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※情緒不安定の気侭亡霊



『黙りなさい』

『黙ってるけど?』


学園が始まってからシレネは黙々と作業していることが多くなった。

どうやら授業というのは私語厳禁らしく普段は談話しているカルミアとイキシアも黙しているのを見れば人間社会はこんなことをするのかと思っていた。

魔物社会はあくまで強いか弱いか、従うか抗うかしかなくボクは人間社会のその異様な光景に大きく衝撃を受けた。


何をするにも決まり事があるし、力の強い者が弱い者に従うし、縄張り争奪戦どころか縄張りに招き入れることだってある。

今もそうだ、シレネの方があの教師よりも力が強いのに教師の言うことに従ってる。

ボクの言うことには従わないくせに…。


『…頭の中で話しかけないで』


シレネの影に潜んでいることが多いボクはシレネが成す流動的行動を眺めている。

ただこの学園というものが始まってからは面白味がなくて潜んでるだけでは退屈になってしまい時々話しかけるようになった。

それなのに会話もしてくれない、て使い魔の面倒を疎かにしてるよね。


『別に迷惑掛けてないでしょ、どうせ別の事でも考えてるんじゃないのー?』


ピクリと僅かに口の端が動く。

それに気付けばああ、やっぱり…と思う。この授業の内容なんて既にシレネは知っている知識だからまともに受ける筈がない。別に考えるくらいならボクと話しててもいいでのでは?と考えれば腹が立ってくる。


『私の心情を覗かないでください。色々と考えることがあるの』


…別にボクは覗けるわけじゃない。

使い魔になって5年もすれば四六時中共にいると何を考えているのかとかどういう生活をしているのか分かるようになっていた。今では人間がどういう感情を抱くのかもある程度分かり、洗脳の魔法もやり易くなったのではないかと思う。

ただ、シレネは闇属性の魔法をボク以来使おうとしない。

闇属性が悪、という理論は使い魔になってから嫌という程思い知らされた。そしてシレネが何故、闇属性を隠蔽するのかも理解出来た。


『考えるぐらいなら洗脳しちゃえばいいじゃんー?その方が手っ取り早いし面倒臭くない』

『しません!!全く…それこそ本末転倒ですわ…』


いくら分かるようになってきても考えていること全てが分かるわけじゃない。

ボクと出会う前はどういう暮らしをしていたのかも知らない。国の征服が目的なら闇属性を秘匿する理由もない、だからシレネが何を目的としているのか今のボクでは見当もつかない。

ただ、シレネが隠したがってるのであれば…。



ボクに命令すればいいのに。



コデマリを最後にボクに命令をすることがない。

ボクの存在も隠しているから人前では呼び出すこともないし、1人でいることが圧倒的に少ないシレネと表で会話する機会さえない。

シレネの魔法力が増加している事実が分かっていないぽいし、それがボクのおかげだということも分かっていない。

いくら休暇期間中とはいえ、それだけ貢献しているボクを疎かにして失礼極まりない!!


『だったらシレネの隣にいる聖女とか言われてる女を隠滅しようよ~。ボク、アイツ嫌い』


ピキリ、と顔が引き攣るとペンを握っていた手が小刻みに震えている。



『それはぜっったいに成りませんッ!!』


キーンと頭の中が貫かれたような怒声に思わず頭を抑える。

『うるさいなー』


頭から手を離してシレネに文句を続けた。

『突然怒鳴らないでよ、シレネのせいで頭の中がクラクラするんだけどー』

『でしたら、黙ってください』

『ボクに黙ってほしかったらアイツの近くにいるのはやめてくれない?』


はぁ、と小さく溜息をつくとシレネは困惑した顔をする。

正直ボク自身はアイツが現れた瞬間、身体中が拒絶するような嫌悪感に苛まれていた。それが何故なのかは分からないけど。

ただシレネもアイツと出会ってからコデマリ以上に頭を捻り思い悩む事が増えた。

それだけ悩ましい存在なら消してしまえばいいのに、と思っている。だけどボクの感情で殺してしまえばシレネに飛び火がかかるかもしれない。

この国の王にアイツの教養を頼まれているのは知ってるし…。


『ディアス…ごめんなさい』


『…は?何急に』


まさか謝られるなんて思いもしなかった。

つい数分前の怒声を上げたのに今は暗く沈んだ声になり感情の起伏が激しいなと思う。それに…謝罪の意図が分からない。

『でも…カスミの傍を離れることは今はまだ出来ないわ。少しの間だけ辛抱してくれないかしら…?』


…そんな風に言われてしまったら答えは1つしかないじゃん。


『ボクは使い魔だから…主の命令には逆らえないし従うしかないじゃん』

ボクの要望を基本聞いてくれないのはわかっている。


『ありがとう、ディアス』


後ろめたいのか申し訳なさそうにシレネは”ありがとう”と言った。

違う、そうじゃない。ボクはそんな声でお礼を言われたくない、そう考えたらシレネの言葉に何も返せなくなってしまった。


アイツのせいでシレネが悩むくらいなら…消しちゃえばいいのに。



…消して、てボクに命令すれば誰にも気付かれずに殺せる。



そうしたらまたあの時のような”ありがとう”が聞けるのに。

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