76.唐栗人形の錯誤
聖女教育は順調満帆だ。
ゲームのシナリオ通りの出会い方ではないし、時期がおかしいが確かにカスミはゲームのようになってきている。攻略対象者達とも打ち解けて今ではアキレアとコデマリとはとても仲が良い様子だ。
イキシアとは身分の違いから畏まった態度をするが、入学当初と比べれば表情は和らいでいた。アスターとは大きな接点は今のところないようだがそれなりに打ち解けているみたいだった。
…ただカルミアと私には表情が固く、俯いてしまう事が多い。
カルミアは容赦ない指摘をするのでまだわかる…けど、私は?私なりに友好的に接しているつもりだがカスミの様子を見ると良くないようだ。とても心が傷つく…。
「えいっ!」
ピシャッ!と音と共にスライムは倒される。
鞭の修練を始めてからカスミはますます”主人公”になってきた。魔物に怯え、たじろく事はなくなり立ち向かっていく姿勢が見られる様になればさすが主人公だな、と感心する。
カスミはゲームでも鞭使いだ。
ただ、主人公は完全な魔法特化で物理攻撃は乏しく、主人公補正で物理防御はコデマリよりも強く魔法防御はそれなりに強かったがそれでも序盤では苦戦を強いられた。
何故なら主人公は育成ゲームでいう”晩成”タイプだ。
主人公は元の潜在能力は高いのでMP量がとても多かった。
そのMP量が活躍できるのは中盤辺りに”聖獣”と契約をする事で光属性の攻撃魔法を覚える事が出来るようになる。
契約前までは回復魔法しか覚えず防御面が強いイキシアを私はパーティーに入れていた。契約後は一気に主人公として潜在能力が発揮されて補助と攻撃が豊富になり、優秀で戦闘には必要不可欠な柱になるのだ。
「素晴らしいですわ、カスミ様。おひとりでも魔物を倒せるようになりましたわね」
「あ…あ、りがとうござい…ます」
…やっぱり私は怖いのかしら。
魔物の脳天を躊躇なく射貫くコデマリよりも私の笑顔の方が怖い…?
「では、カスミ様にはこれから依頼終了後はご自身のレベル確認をして頂きますわ。試しにカスミ様の現在のレベルを確認してみてください」
個人情報は既に学園の魔法学にて教わっているので教える必要はない。
といっても、個人情報は魔法保持者でなくても誰でも使える唯一の魔法だけども。
「あ…はい。わかりました。個人情報」
勿論、私はカスミの現在のレベルは知っている。
「…レベル4!?」
自分の今のレベルに驚くカスミは大声で叫んだ。
カスミ1人で魔物と戦う術を身に着けてきたのであれば経験値が積み重なりレベルは上昇する。現実ではゲームの様に経験値が均等に振り分けられる訳ではない。
カスミのレベルを上げるにはカスミ自身の手で強くならなければ意味がない。
…現実はゲームの様に甘くないのよ。
「カスミ様の努力の結果がついてきておりますね」
「素晴らしいですわ!」
近くにいたアスターとコデマリにカスミの大声が聞こえていたらしく、賞賛する2人に顔を赤くして「い、いえわたしは…ッ!」と両手を振って戸惑っていた。
そんな可愛らしい仕草に心が和み、私も同じようにしたらいいのかしら、と思うが今更出来る訳もなく思っただけで羞恥心が沸いた。
「…光属性の呪文は?」
「い、いえ…魔法は…」
いつの間にか近くに来ていたカルミアは失意したかのように「そう」と一言返し、アキレアとイキシアの元へ戻っていく。カルミアの態度にコデマリは怒りを見せカスミを励ましていた。
「カルミア様には私の方から後で叱責しておきますわ…」
…一応、カルミアが最初は冷たい態度を取ることはゲームの通りだ。
聖女として成長していく主人公に感銘を受けて、最終的には主人公大好き”溺愛”キャラになるのだが…実際目の前で見ると分かっていても何とも言えない気持ちになる。
「ですがカルミア様の仰る通り、カスミ様は魔法力も鍛えなければなりません」
主人公はレベル3で回復を習得していた。
…亡霊戦ではその回復呪文で戦闘する事になるのだが。
ゲームでは文字一列の表記だけで次の戦闘では使えていたけれど…現実ではどうすればいいの?
似たような呪文がある聖属性の魔法陣で良いのだろうか?
聖属性だけは持ち合わせていない私は専門外で魔法学の知識でしか知らない、むしろ闇属性の事もよくわかっていない部分は多い。
魔王幹部は闇属性の攻撃魔法をしてきたし…単純に考えればディアスに聞けば良いのだけど1人の時間が皆無ではそれは出来ない…。
「まずは1つをしっかり身に着けてから次の段階へ進みましょう?」
「は、はい!」
私にも考える時間が必要だ。
ゲームの知識と現実の知識で最短で聖女を強くする方法を。




