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74.溺愛王子は警戒する




「カスミ様は魔物に慣れてきましたわね」

「はい!皆さんのおかげで慣れてきました!」


コデマリの隣で笑うカスミは前に抱いていた憂鬱は幾分か解消されたようだ。

それにコデマリとアキレアを中心に緊張が解れ、打ち解けてきている。やっと進んだか、と小さく溜息をついた。


「そうすね!ついでに鞭を練習してもいい頃合じゃないすか?鞭でしたら魔物に近づく必要ないんで」

「確かにそれは良い案だな。カスミ自身も攻撃出来る手段を持っておいた方がいいだろうね」


「鞭、ですか…?」


魔物に慣れた、だけでカスミ自身が攻撃手段を持ったわけじゃない。

光属性の魔法を扱える訳でもない、武器を扱える訳でもない進捗状況にただ優しくするイキシア達には呆れてしまう。

僕だったらジファストの森に単独で行かせる。


「さすがはグロリオ団長の子息ですわね。アキレアの言う通り鞭はとても扱いやすいので次の時でも見本をお見せします」


「シレネ様に…褒められた…ッ!」


……とても腹立たしい。

僕の婚約者に忌まわしい感情を持っている輩がいるのは考えるだけでも苛立つのに、学園が始まった途端に全員が堰を切ったように感情を表に出しやすくなった。

アキレアは感激のあまりに握り拳を作り身体を震わせている様子を見れば一目瞭然だ。

7歳の時からシレネと過ごす事が増えた僕は時間の流れに沿ってどんどんシレネの周りに人が増えていく光景を知っている。


「…鞭ならアキレアも扱える。シレネが教える必要ないでしょ」


シレネの肩に手を伸ばせば1番忌々しい従者に止められる。

「カルミア様、ここは学園であり公の場でございます」


取り繕った笑みにはうんざりしているが犬のような従者には心底癇に障る。

イキシアやアキレアはまだいい、弁えてる節があるから。だがコイツだけは弁えるどころか歯向かってくる。


「いいえ、私が教えますわ」

「シレネ様は鞭を扱えますの?」


「勿論です」とコデマリに返すシレネに「自分にも教えてください」と続々とシレネの周りに集い始めるのを見れば苛々が収まる気配がない。

これまでも何度か牽制をしてきたがあまり効いていない、父上がカスミの入学を強引に早めなければ…僕とシレネが2人で過ごせていたのに。

シレネの頭脳であれば試験で僕と張り合う事は分かっていた…。



だから教室は僕と2人にする手筈をしていた。


それなのに…ッ!2人どころか父上は逆手にとって聖女であるカスミを入学させてしまった。

僕の手筈が仇となりイキシアとカスミも同じ教室になってしまった。


「シ、レネ様が…?む、鞭も…」

「お嬢は素晴らしい腕前ですよ」


「そう…ですか。でもわたしに扱えるかどうか…」


カスミは顔を少し俯かせてどこか憂鬱そうになった。



「…なら、君は何をするの。ただ護ってもらうだけ?」



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



コンコン

「カルミアです。父上、少々お時間頂けませんか?」


「入れ」という言葉を聞こえ父上の執務室に入室する。

執務を行う机には書類が山の様に積み重なっている。父上は書類から目を離し、僕の方に顔を向けているが手は止まらずに動かしている。

こういう所は昔から尊敬をしていたがその性格で全てを台無しにしていた…と、数年前までは思っていたが今は一部を参考にさせてもらっている。


「珍しいな。どうかしたのか?」

「…はい。教室隔離の件はいかがでしょうか」


「その件か。2つ条件付きで承認しよう…1つは聖女をお前達と一緒に入学させる、もう1つは聖女も同教室にする、というのなら承認をする」


…は?

父上の言葉が理解出来なかった。


聖女と僕は3歳年が違う。

「…12歳で入学をさせると?」

「貴族だけでなく国民からも聖女覚醒したのなら早速教養を、と多くから提唱されている」


聖女覚醒をしたのなら”魔王復活”もする暗示。

僕に関わらず国民誰もが思う事だ、そして聖女の歴史が正しいのであればより早く育て上げたい、と僕でも思う。

イズダオラ王国に限らず世界の危機に瀕するのであれば早い方がいいだろう。

ただ、教育や精錬を行うのは何も早い段階で学園へ入学をさせる必要はない、王城で行う事も人を派遣する等他にもいくらでも方法がある。

聖女覚醒の事実のみ宣布されたにも関わらず何故、態々令嬢や令息が多く集う学園に目立たせるような事をするのかが理解出来なかった。


「何ごとも先手を打つ事が必勝法だ。聖教会の神官、サフランはカスミが覚醒した属性が何なのかを理解している」

「…それが今回の件で抑制が出来ると?」


聖教会に限ったことではないが”教会”という組織は王族から見ても厄介だ。


「…我が国の悪しき伝統で、聖女はこの国では国王と”同等な権威”を有します。聖女覚醒のみを流布している中で、入学をすれば王族が関与していると露骨に宣伝してるようなものです。まして、聖属性が聖女から”選ばれし者”等ど表明している組織に抑制どころか不審を与えるも同然です」


王家魔法士団に”聖属性”が所属していない、その理由が”聖属性は聖女の使者”等ど国に浸透してしまっているからだった。

4属性と比べると聖属性保持者が圧倒的に少ない点と攻撃呪文が存在しない為、戦闘向きではないとされていたのだが…唯一”回復魔法”が扱える貴重な属性であり、単純に考えれば魔法士団にほしい、と思う属性だ。


「…それとも抑制は教会ではないという事ですか?」


その瞬間、父上の口角が上がり僕と同じ黄色い瞳が光ったように見えた。

「その通りだ。教会()()ではない」


父上の言葉に確信をした。

提唱している輩の中に”大きな権力を保持している”人物がいるという事だ。


…前は一矢報いれられた。借りを返せる好機でもある。

ただ…気に入らない事がある。


「…つまり父上は僕の要求を利用したのですか。婚約の件を秘匿されて公の場では2人でいる事が叶わないという状況でシレネへ考慮した上で要求をしましたが…まさか政治的に利用される等と考えていなかった僕の考えが足りませんでした」



「……すまない。別の形で返そう」




♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「…なら、君は何をするの。ただ護ってもらうだけ?」


入学当初からカスミの態度には不審を感じている。元の性格や身分も相まって僕らに委縮してしまうことは理解できる。ただ…何故かシレネだけには畏怖している。

万一にでも、カスミが教会の人間に余計な発言でもすれば聖女を崇高している組織が何をするか、予想がつく。


「カルミア、言い方を考えろ」

「ご心配なさらないで、カスミ様には皆がついておりますわ」


コデマリの声に安堵したような顔を浮かべるカスミに目を向けた。

ついでにイキシア達はそのままカスミの傍にいてもらえばシレネと時間も作れるな、と考えた。悪くない。


例え聖女であろうとシレネに危害を加えるのであれば関係ない。

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