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とある男子高校生の魔王な日常  作者: 沢森 岳
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5.元勇者

戦場ヶ原だからといって戦わなければならないわけではありませんが。

元勇者は再戦の場と決めたのでした。

 高度に魔力を制御できれば、自分の見た目を自在に変えることができる。例えば前世での俺は、せっかく魔王などと呼ばれていたので、相応しいように怖い見た目にしていた。勇者もまた、魔力を制御して見た目をフジサワ先生にしているのだろう。


 俺がからかうと、フジサワ先生は怒りからか体中から魔力を溢れさせて睨み付けてきた。

「誰のせいでこんな事してると思ってるの!」

「知らんがな」


 元勇者の山ガールはナイフを振りかざし、殺気をむき出しにしてきた。彼女の手には再び聖剣が顕現し、それは鋭く正確に俺の首筋を狙うが、またしても魔法盾に阻まれる。

 攻撃としては単調だからだ。


「魔王、あなたこの世界でどれだけ魔法がつかえるかしらね? いつまでもつのか見ものだわ」

「へえ、分かってんだ? この世界が魔力に乏しいのを」

「当然。私には関係ないけどね!」


 関係ないって言いやがった。

 やっぱりそうか。


 俺はこの世界の生命として転生したが、おそらく、勇者はあっちから「転移」して来たのだ。溢れ出るほど豊富な魔力はそういうワケなんだろうな。今この瞬間に限っては羨ましい。自分だけ魔力が潤沢なハンデ戦で、持久戦も視野に入れて俺を制するつもりのようだ。


 猪突猛進型だった前回の戦いよりも、少しは頭を使うようになったな。これも所謂年の功か。とはいえ、少しだけだ。


 およそ百ほども斬り付けてきて、俺はそれを全て魔法盾で受けた。そして一旦間合いを取ったフジサワ先生は息が荒かった。ようやく、俺がちっとも消耗していない事に気が付いたようだ。

「どうした、もう疲れちゃったか?」

「キサマっ、何を隠している?」

「さあな」


 たとえ何かしら隠していたとしても、そんなの教えるわけがない。それにひきかえ山ガールときたら、言語野に浮かんだ言葉をそのまま口にしてる。あまつさえ、自分が困っていることを吐露しちゃうなんて、三流悪役もいいところだ。

 あ、悪役じゃなくって勇者だったか。


 すると、フジサワ先生は戦い方を変え、剣技を凝らして俺の肉体にダメージを与えようとしてきた。戦闘技量なら、現生の鈴木あきらに優越できると考えたな。惜しむらくは、それを疲労が蓄積する前にやるべきだった。


 俺は前世で勇者とは一度戦っているわけだが、その剣は至極まっとうな正統派剣術だったし、今見直してもやはりそうだ。疲れて切っ先の鈍った剣では、身体強化を使える俺を捉えられる筈もない。

「くっ、なぜだ」

 とか言って、困ってることをまた小声で口に出してしまう。


 いつもより早く、そして級数的に疲労が蓄積していくのを自覚できていないのではないか。まあこちとら、見た目はごくごく普通の男子高校生だし武装もないし、危機感を持ちにくかったのかもね。そもそも俺と勇者では相性が最悪なのだが、そんなことを丁寧に教えてやる義務はない。


 ついにフジサワ先生は地面の凹凸に躓いて片膝をついた。そしてそれを見た俺は、余裕の表情で上からのぞき込む。

「どうした、勇者とはこんなものか?」


「おのれぇ!」

 と聖剣を放り出して俺に抱きついてきた。当人はタックルしたつもりかもしれないが、いつも通りの威力でない事に気付くのは動いた後だ。そして、俺が過去に一回だけ聞いたことのある呪文を唱えた。


 嫌な思い出だ。

 だから今回は、俺は躊躇なくフジサワ先生の首に両手を掛けた。息が出来なければ呪文は唱え終わらない。なのに先生はそれでも唇を動かした。だから仕方ない。


 俺は自分の口でフジサワ先生の口を塞いだ。

 そして、彼女の魔力が枯渇するまで手加減せずに吸った。身体に纏わる魔力を吸引摂取するよりも直接的に、唇から思いっきり吸い込んだのだ。


 §


 魔法とは、自分のイメージを具現化するものだ。

 どれだけ具体的にイメージできるかが肝要で、逆に言えば他人の魔法を完コピするのは難しい。そこで、不特定多数が同じ魔法を扱えるようにと編み出されたのが呪文というものだ。呪文によって特定のイメージを自分に想起させ、自身の魔力を消費して魔法を行使する。


 同じ呪文であっても、術者によって威力や範囲など様々な要素が均一にならないのはある程度仕方ないのだが、教本や先生が同じであればかなり似通るし、ポピュラーな呪文ならその様相は皆の共通認識にもなる。だから、呪文を唱えるという事は、それがどんな効果を発揮するかは周知のものであることが多い。


 但し、中には滅多に使われることのない呪文もある。


 秘術と言われるもの、一子相伝でしか伝わらせないもの、発動条件が難しいものなどだ。勇者が唱えようとした呪文はそういう類のもので、普段は使い道などないものだから、詞を耳にしてさえ何が行われようとしているのか想像も難しいが、俺が聞いたのはこれで二度目だ。


 だから今回は絶対に発動させぬよう、俺は頑張った。

 結果、勇者は魔力切れを起こして昏倒している。

「ったく、また俺の魂を他所の世界へ吹き飛ばすつもりか」


 せっかくこの世界で慎ましく生きていこうとしているのに、なんて事をしてくれるんだこの自爆テロリストは。

「戦いの流れが前回とあんまり変わらねーじゃねーか。年の功も無かったな」


 そのうち起きるだろうから、思いっきり嫌味を言ってやろうか。アラサー女子に対して年の功も無い、なんて言ったら泣いちゃうかな? いや、だって、アレだよ? 俺は殺されそうになったんだよ? 嫌味ぐらい、言いたくなるでしょ。

「ん……?」


 倒れたフジサワ先生に何と言ってやろうかとセリフを考えながら見下ろしていると、先生の輪郭が歪んで滲んできた。あーあれか、容姿を変えていたのが、魔力の供給が途絶えて元の姿に戻ってしまうやつ。ぴちぴちの新卒養護教諭から、真のアラサーに変化してしまうワケですね。諸行無常。


「あ、あれ?」

 もう薄暗いのでよく見えないのかと思って顔を近づけてみた。そして、恐る恐るほっぺたをつついてみて、そして俺は素早く後ずさった。

「勇者エリー、……そのものじゃねーか!」


 魔力消尽により昏睡しているのだから、今晒されているのが本来の姿であるのは間違いない。アラサーじゃないじゃん。見たところ、肉体年齢は今の俺と同じくらいか、もしかしたら更に若いかも?


 俺は幾つかのパターンを考えた。でもよく考えたら、こいつの年齢なんてどうでもよかった。大事なのは、勇者が俺を追ってこの世界まで来たって事だ。俺は静かに暮らしたいってのに、存在自体を許さないってか? まったくもう。


 さてさて、どうしたものか。


擬パイどころか、全体が擬態だった。

ボリュームダウンも甚だしいですね。


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