様。先日はあの星降人に、コンサンテス嬢のことまで……」

「ユリヤルージェ嬢か」

 スヴァラハは彼女の名を呼びながら、少女の朗らかな頃の姿と、今の哀れな姿を並べてしまい、反射的にかぶりを振った。

 彼女には、なんとも悪いことをしてしまった。愛らしい春色の少女。父である伯爵へのこちらからの連絡手段を途絶されたために、卑劣な罠にはまって父親であった伯爵の目の前で無残に花を散らされ、父を殺される様を目に焼き付けさせられ、心を壊してしまった哀れな娘。

 まだ、スヴァラハには夫がおらぬが、子を孕んだ暁には、彼女を乳母として雇おうかとスォルグンとともに笑いあうほど気立ての良い、皆に愛された娘。

 何とか公爵領の兵士が間に合い、ユリヤルージェの命だけは助けられたものの、心に負った傷はあまりにも深く、どうすれば彼女に詫びることができるかもわからず、最低限の補償として、彼女と彼女の面倒を看ると強い瞳でスヴァラハを見てきた彼女の乳母に、海辺にあるワルキュレア家の別荘を一つ分け与え、わずかでも心が安らげればと願っていた。

 そんなころに、あの男は現れた。一瞬男か女か判別がつかない顔かたちはしていたが、口から出る声は聞き心地が悪くないテノールで、ちゃんと見れば喉仏があり、胸元はスッテンとまっ平だった。

 かなり奇抜な色合いで本人の性根や行動に似合わない色合いをしていることが多い星降人の中では、違和感を感じない藤の花(ウィステリア)色の髪の毛とややタレ気味なパステルグリーンの瞳は、スヴァラハの肩書にすくむことなくまっすぐに見つめてきた。

 その眼差しと反比例するようにどこか疲れのにじむ目元(右目下にある泣きぼくろからして、疲れが見えなかったらおそらくそういう意味(美人局)で引っかかる輩も出そうだが)にひょろっとした痩せ型の体躯は、向こうからの提案で兵士との試合を指せなければ弱者とご判断をしかねないほどだった。

 こちらの近衛も含めた兵士をちぎっては投げちぎっては投げした挙句に、あの男がそういう色のない、しかし熱のこもった目で懇願してきたことを思い出し、スヴァラハは思わず思い出し笑いが漏れた。

 ユリヤルージェに関してだけ言えば、よほどあの男に預けたほうが彼女のためになるだろうよ。あんなに熱がこもっているのに、情欲の色の一切の見えなさに、あの男は見目だけは若く見えるが涸れはてた老人なのかと悩んだものだが、先日様子を見に行った従僕からの言に、むしろそんなかわいらしい感情(はつこい)を十年以上大事にしまい込んで昇華したのだと聞かされては笑いしか出ないのだ。

「スヴァ様?」

「ああ、ああ、すまんな。アレのことを思い出していた。グリューシナと名乗ったか。あの男は問題なかろうよ」

「……しかし」

「スォルグン。お前はアレが我に臨んだ時の目を見ておらなんだか?」

「目、ですか?」

 不思議そうにするスォルグンに、まだまだだなぁとスヴァラハは笑う。

 あの男も、あの男に紹介されてやってきた代理戦争中のワルキュレアの名を肩に背負ったギルドの中でも最も大きなギルドのギルドマスターとその連れも、信用に値する誠実さを兼ね備えた人材だった。

「グリューシナも、ノルンの天秤の奴らも、問題なかろう。そのための誓約でもある」

 そこまで言えば、スォルグンも渋々納得したようだ。

 まったく、この乳兄弟殿にはもう少しほかの人間を見る目を養ってもらわなければ困るものだな。そう考えながら、スヴァラハは止まっていた足をまた動かし始める。

 代理戦争が始まった直後の劣勢など、今となってはわからないほどまで各国の戦力がそろってきた。代理戦争がまだまだ止まる気配はない。最低限、レッドキャップを名(あのひき)乗るテロリスト(ょうもの)の首級を上げるまでは、ワルキュレア(こちら)も止まれなどしないし、止まる気も起きない。

 逆風から追い風に変わり始めた盤面を思い起こしながら、スヴァラハは次の一手を打つための書類を任せる配達人をだれにするか考え始めた。

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