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とある男子高校生の魔王な日常  作者: 沢森 岳
9/20

9.野外活動同好会

この時期はつつじがキレイですね。

鈴木あきらはビシビシと叩くたびに魔力を吸収しているわけですが、

フジサワ先生はそれも気づいていなさそうです。


 明くる土曜日、俺は八方ヶ原のとあるキャンプ場に来ていた。

 フジサワ先生も一緒なのは内緒である。なんでまた、こんな山奥のキャンプ場かと言えば、フジサワ先生と一緒にいるところを見られたくはないからだ。


「教師と生徒が二人でキャンプなんてスキャンダルものだからな」

「じゃあ、キャンプサークルでも作って、私が顧問になればいいんじゃない?」

「二人で、ってところが問題だろ」

「イケナイコトをするつもりかしら」

 俺は手に持っていたランタンポールでフジサワ先生の頭を叩いた。

「いたっ、マジ痛いんだけど」


 フジサワ先生の姿の時はフジサワ先生のキャラを演じることに決めているようだが、手加減はしない。あまり広くないサイトにそれぞれ設営を済ませると、俺たちは近くを流れる沢を伝って上流へと移動した。滝に打たれようという訳ではないが、魔力制御の練習なんて、人に見られて良いものでもない。変人だと思われるのが関の山だからだ。


「オマエはさ、魔力の回復力が凄いから、無意識に無駄遣いをしているんだよ」

「ふーん」

 やっぱり、漏れ出ている自覚はあまりないようだ。

 本人にとっては殆んど不都合はないみたいだからな。


「体外へ漏れる魔力をせき止めろ。そうしないと周りの人への影響が大きすぎる。特に、この世界では」

「なあに? アタシがモテモテなのは魔力のおかげって言いたの?」

 俺は、さっき杖の代わりに拾ってきた棒きれでフジサワ先生の頭を叩いた。目にも止まらぬ速さで。

「いたっ!」


「その通りだよ。それでわが校の伝統行事を台無しにしてんだぞ、弁えろ」

「あんなひどい雨を降らせたのはアンタでしょ。……まあ、ある意味助かったけど」

 フジサワ先生の姿を維持するためにある程度の魔力を常に消費しているのに、それでもまだまだ溢れてくるとは羨ましい限りだ。


「魔力を溢れさせるな。漏れてきたところを叩くぞ」

「うっわ、どえす?」

 すかさず俺はびしっと左肩を叩いた。

 無意識に制御できるのが理想だから、結局、練習を重ねて体に覚えさせるのが一番だ。俺はそれからしばらく無言のまま、ビシビシと叩き続けた。あまり痛くないように手加減はしたが。


「よし、少しは上達したんじゃないか? 一旦帰ってコーヒーにしようぜ」

「ちょっと、そのコーヒーって私のコーヒー?」

 その通り。ていうか、珈琲に限らずあらゆる装備も食材もフジサワ先生持ちだが。

 焚火にはまだ早いので、シングルバーナーでお湯を沸かして珈琲を淹れて、その傍らで肉まんを蒸かしておやつにした。


 魔力が発散されるのは、主に感情の高まりに合わせてのことだ。楽しいときや嬉しいとき、そして激高した時は尚更。意識して押さえつけなくては、ほとばしる。俺には魔力の発露が、目に見えるように感じとれる。

「おまえ、肉まんを噛みしめる度に魔力が発散してるぞ」

「これは一義的に肉まんが悪いのよ。私はとばっちりを受けているのだわ」


 ホント幸せそうに食べるなあ。

 けれど、そうも言っていられないから、継続的に訓練を行う必要がある。軽く後片付けをして、俺たちは再び沢を遡って、日没までの間を魔力制御の訓練に勤しんだ。


 §


「まあまあ出来るようになったんじゃないか? この短時間で。流石は勇者ってところなんだろうな」

「まあね。魔王を討伐するための勇者に認定されたのは、伊達じゃないのよ」

「そこな、少し引っ掛かるんだが……」

「なによ? 私の実力を疑うの? そりゃあこの前は負けたけどさ」


 勇者エリーの実力を疑う訳じゃない。

 実際、その他の冒険者や有象無象はもっと弱かった。俺が強かっただけさ、ははははは。

「今ならちゃんと話が出来るかと思って聞くんだが、なんでオマエは俺を討伐するの?」

「え? なんでって、アンタが魔王で私が勇者だから、でしょ?」

 まずは、予想通りの反応を得た。


「つまり、勇者としての使命感で俺と戦った、って事でいいか?」

「うーん、まあ、そうね。個人的な恨みとかではないわ」

 そうそう、それが聞きたかったんだよね。

「そっか、それは良かった。わかった、ありがと」

「ありがとって何よ、気持ち悪いわね」


 今日のところはここまでで良い。

 俺はもう話を切り上げようと、焚火に火をつける準備をした。ヴァーラの住人である勇者エリーも、前世の記憶がある俺も、火を起こすなんてまさに茶飯事。ついでにキャンプあるいは野営なんてのも、お手のものだ。しかしナイフでフェザースティックを作るより、市販のマッチの方がお手軽で安価でしかも安全。


「フジサワ先生、マッチ取ってくれよ」

「んー、えいっ」

 ってフジサワ先生は右手で指を鳴らし、魔法で木っ端に着火した。

「おいやめろ。この世界で目に見える魔法は使うな!」


 せっかく枯れ葉と松ぼっくりを拾ってきたのに、俺の努力を無にするな。

 じゃなくて、この世界では極力魔法を使うんじゃない。

「え~、それくらい良くない?」

「だめ。気が緩むと人前でも、つい使っちまうぞ。夏休みのキャンプ合宿も、駆り出されるんだろ?」

「そりゃ、人前では使わないつもりよ?」


 とはいえ、もう着火してしまったものは仕方ない。

 俺は薪の形を整えて炎を安定させるべく、しばらくその場に陣取った。綺麗に燃えるように試行錯誤する、これが妙に楽しい。


 夕焼けが消えていく代わりに炎が勢いを増し、熾火が増えるのを見計らってフジサワ先生は大きめのフライパンを用意した。

「今日はジャンボハンバーグです! わーぱちぱちぱち」

「相変わらず食べるね」


 俺はこの世界で十七歳だが、精神は前世から引き続いているから、フジサワ先生よりよほど落ち着いている。でもこの世界の食事は概しておいしいから、はしゃぐ気持ちもわからないではない。

「じゃあ俺はスープを作るから、そっちは上手に焼いてくれよな」

「まかせて」


 キャンプ場の夜は早く、そして朝も早い。自然のリズムに寄り添うところが、ヴァーラでの生活を思い出すね。

「朝一でまた特訓な!」

「しゃーない、がんばりますか」


ジャンボハンバーグって、どれくらいの大きさからジャンボって言うんだろう。

「この大きさでジャンボかよ!?」ってならないように、

きちんとした規格を作ってほしいと思う今日この頃です。


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