83.唐栗人形は相談した
「…へ?」
「…お嬢、本気で仰っておりますか?」
学園の休息時間に私は皆に言い放ったのだ。
顔面蒼白なカスミ、口をポカンと呆けているコデマリ、顔を引き攣らせているアスター…そして嬉しそうな顔をするアキレアと呆れている王子2人。
この反応をされるのはわかっていた、そして今私自身がとんでもない事を言い放ったことも。
「本気ですわ…これからはジファストの森でなく、チャインカフスの丘の依頼を受けましょう」
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
ザシュッ!
「師匠、聖女様のレベル上げはどうすればよろしいでしょうか?」
グシャッッ
「特訓」
ズシャアアァアアァ……
…そうだけども。
いや、今のは私の質問が悪かった。
「師匠、順序良くレベル上げ特訓をしたいのです。聖女様の力量に合わせた特訓を」
ドスッ!ぐちゃり…
今日は魔法なしで特訓を行っていた。
インフェルの跡地はウバガヨイの森と違い、動物みたいな魔物よりもドラゴン族等の大型な魔物が多く生息しており、1対1の戦闘になる。
そして、私と師匠はそれぞれ対峙している魔物を倒すと、剣の刃についた血を振って落とす。
身体中についている血は水の生活魔法で洗い流して、少しさっぱりした。
「初心に戻る」
??
私が最初に受けていた様な事だろうか。
凶悪な魔物から逃げ回っている記憶しかないのだが、それは既にカスミに教え済みの事だった。
その甲斐あってかは不明だが、ゴブリンやスライム相手とはいえ魔物に立ち向かう精神を持っているし、抗う力も少しずつ、つけてきている。
「師匠、残念ながら既に教養済みです」
「ウバガヨイの森に行けばいい」
さすが、鬼畜師匠だ。
相手が聖女だろうと特訓に関してはまるで容赦がない。そうだった、7歳の女の子をウバガヨイの森に連れていくような人だった。きっと師匠は順序というものを知らないのだろう。
「さすがに聖女様をいきなりウバガヨイの森へ連れて行けません」
きっと、恐怖で気絶する。ゴブリンで怖がっていたのであればサイクロプスなんて精神に大きな傷をつけてしまうだろう。
「ならば、初心に戻ればいい」
いや、だから…ハッ!!
そうか!!師匠は私に敢えて何度も恐怖を与えていたのか!!
恐怖の数だけ乗り越えてきたし、私はその分心身ともに鍛え上げることが出来た。
師匠はその事を言っていたのか…さすがは師匠だ。
「さすがです、師匠!参考にします」
こくり、と頷く師匠に尊敬の念を送った。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢、
「本気ですわ…これからはジファストの森でなく、チャインカフスの丘の依頼を受けましょう」
今のカスミのレベルは10になっていた。
鞭使いは大分上達しているが、魔法を扱えない今は武術に専念し、レベルを上げていくしかない。最終目的地はメディオクリス遺跡。段階を踏んでいけばごく自然の流れでメディオクリス遺跡に行くことが出来て且つ、カスミは光属性の攻撃呪文を習得出来るのだ。
どちらにしろ、魔王復活をすれば通る道なのだから…ただ、1つ懸念点があるとすれば魔王打倒の推奨レベルは70、私がレベル45以上になるまでに6年かかってしまった。
魔王復活までは残り2年。無限レベル上げが出来ない現実世界では果たして、魔王を打倒できるレベルまで上げる事が出来るのだろうか?
「シレネ様、確かわたくしの記憶ではチャインカフスの丘に生息している魔物はジファストの森とは比べ物にならない程強いと聞いておりますが…」
「あれっすよね!!ガルグイユが生息している所すよね!?」
「ああ、そうだな、ガルグイユが群れを成していると聞いた事があるな」
イキシアの言葉にそうなのか、と軽い衝撃受けた。
群れを成す、という事は私が倒したガルグイユが1匹しかいなかったのは偶然だったのか。
正直、ガルグイユ事態はあまり強くないのだが、それでも一応フィールドボスに認定されている魔物であり、油断すれば風の魔法で斬られる可能性が大きい。
セーブが存在しないのであれば、まずは風の魔法で切り刻まれない様にしなければ!…カスミ達を護らなければならない。
「…僕はシレネに賛成だね。現状のままじゃ何も変わらない」
「自分も!賛成です!!」
…反対されるかと思ったが、意外と同意の声が上がった。
カスミに優しい皆には非難を浴びる覚悟でいたのだが、どうやらアキレアの嬉しそうな顔に加え燃える瞳を見ればそうでもないみたいだった。
「それなら、父上に話しを通さなければならないな」
そうだった。
タイサン様の命令で聖女教育を一任されているとはいえ、タイサン様に話しを通し承認を貰わねばならない、そんな当たり前の事を抜け落ちていた私自身に頭を殴りたくなった。
「イキシア様の父上て…国王陛下にですか!?」
「そうだね。まあ…間違いなく承認されるだろうけど」
そうだといいけども…。
少し、短絡的過ぎたかしら?




