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地図帳の時間

作者: 浦田茗子


 リビングの電話の横に、地図帳があった。


  *


 夕食後のテレビで、サッカーの国際試合が生放送されていた。試合前の国歌斉唱、選手たちは、思い思いの表情と体勢で一列に並んでいる。


 アイスをたべながら、その様子をなんとなく見ていると、洗い物を終えた母さんが言った。

「この国って、どこにあるんだろう? アフリカだよね」


 そして、母さんは、電話の横の地図帳を手に取って、ソファに座った。ページをめくってアフリカ大陸を探し、じっと見ている。


「どこだった?」

と尋ねると、母さんは、

「ここ」

と、ページを開いたまま、地図帳を渡してくれた。


 見れば、赤道に近い。

「暑いだろうねぇ。日本の暑さも、たいしたことないかもね」

「うん」


 そうこたえながら、アフリカ大陸を眺めていた。真っ直ぐな国境が多いんだな、とか、砂漠の広さがぜんぜん想像できないけど、ここの人は、いま何をして何を考えてるんだろう、とか、ぼんやり思うのだった。


  *


 その地図帳は、父さんのものだった。高校生のときに使っていたそうで、ロシアは「ソビエト連邦」、ドイツは「東ドイツ」と「西ドイツ」にわかれていた。


 自分も高校を卒業し、部屋の片づけをしていると、地図帳が出てきた。これも電話の横に並べて置いておこう、と思い立った。


 改めてよく見ると、二冊の地図帳は、同じ出版社の版違いだった。

 父さんのは、『帝国書院編集部編 新詳高等地図 三訂版』。固い紙の表紙で、背側は草色、表紙は苗色。タイトルは、表紙に押したような凸凹で印刷されている。

 自分のは、『帝国書院編集部編 新詳高等地図 初訂版』。ソフトカバーで、背側はモスグリーン、表紙はライトグリーン。タイトルは、つるつるした表紙に印刷されている。


 父さんの地図帳の裏表紙には、父さんの名前。自分の地図帳の裏表紙には、自分の名前。

 それぞれを見て、なんだか泣きたいような、笑いたいような、そんな気がした。


2021年7月1日 改訂

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