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剣客ウルフ  作者: ポチ吉
落刃白虎

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41/42

幼馴染

 世界は既に終わっている。

 ――いや、正確には“人にとっての”世界は既に終わっている。

 工場から立ち上る排煙に侵された空が流す()は有毒であり、それが染み込んだ大地も、そしてその大地を撫ぜる風すらも有毒であり、耐性の無い者が浴びれば“変異”を引き起こしてしまう。

 それ故に人は積み重なるように造られた積層都市の中でしか生きられなくなっていた。

 そして都市が造れる立地は有限だ。

 濾過すれば使える水が入手できる場所。

 大地が腐っておらず、積層都市の重さに耐えられること。

 吹き荒ぶ風にだって注意を払わなければならない。

 そうなると都市と都市の間は必然離れ、更にそこを行き来するバスのルートも大回りをしなければ行けなくなる。

 つまるところ、この電脳時代において都市間の移動と言うのはそれなりに命懸けだ。気軽に旅行の様な感覚でするモノではない。

 そんな時代において、狛彦は少数派だった。

 腕利きの達人(アデプト)であり、請負人(ランナー)である虎一。

 幼少期を共に過ごした保護者にして師の都合のせいで頻繁に都市間を移動していたのだ。

 仕事の時もあれば、命を狙われての逃亡劇と理由は様々だが、そのおかげで強化ガラス一枚先の空気を吸えば死ぬと言う大の大人でも恐怖する様な状況であっても呑気に腹を出して(ヘソ天で)寝られる程度には慣らされていた。

 だから狛彦の電脳端末には同年代にしては珍しいアプリ『イマココ』が入っている。

 簡単に言ってしまえば『今いる都市に知り合いがいるかどうかが分かるだけ』のアプリだ。コネとか伝手を使ってミナヅキに入ろうとした時に確認したら――


「狛彦くん!」

「リオンちゃん!」


 幼馴染。唯一そう呼べる少女の名前があったので、ちょっと連絡を取ってみたのだ。

 子供の頃、幼少期ならでは男女の壁の無さ。名前呼びで『くん』と『ちゃん』を付ける距離感で少年に変わった男の子と少女に変わった女の子が再会を喜ぶ様に「わー」と駆け寄り――


「いけませんよ、お嬢様」

「――」


 護衛のイケメン、機嫌を害した白いのに止められた。

 白いのは当たり前の様に狛彦を蹴るし、護衛であるイケメンはお嬢様を傷つけるわけにはいかないので、こちらも当たり前の様に狛彦に牙を剥く。


 被衣(かつぎ)


 肩に掛かっていた薄手のそれが、ふわ、と柔らかく弧を描く。ゆったりとした動き。だが速い。印象と速度のアンマッチで間合いを誤魔化しての一振りが咄嗟に止まった狛彦の眼球のすぐ前を通っていく。止まらなかったら目が潰されていた。「……」。とても殺意、高い。


「お嬢様。幼馴染かもしれませんが、貴女はもうレディなんですから気安くそう言うことをなさってはいけません」

「……」


 避けた狛彦を見てイケメンがリオンに見えない様に舌打ちするのを見て、狛彦は何とも言えない表情になった。じぃと良い、イケメンと良い、どうして罪のない狛彦を――


「あ。罪はあんのか……」


 何となく幼馴染と白いの。二人の少女を見て、ぽつり。

 自分も義妹の傍に自分の様な奴が居たら威嚇する。

 だが――


「そ、そうですわね。狛彦くんも、お、大きくなっていらっしゃいますし……やだ。わたくしったら、はしたないですわ……」


 頬を少し赤らめてそう言っている幼馴染の方は兎も角――


「……なぁ、もしかしてお前って俺のこと好きなの?」

「……何ですかそれ? ちょっと気持ち悪いですよ、とりまる」

「……」


 本気で、うわ、と嫌そうな顔をしている白い方に関しては余計な心配だと言いたかった。


「そんなら何でさっき俺蹴られたの? 嫉妬じゃねぇの?」

「――」

「……ねぇ、すずねちん? 反論できなくなると蹴るのやめない? 普通に結構痛いよ?」


 だってこちらのお嬢様はわがまま過ぎて狛彦の手には負えない。









 立ち話も何ですから――。

 そんなリオンの言葉を受けて取り敢えずターミナルの待合室の机の一つに腰を下ろした。

 イケメンは護衛だけでなく執事の真似事もしているようで何処からともなく取り出した三つのカップに紅茶を淹れている。


「ティーバッグのものですが……」


 言いながらリオン、鈴音、そして狛彦の前に置く。何となく、匂いを嗅ぐ。疑似食品に使われる薬品独特の匂いがない。つまりティーバッグとは言えは“本物”の紅茶だった。なので――


「悪い。俺、コレ飲めねぇ」

「……毒は入れてないぞ?」


 まだ、と小声でイケメン。「……」。まだってなんだ、まだってよぉ。そう思いつつ「カフェインが体質に合わねぇんだよ」と狛彦。


「! あぁ、そう言えば狛彦くんはそう(・・)でしたわね。食べ物の好み、変わってないんでしたら――白湯が良いですかね?」


 そんな狛彦の言葉を受けて、何故かちら、と鈴音を見ながらリオン。強調された二文字が何だか少し重かった。


「? とりまるの好物は豆乳ですよね? しかも紅茶味。体質(・・)的に問題もないですし……」


 一方。何故かソレを向けられた鈴音は、わざとらしく反撃する様な声音で「あれ? 知らないんですか?」と結ぶ。


「……」

「……」

「「うふふ」」


 お嬢様二人が微笑みあう。

 金と銀。色の違いはあれど、二人とも美少女だ。そんな二人が笑うと大変絵になるのだが……何故だか空気が非常によろしくない。体感温度が五度位下がった気がした。

 因みに。

 知識マウント取り合ってる所申し訳ないが、狛彦は熱い飲み物が嫌いなので、白湯ではなく、水が良いし、紅茶味はちょっとブームかもしれないが、一番好きなのはバナナ味なので二人とも微妙に間違っていたりする。


「……こちら、メールで言ってた義妹さんかしら? 一つ下と聞いていましたけど、わたくしの覚え間違いだったみたいですわね。えーと、初等部の……何年生だったかしら?」

「……私はとりまるの同級生ですが? そちらは――えーと、大学生ですか?」

「……」

「……」

「「うふふ」」


 何故だか互いに攻撃表示だ。

 どうやらお嬢様たちはあまり相性が良くないらしい。

 笑顔の裏で噛み付きあっている。おんなのこのくちげんか、こわい。それがこの場にいるおとこのこ(狛彦と奏介)の素直な感想であり『さっさと離した方がよさそうだ』と言うのがこの瞬間、共通の認識になった。


「んんっ。……それで、烏丸様? どのようなご用件で?」

「……いや、ごめん。ただこの都市に居るのが分かったから連絡とっただけで――」


 深い意味はねぇのです。と尻すぼみに狛彦が言えば、奏介の目が細くなった。その眼が『おまえ、その思い付きで。おまえ、今この空気やぞ?』と言っていた。「……」。何も返す言葉が無かったので狛彦は、ぺしょ、となった。


「まぁ!!」


 そしてそれとは対照的にリオンのテンションが上がった。


「つまりわたくしに会いに来てくれたと言うことですのね!?」


 心底嬉しそうに声が弾む。


「えぇ、そう。その通りです。はい、もう会ったから良いですよね、とりまる?」


 そしてそれとは対照的な冷たい声で、だからさっさと本命に行きましょうと白い奴。


「お前ね……仲良くしろとは言わねぇので、ちょっとは久々の幼馴染との再会を喜ばせてくれませんかね、お嬢様?」

「その幼馴染を巻き込みたくないでしょう?」

「……」

「これに関しては多分、私が正しいですよ?」

「…………………ぐぅ」


 ふふん、と鈴音が得意げに薄い胸を張り、狛彦が鳴き声を一つ。

 そして頭をガリガリと掻いて、ちら、と視線を上げる。『巻き込む』。その単語を拾った奏介の手にいつの間にか鉄扇が握られていた。速い。巧い。それでも――足りない。

 あの老爺。

 指紋の無くなった手を持つ男。

 これまでの一生を武に費やし、これからの一生も武に捧げるであろうあの男。

 自分のことを棚に上げて言わせて貰えば――アレを相手取るには不足が過ぎる。


「……今日は会えて良かったよ、リオンちゃん」


 だから、はぁ、とため息を吐き出し、狛彦は立ち上がる。

 この都市に居ると言うことを知って、反射の様に連絡をしてしまった。その程度には幼馴染の少女との再会は狛彦にとってうれしいことだった。

 だから『これから自分が何をしようとしているのか』というのがすっぽりと抜けてしまっていた。これは完全に狛彦の落ち度だ。世間知らずのお嬢様の言うことが正しい。

 だから狛彦は巻き込んでも心が全く痛まないサイバネヤクザの事務所の連絡先を開いて――


「多分、暫くはこの街に居るからまた連絡するね」


 そいじゃ、と軽く手を振った。


ちゃん付けだし、ちょっと口調が柔らかくなってるから、白い奴はとても不機嫌らしい。


小説を書き始めると仕事が忙しくなる現象に名前を付けたい今日この頃。

暫く更新は安定しないよ!! ごめんね!!

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― 新着の感想 ―
なんか更新してる! 早速ギャグ回以降を読ませていただきました 俺知ってるんだ ポチ吉氏のヒロインレースは、ぽっと出に掻っ攫われるか、相棒独走のどっちかって 今作相棒枠いないから、それは一旦排除し…
こわい でも、2人でヒロイン面してそんなバトルしてると横から現れた爬虫類とか羽の生えた講義の爬虫類に持ってかれるぞ
前話に留学の理由の女の子?って書いた奴だけども、返信ありがとうございます 違うのかぁ…… イマココ……つまり現地妻との記録アプリってこと!? 行く先々でこれ繰り返されんの!?
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