吐
三題噺もどき―よんひゃくじゅうよん。
ぽたぽたと、水の滴る音がする。
数日前の雨から、天気がぐずついており、今日も雨が降っている。
昨日は曇りだったが……こうも暗い日々が続くと気分も沈む。
「……」
今日は珍しく、ベッドのある自室に引きこもっていた。
あまりこれをするなと言われているので、基本的にはリビングに居るのだけど。
これはまぁ、必要なものがここにあるからここに居るだけであって。
「……」
紙のこすれる音がする。
ペンをノックする音がする。
想いが写される音がする。
「……」
必要最低限のものが並んだ机。
鋏やホッチキスの入っている筒と、筆記用具は筆箱の中に入っている。
筆箱というか……まだ他人とのかかわりを持とうと思っていた時代に、もらったポーチで。本当は、化粧品とか化粧道具とかを入れるようなものなのだけど、そういうものには一切興味がないので、筆箱と化している。
「……」
スタンドライトの電気をつけて、ノートを広げている。
右手にペンを持ち、左手は頭を支えている。
「……」
数日前に医者に言われたことをなんとなく実践してみている。
いやまぁ、割とずっと前に言われていたんだけど……こう、あまりやる気にならずにできていなかったのだ。
今日はなんとなく、できそうだなぁと思い、机に向かった次第だ。
「……」
小さめのノートを広げて、ペンで走り書きをしていく。
たいしたことは書いていない。
ただ、頭の中にある色々を書いているだけだ。
「……」
ふわりと浮かんだ色々を。
だらだらと、書き出していく。
「……」
ペンがときおり止まるが。
それでも色々と浮かぶんだから、不思議でならない。
―こういうのは苦手な方なんだけど。
「……」
自分の想いとか、思考とか。
そいうものに、蓋をするようになったのが、いつからなのかも分からない。
気付いたらそれが当たり前になっていたし。
そうするべきだと思っていたし。
「……」
吐き出すべきものではないと思っていたし。
他人の想いの方が尊重すべきだと思っていたし。
自分は他人以下の存在なんだから、許されていないし。
「……」
こうして、吐き出す作業に気が向かなかったのも、そういうのがあったからだろうけど。
―実のところ、書き出してはいるが、これが本当のものかどうかも疑いながらやっていたりする。
「……」
自分の想いなんて、疑うもの以外のナニモノでもない。
「……」
他人の思考は、疑いの余地もなく、受け入れはするくせに。
自分のこれは、自分のものではない気がしてきてならない。
どうしてか、分からないが。
「……」
自分で決めるとか、そういうことをしてこなかったから。
決意表明とか、決心をつけるとか、そんなものとは無縁でいたから。
全部他人に任せていたから、他人に言われるままになっていたから。
「……」
「……」
「……」
それでも、こうして浮かぶ限り。
ありはしたんだろう。
「……」
何か思うものは沢山あって。
それをどうこうしようとか、伝えようとかそういうのがなかっただけで。
「……」
吐き出していけば楽になるともいわれたけれど。
どうだろうか。
「……」
これは今、私は楽になっているんだろうか。
どこかに引っかかっていた、何かが取れたり。しているんだろうか。
「……」
分からない。
何も。
「……」
だけど。
なんとなく。
「……」
ジワリと。
浮かぶものはあって。
「……」
こうして、吐き出すのも。
悪くはないと思っている。
「……」
たまには。
こうして。
自分と向き合うのも。
悪くはないのかもしれない。
お題:浮かぶ・ポーチ・ホッチキス