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とある男子高校生の魔王な日常  作者: 沢森 岳
12/20

12.体育祭

学園祭は校外からの来客があるけど、体育祭とかは男子ばっかりですね!

しかも千人くらいいるんだよな。

それを当事者たちは何とも思っていないみたいですけどね。聞いた話ではw

 秋が深まると体育祭の頃合いだ。他の学校はどうなのか知らんけど。


 我が校では各学年の1組~7組が7色の旗に分けられて競い合う。1年1組と2年1組、3年1組が同じ旗色ってこと。そして、球技大会とは別に、陸上競技を主体として行われる。

 だからと言って俺が大活躍する、なんてことはない。まあ例年通りに、そつなく開催された。以上。おしまい。


 保健室はまあまあ盛況だったらしいが、それでも例年の実績からそれほど外れない。フジサワ先生は、ちゃんと魔力を制御できるようになってきた。


 §


 放課後、俺は久しぶりに校内放送で呼び出された。

 野外活動同好会としての呼び出しだったが、呼び出された先は生徒指導室で、呼び出したのはフジサワ先生だ。


「生徒指導室へ来るように、って呼び出されると、アイツ何かやらかしたな、って目で見られるんだよな」

「野外活動同好会には、まだ活動用の部屋が割り当てられていないんだから、仕方ないでしょ」

「生徒指導室に来ると、生徒を誘惑する色情狂を思い出すね」


「うるさいわね。そんなことより、ヴァーラから指令が届いたのよ」

 ヴァーラってのは、勇者エリーが本来住んでいる世界だ。

 世界って単語を、あっちでの発音に近い表記にするとヴァーラとなる。それは、俺にとっての前世があったところでもある。


「指令って、協会から?」

「そう。首尾はどうか、魔王は見つけたか、って」

 それで? と俺は顔を傾げる。

「この世界の情報も含めて、どこまで伝えるべきか、相談したいのよ」


「なるほど、賢明な判断だな」

 案外ちゃんと考えているじゃないか。猪突猛進なのは戦い方だけか。

 ヴァーラにおいて、魔王と呼ばれていた俺を除けば、勇者エリーの魔力は抜きんでていた。だから猪突猛進でも問題にならなかったんだ。俺と戦うまでは。


「この世界の情報は、出来るだけ伝えないでおきたい。これはむしろ、ヴァーラの平和のためだ」

「うん。和牛のおいしさを知ったら、戦争になるかもしれないわ」

「それから、時間の流れが違うのも伝えないでおきたい」

「そうね。私がこっちで歳をとらない事も、私が黙っていれば済むことよね」


 そうしないと、俺が死ぬまで待ってくれ、っていう作戦がまかり通らなくなると思う。勇者エリーだって、すぐに魔王を殺せ、と言われても困るんだから。俺の方が強いし。


 結局、魔王の転生体らしき者を確認したので、確証を得るために監視中だ、と伝えるにとどめることにした。


 ヴァーラとの間で、自由に双方向の会話が出来るというわけでは勿論ない。ある程度までの長さの音声を、一方的に伝えることが出来るだけなのだ。しかも音質はあまり良くない。それですらかなり大きな魔力を必要とするらしく、めったに送れないのだそうだ。


 異世界への転移ってタイヘン。


 ちなみに、勇者エリーをこの世界に転移させたのは、協会所属の魔術師が勢ぞろいして実行された大規模儀式魔法だ。それも転移対象が勇者エリーで、俺の魂を吹き飛ばした張本人だからこそ、この世界へと転移することが出来るのだとか。


 縁も所縁もないところへ狙って転移することは非常に難しいのだそうで、だから勇者は、たった一人で使命を果たすべく魔王討滅のために転移してきた。

 なんか可哀想だな。


「なに、その目は。……ひょっとして花粉症?」

「ん、ちょっと、な」

 たまたま、若干鼻声で俺は答えた。

「ここで少し待ってなさい、いい飲み薬があるから。保健室から持ってきてあげるわ」

「あ、ああ。すまん」


 断るのもなんか悪い気がして、一人残されて、俺は考えた。

 俺を協会の敵として魔王認定したのは、もちろん協会だ。正式名はたしか、世界魔術師協会。俺は実力を伴った一匹狼で、群れようとせずに協会から嫌われたが、なんなら勇者エリーも、協会からは煙たがられているのではないだろうか。


 まだ確証は無いんだけど。

「本人には聞けないな~」

 そもそも、勇者エリーに関してだって俺は知らないことだらけだが、真面目に頼めば、今なら教えてくれることもあるかもしれないな。


「なにを頼めばだって?」

「うわ」

「ひとりでぶつぶつと、気持ち悪いわよ」

「俺にも悩み事があるんだよ。聞いてくれセンセー」


「あーはいはい、おととい聞いてあげるわね」

 おととい来やがれ、ってこと?

 俺は受け取った錠剤を口に放り込んだ。口腔内崩壊錠剤だから、水なしで飲める便利なやつだ。


「とりあえず、協会への報告はいいとして、もうひとつ」

「もうひとつあるのか」

「野外活動同好会の部室の件だけれど」

「同好会でも部室って言うんだ?」

「そこはさらっと聞き流しなさい」


 職員室などがある管理棟の屋上には、直径三メートルほどのなかなか立派な天体観測ドームがある。そしてその土台部分には観測室と、それに付随する宿直室がある。天体観測は夜間行われるので、仮眠や宿泊が出来るように畳敷きの隣室が設けられていた。


 ただ、この古い校舎と同じく古くて、いまや個人で購入できる程度の望遠鏡の方が性能も使い勝手も良いため、もう使われなくなっているのだとか。昨今はデジタルデータでの動画撮影や、スマホなどへの映像表示が必須要件になっているのだ。


 そこで、ここを野外活動同好会の活動拠点に使わせてもらおうという魂胆だ。

「テントやシュラフを日干しするのに屋上を使えるから、都合が良いのよね」


 但し、きちんと整理と清掃を行い維持管理する事、というのが条件らしい。日本のような湿潤な気候では、空気の流動しない空間は劣化が早くなるからね。まあ、週に一回くらい掃除をする程度なら、貴重な放課後を提供してやってもいいだろう。


「いいだろう」

「なによ偉そうに」

 屋上を特権的に使用できるのは単純に楽しそうだし、学校公認の活動として宿直室を使えるのも面白そうだ。


「じゃあ決まりね。屋上でキャンプしようかしら。まあまあ星空も見えるし」

「焚火はやめてくれよ。事件になりそうだ」

「そっかー、残念」

 ヤル気だったな? あぶないあぶない。


 とりあえず、週末の金曜日に掃除をするって事になって、俺はやっと生徒指導室から解放された。もう随分と日が短くなって、俺は日没後の西の空を追いかけるように家路を急いだ。


昭和の頃は学校の屋上にも立ち入りできたみたいですよ。聞いた話ではw

でも焚火はだめですよね。

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