妹の未来が決まったのはいつだったのか・・・
妹のバルの婚約者のゲルテのことが気に掛かって仕方ない。
いつもニコニコした表情でバルを見ているのに、バルがゲルテを見ていない時は酷く冷たい目をしているように感じてしまう。
気にしすぎだと思おうするのだけど、どうしても気になってしまって、ゲルテをチラチラと見てしまう。
そんな私を見て勘違いしたバルが私に怒鳴りつけてくる。
「ゲルテは私の婚約者よ!!変な目で見ないでっ!!」
「ごめんなさい・・・。そういうつもりで見ていたんじゃないんだけど・・・」
バルの怒りに背中に一筋汗が流れた気がする。
「だったらどういうつもりだっていうのよ?!」
「いや、あの、本当にごめんって。好きとかっていう気持ちは一切ないって約束できるから!!そこは信じて欲しいのよ。私は婚約者のノベルを愛しているし」
バルは私と話せば話すほどに感情の振り幅が大きくなっていく。
「そんな事信じられる訳ないでしょう!!」
私に背を向けてドスドスと音を立てて家の中に入っていった。
本当にそんなんじゃないのに・・・。
父に言いつけに行ったのだろうと想像がついて、ため息を吐いてバルの後を追いかけた。
興奮した妹を母が部屋から連れ出し、父は一つ息を吐く。
「で、どういうことなんだ?」
「実は・・・ゲルテの視線が気になって」
「当然だろうな」
父の返事に私のほうが戸惑ってしまう。
「ゲルテの父親はバルを助けてくれた人なんだ」
驚いて私は声を上げないように手で口元を押さえた。
バルは五歳の時に山道の端っこに生えていた、可愛い花を取ろうとして勢い余って崖下に落ちそうになったところを、たまたま通りがかった男性に助けてもらったことがある。
バル自身は事なきを得たのだけれど。
バルを助けてくれた人がその時に負った怪我が元で、十日の後、亡くなってしまった。
ゲルテはその亡くなった男性の子供だった。
ゲルテはバルのことを愛しいと思いながらも、父親を殺した相手だと憎しみもしているのだろう。
私は当時のことを少し覚えていて、男性のお葬式に参列したことを覚えている。
棺に取りすがる子供とその母親らしき人。
バルを睨みつけて、子供はバルに石を投げつけた。
「お前がお父さんを殺したんだっ!!」
父と母は泣き崩れている母親と子供に何度も謝罪していた。
私も両親の見様見真似で謝罪したことを覚えていた。
「そんな相手とバルを一緒にさせて不安はないのですか?」
「そりゃぁ、不安だよ。だから時折ゲルテに『君のお父さんに感謝しているよ。命をかけてバルを守ってくれてありがとう』と声を掛けている。すると、ハッとしたように気持ちが切り替わるのか、バルを愛おしそうに見つめるようになるんだ」
「もし言うタイミングを間違ってしまったら、バルはどうなるの・・・?」
「バルを自分の命をかけて守ってくれた人の子供なんだ。信じたいと思うしかないじゃないか・・・。もし、起こってほしくないことが起こってしまったとしたら、それはバルの寿命だったんだと思うしかないと思っている」
「そんな・・・」
父の言葉は少し諦めているような気がした。
「せめてバルの気持ちがゲルテから離れたのなら、二人を引き離すことも出来るが、バルはゲルテのことを好きで仕方ないようだからな。どうしようもない」
父は壁の向こうにいるバルとゲルテを見ているかのように悲しい顔をした。
「お父さん・・・」
父は私に向き直ってまた息を一つ吐き出した。
「ゲルテのことは気にかけるな。ガナはガナの婚約者のノベルの事を考えて、嫁に行く日のことを考えていなさい」
そう言って私を抱きしめた。
父は私に抱きしめられたかったのではないかと後から考えた。
私はバルが本当に幸せになれるのか心配だったけど、バルと気まずくなりたくなかったので、私はゲルテのことを気にはしながらも表面上は取り繕った。
それは上手くいっていたのかバルが私に文句を言うようなことはなくなった。
半年ほどするとバルも落ち着いたけれどノベルが「ゲルテの視線がなんだか不気味に思えてしまう」と言い出した。
とうとう、たまにしか会わないノベルが気になるほどゲルテの視線はキツイものになっているのだと、ため息が漏れた。
父から聞いた話をノベルにして「バルがゲルテを好きな以上どうにもできない」のだとため息を吐き出しながらノベルに話した。
可愛い妹のバルの行く先を思い心配でならなかった。
「バルにその話をして、命の危険を知らせたら?」
「バルには婚約の話が出た時に話したそうなの。けれど、バルはゲルテに一目惚れしてしまって「大丈夫」って言って聞き入れなかったらしいの」
ノベルも私も嫌なため息を吐き出し、バルの未来を思いやった。
それからまた少し時が流れて、バルが嬉しそうに「ゲルテの家に遊びに行く」と言って出ていって、それっきり帰ってこなかった。
私はゲルテに殺されたのだと瞬時に思ったのだけれど、バルを殺したのはゲルテの母親だった。
取り調べで解ったことを警官が教えてくれたのは、ゲルテが席を外している間に、母親がバルを椅子にくくりつけたのだそうだ。
「あんたを助けるために私の夫は死んだのよ!!」
そう責め立てながら、致命傷にならない浅い切り傷を体中に付けたそうだ。
バルは自由になる足で母親を何度も蹴ろうとしたけれど、一つか二つ当たったところで椅子を倒され足も椅子に縛り付けられる。
ゲルテが戻ってきたので必死で救いを求めたけれど、ゲルテはバルを助けようとはしなかったらしい。
バルが「なぜ?どうして?」と繰り返し聞いても、ゲルテは楽しそうに笑って眺めていたそうだ。
そして凶行は二時間も続き、バルは出血しすぎて虫の息で最後に「ゲルテ・・・ゲルテ助けて」と何度もゲルテに助けを求めながら息を引き取ったらしい。
父はその話を聞いて放心状態になった。
「なるようになってしまった」
そう言ってから全く役に立たなくなってしまった。
母の方が気丈でバルの葬儀を執り行い、ゲルテの母親への厳罰を求める届け出をして、すべてが終わってから気が抜けたのか倒れてしまった。
「お父さん達の考えがおかしかったのよ!!いくらバルが好きだと言っても、認めなければよかったのにっ!!関わらせなければよかったのよ!!」
私は葬儀が終わっても感情のはけ口がなくて、両親を責めてしまった。
「そうだよな。そこがおかしいと俺も思っていたんだ」
ノベルが私の肩を抱きしめた。
すると母が少しだけ遠い目をして昔を思い出すように話しはじめた。
「ゲルテの母からの婚約の申込みだったのよ。あの時は何の遺恨もありませんっていうような顔をして『夫が助けた命を繋いでいきたい』と言ったのよ」
母は涙が流れても拭う仕草すらせずに話し続ける。
「お互い傷を舐め合うような関係!お断りしたのよ!!何度も何度も。執着の仕方がおかしかったし・・・」
母が顔を覆う。
「なのにバルがゲルテを好きになってしまって、断ることができなくなったのよ。あの母親も本当に命を繋ぎたいと思う気持ちと、バルのせいで夫が死ぬ羽目になったのだという思いの間で揺れていたのだと思うわ」
「バルの運命はゲルテを好きになった時点で未来は決まっていたのね・・・」
ゲルテの母親は無期の労役を科せられた。
ゲルテは一年の労役だった。
たった一年と私達は愕然とした。
今はもう刑期が終わってゲルテは元の家に帰ってきている。
バルの血が滲んだ家で何を思って生きているのだろう?
ガナはバルのお墓に花を供えて、ゲルテが山の道の端を歩かないか毎日眺めている。
バル、いつかきっと・・・。




