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84.内気少女は対面した



あわわ、と忙しなく動いているカスミ。

この事態を引き起こしてしまった事を心の中でそっと謝罪をした、ごめんなさい。


「カスミ…そんな緊張しなくて大丈夫だ。父上と母上は堅苦しい人柄、じゃ、ないから…」


どことなく歯切れの悪い言い方をするイキシアに同意をした。


私の提案のせいでカスミは王城へと呼ばれ、タイサン様とヴィオラ様と謁見する事になった。


ゲームとは大きく違い、聖女の正体が秘匿されている為カスミと国王夫妻は今まで対面をした事がなかった。今回は”聖女”としてではなく王子達の”友人”として表向きはなっていた。

…恐らく深い意味はないだろうけど。

ただの聖女教育の進捗確認で呼んだだけだろう。


「で、でも…わたしがが、が、お、おお会い出来る方々ではッ」


王城に到着し、謁見の間に案内されている最中でカスミは身体を緊張で震わせていた。

平民と国王が直接、対面出来る機会なんて滅多なことがなければ、然う然うにないだろう。国王が民の前に出る時は、国に重大な発表がある時であり遠くから眺めることが普通だ。

例え貴族であっても、其れなりに爵位がある者でしか対談は叶わないのだから。余計に申し訳ない。


「カスミ様、ご安心ください。わたくしも何度もお会いしてますが、とても親しみやすい御方ですわよ」

「ある意味では衝撃受けるかもしれないけどね…」


やはり歯切れの悪いイキシアに余計にカスミは青ざめてしまう。


実は私も学園入学式以来、国王夫妻にはお会いしていない。

学園で王城に行くことがなくなり、休日はクエストを受けていたし聖女に関する申請はカルミアか、イキシアを通していた。約1年ぶりに会うが…今から少し怖い。



謁見の間の扉につけば、カルミアは衛兵に合図をした。


頑丈な扉はゆっくりと開かれた。



「シレネちゃんッッ!!」


!?

身体に衝撃を受け、ぎゅうううと締め付けられる。


か細い腕で力いっぱい抱き締められているが、苦しくはない。ただ、柔らかい髪が顔面を擽る様に纏わりつく。



「…母上、シレネが驚いてます。離れてください」

「い、やッ!!」


案の定、ヴィオラ様はその強烈な性格で飛び付いてきた。

「ヴィ、ヴィオラ様、ご無沙汰しております」


とりあえず離れてほしい。

その柔らかな髪が擽ったくて、ほわああと何とも言えない感触がする。


「アキ、アスター、コデマリ。久し振りだな。元気だったか?」

「ご無沙汰しております、タイサン国王陛下。おかげ様で体調は変わらず過ごしております」


完璧令嬢のコデマリがお辞儀をすれば、合わせる様にアキレアとアスターも答えた。

私はヴィオラ様の肩に手を添えて僅かに押せば、首に回されていた腕が離れていった。名残惜しそうに離れていくヴィオラ様は寂しそうな表情を浮かべており、少し心が締め付けられた。

…いや、こんなことで感傷してどうするのよ。


気を取り直して私は国夫妻がカスミの方に向くように手を指し向けた。

「カスミ様、ご挨拶を」


「ぁ…カ、カスミ・スノーフレークですッッ!!!!」


自分が思っていたよりも声が大きかったのか、ハッと口を抑え固まってしまった。

そんなカスミの可愛らしい姿にヴィオラ様はふふっと口元に手を添えて小さく笑った。やはり、1つ1つの動作に気品溢れるヴィオラ様のその姿は、正に国王妃だ。

数秒前とは別人に感じてしまう…。


「初めまして、だな。俺はタイサン・ダリア・グラジオラス。一応、この国の王だ」

「わたしは、ヴィオラ・ダリア・グラジオラスと申します。そう、緊張なさらないで?」



カスミと国王夫妻は初対面をした。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「まず、シレネの提案に関しては許可をしよう、正し条件付きでだ」


一通りの挨拶が終われば、タイサン様は本題へ切り出した。

私達はタイサン様の言葉に耳を傾け話を聞いた。


「今後、魔物討伐はギルドではなく俺が直接依頼をかける―…」


―ギルド

これはゲームでもチラリとしか出てこなかった。

戦士が集う商人団体をギルドと呼称しており、前世でいう警察署の役割をしている団体だ。

これまでは魔物討伐依頼の受理は、グロリオ団長と経験があるアキレアが一任をしてくれていた。


…ただ、タイサン様の話はギルドを通すな、という話だった。


理由は簡単なものだった。

まず、ジファストの森であれば学生である私達は授業の予習程度でお手伝いとして、受理をすることが出来ていた。だが、ジファストの森を越えたらそれは、戦士達の仕事領域になる。

単純に私達では、受けさせてくれないだろう。

ましてや、カルミアとイキシアの王子がいるのであれば、尚更だ。


そしてもう1つ、理由はあった。

これも王子が関与する事だ。王族である彼らが外出するには必ず”名目”が必要になるらしい。

出掛けたい、等では魔王復活が危惧されている状況では、安易に許可を出すことは出来ない。だからこそ、それなりの名目が必要とされていたのだ。改めて短絡的に提唱してしまった、と反省をした。



だが、これはゲームの通りになったという事でもある…。


シレネ戦後、クエストを受託する相手はタイサン様だ。

そこからストーリークエストやサブクエスト、恋愛クエストを選択していくシステムだったので時期は違うがRPGシナリオに繋がったのだ。

目だけをカスミに向ければ、神妙な面持ちで話を聞いていた。まだ、緊張をしているのか顔色は良くないが少なくとも主人公は『国王は親しみやすい』とタイサン様を評していたのですぐ打ち解けられるだろう。



「―…どうだい、シレネはそれでいいか?」


突然、私に話を振られ意識を集中させた。

「…勿論です。寛大なご配慮頂き、感謝します。国王陛下」


そう言って頭を下げれば、タイサン様は慌てた様子で両手を左右に振った。

「そんな堅苦しい言い方はやめてくれ!…シレネは昔から変わらないな」


魔物討伐の件を話している時とは打って変わり、柔らかな物言いに声色が変わった。

顔を上げれば、少し懐かしそうにいつもの快活な笑みを浮かべていた。考えてみれば、タイサン様には7歳の時からとてもお世話になっている…そして、今回も。



「じゃあ!難しいお話はここまでにしましょう?…シレネちゃん、学園は楽しい?」

ヴィオラ様は察知した様に楽しそうに声を弾ませていた。


「はい、とても楽しくしております」

「まあッ!それはよかったわ!アキレアは問題起こしていない?アスターちゃん、身長伸びたかしら?」

「なッ!?ヴィオラ様は自分をそんな風に見てたんすか!?」

「…お言葉ですが、さすがにもう伸びません」


先程の張りつめていた空気から一変し、和気あいあいと和やかな空気になった。

「コデマリは寮生活はどうだ?」

「お陰様で快適に過ごしておりますわ」


「カスミちゃんは、学園生活はどうかしら?」


ヴィオラ様に話題を振られたカスミは、案の定とても焦りながら「楽しいです」と答えていた。

結局理由は不明だったが、カルミアとヴィオラ様はゲームに様な不仲関係ではないのだし、カスミはこの先もヴィオラ様と関わる事になるだろう。

ヴィオラ様の人柄を知っている私は、きっとすぐ打ち解けられる、等と一種の親心をカスミに感じた。


「あ、あの…皆さんは昔から仲が良かったのですか?」


「そうすね、カルミアとイキシアと自分はこの中じゃあ1番付き合い長いっすね!」


…あれ?

この会話に妙な既視感が沸いた。


「そうだね、俺達とアキレアは3歳の時からの付き合いだ」


…ああ、そうだ。

これは、主人公がカルミア達が幼馴染だと分かる会話の場面だ。


「そんなに幼い時から…」

「うふふっ。そうね、アキレアの名付けはタイサンなのよ…何処となく似ているでしょ?カルミア、イキシア、アキレアの名前が」


ヴィオラ様の言葉に、幼馴染3人は気まずそうにそっぽを向いていた。

ゲームではヴィオラ様と私はこの場に居なかった、多少の違いはあるがRPGストーリーの途中であった場面だった。


「欲を言うなら、シレネも俺がつけたかったんだけどな~」


快活に笑うタイサン様は私の方を見た。

カルミア達と同い年でクレマチス公爵家であれば、私達が生まれる前にそういう話があったのだろうか?

「あら、わたくしは今のお話ではシレネ様の名付けもタイサン様かと思いました」


「いや…残念だがシレネは既に名前が決まっていたんだ…はあ、名付けたかったな~」

「当時もそのように不貞腐れてたわね、タイサン」


名付けの昔話に花が開く様子に傍観していれば、ふと気になる事が浮かんだ。


「私の名付けに候補はあったのですか?」


素朴な事だったが、その様な話題が上がれば自然と気になってしまう。

「俺が名付ける話が出た時にはシレネの場合は既に決まっていたからな」


眉を垂らして、笑うタイサン様は一瞬、カスミに目を向けた。

ほんの僅かの事だったが、それで察してしまった。

恐らく、”カスミ”の名付けしたのは…タイサン様なのだろう、そして元はその名を私に授けようとしてくれていたのだろう、と。


胸がくすぐったくなり、少し踊るような気分になった…。


「そうでしたか…それは残念でしたわ」


…”シレネ”は幼い時から国王夫妻に可愛がられていたのかもしれない。


ゲームでは知りえない事だが…知れてよかった、と心の底から思った。

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