72.クエスト
ついにきた。
セカシュウはクエスト受けてストーリーを進めていくゲームだ。
受けたクエストによって森や丘、洞窟等のステージに行きランダムエンカウントで魔物を倒してレベルを上げていく。
魔物が落とすアイテムは後々武器や防具作成に必要だったり特定の魔物は装飾品を落とす事があり魔法力上昇やMP量上昇等を落とす事がある。裏ボス戦では重宝する装飾品はレアドロップになっており何度も何度も同じクエストをやり込んでいた…。
ストーリーに必要不可欠のクエストがついにきたのだ。
ゲームでも最初は内気な主人公を鍛える名目でジファストの森のクエストでゲームシステムの解説画面があった。
つまりクエストが始まったと同時に時期は違うがシナリオ通りに進んでいる、ということでもある。
「海豹ッ!」
ビシュブシュッ・・・・ッ!
「塵土爆」
ドオオォォオオンッッ!!
「よっ、と!」
ジュシュッ!ザクッ!
…これではカスミのレベルが上がらないのではないだろうか。
「…炎虎爆」
ボアッ…ドゴオオォォオッッ!
「ハアァアッ!」
ズドドンッ!
「…あの、皆様?ゴブリンやグレムリンを一掃してしまっては本末転倒です」
イキシアの提案通り学園の休日にクエストを受けることになった。
タイサン様の承認はすぐ下りたので早速、魔物退治クエストを受けて私とカスミ、そして主要キャラ全員でジファストの森に来ていた。
ただ…ゲームよりレベルが高い主要キャラ達は容赦なく死骸の山を形成している。
「何言ってるんだシレネ、ゴブリン50匹の討伐依頼を受けたなら倒さなければいけないだろ?」
私の方へ向きながらイキシアの手にある銃はゴブリンへと放たれていた。
パンッと乾いた音が響けばゴブリンの頭から血が噴射して倒れていく。私の隣で恐らく私とは別の意味で目の前の光景に引いているカスミは口を両手で覆い立ち尽くしていた。
何となく予測していたがカルミアとイキシアもゲームより強かった。
何故か2人はレベル13に達しておりそれを見た瞬間頭がクラっとして視界が揺れた。そしてアスターは何故かレベル20になっており私と個人特訓をしていた時より2も高くなっていた。
「磁土」
アスターが呪文を唱えるとゴブリン4匹はその場から動けなくなる。
魔物の動きを封じる呪文を唱えてたのだ。学園の魔法学では比較的覚えやすい魔法陣や呪文等は教えられている。
ただ、あくまで教養のみで魔力血液の暴発防止の為に実施されることはないのだが、アスターは早速使いこなしている様だ。
「んで、ゴブリンを止めたんだ?」
「動かなければカスミ様もご安心出来るでしょう」
「…いや動かないと意味ないでしょ。炎舞」
ゴガギャアァと雄叫びを上げる4匹のゴブリンはカルミアの魔法によって炙られて消し炭になってしまう。
「カルミア…魔物の姿に慣れるまでは止まっていた方がいいだろ。カスミは近づく事が出来ないのだから」
パンパンッと銃声音が響き目を向ければイキシアは銃の反動を物ともせずに素早い手つきで引き金を引いては的確に撃ち放つ。
水属性のイキシアは手先が器用でゲームでも銃使いだった。
防御力特化の彼は魔法、物理の攻撃力は乏しいがHPが高かったのと序盤では主人公が補助魔法を覚えるまでは”回復弾”や”解毒弾”で他キャラを援護する技を持っており、ストーリーが進むにつれて状態異常攻撃をしてくる魔物が増えてくると重宝していた。
ただ残念ながらある程度ストーリーを進めればアイテムが豊富になり購入する資金が調えられるので私は中盤辺りからパーティーには入れていなかった。
…回復弾ってあるのかしら?
普通に考えれば回復弾を人に撃ったところで回復するというよりは致命的な怪我をする。
「…それをしていたら途方に暮れるでしょ」
対してカルミアは長剣と魔法を平等に扱っていた。
攻撃、防御どちらも他キャラと比べれば特化している訳ではないが、2属性持ちである彼は物理と魔法のバランスタイプで物理攻撃と防御はアキレアの次に強く、魔法攻撃と防御はアスターの次に強かったので苦々しい事にパーティーに入れていた。
なので、必然的にゲーム内ではアキレアとカルミアの好感度はとても高かった。
「いやですわ、カルミア様はレディのお気持ちが汲み取れませんのね」
「…コデマリ、それは関係ない」
「あ、あのッ皆さんは今回がは、じめてですよね…?何故そんなにもお強いのですか?」
…私もそれには同感だ。
アキレアとコデマリは校外学習の時に納得したが王子2人もレベル高い事に関しては疑問だった。彼らもレベル5からスタートだったのに。
護身術の教育があったとはいえそれだけでは恐らくここまでレベルは上がらない、と思う。
「ああ、俺とカルミアは護身術を受けていたからね」
「…あと僕らもアキレアと同じで依頼を受けてたから」
「この森でよく3人で鍛錬してましたんで」
え…そうだったの?
王城通いが始まってからはコデマリも含めて王城で勉学を王子達と学んでいた。そして護身術の時間は変わらず自由にしておりコデマリと談話して過ごしていた。
まさかその間に3人は依頼を受けていたらしいのだ。
「そう、でしたか…。アスターさんもですか?」
カスミから話題を振られたアスターは「オレは…」と少し言葉を詰まらせてパチっと私と目が合ってしまう。
アスターのレベルは大半が私との個人特訓のせいだ。
「オレは庭師に少し教わっておりましたから…」
眉を垂らして苦笑染みていた。
「アスターは自分と一緒にタツナミさんから指導受けてたんで」
!!
え、いつの間に?
私と個人特訓後に…?
「アスター…指導て?」
「…オレも合間にアキレア殿と受けておりました、お嬢が王城へ通い始めた頃からは本格指導を受けてました」
「学園で習ったのではなくて?」
「それも勿論ありますが、お嬢を見送り後に少し指導を受けておりました」
どうやら気付かない間にアスターは個人特訓を熟していたらしい、あの無慈悲な鬼教官、タツナミの手によって。
「なのでカスミ様には自分らが護るんで!徐々に慣れればいいんすよ…魔物は恐ろしいっすから」
ニカッと笑いアキレアは赤茶色の髪は陽光で反射して輝いて見えた。
軟弱、なんて言葉は似つかわしくなく比較的細身の身体つきをしているのに目に見える腕や足、首筋にも筋肉がついて正に”屈強”という言葉の方が今のアキレアには似合う。
「自分、騎士になるんで。カスミ様をお護りします」
銀色の剣を携えて真紅の瞳を燃やすアキレアは私が好きなアキレアだ。
成長とは恐ろしいものだ、なんて上から目線な事を思うが昔を知るからこそ思える事だった。むしろ信念違いだと考えてた私が恥ずかしい。
彼は確かにゲームのようなアキレアになったのだから…。
そう考えると少し寂しい気持ちと私自身の虚無感が沸いた。
本来であれば私がこの場所にいることはない。
…彼らはカスミと共に私を殺しに来る人達なのだから。
「わたし…皆さんについて行けるように頑張ります!」
水色の髪を靡かせて決意を固めた主人公は強く言い放った。
炎虎爆<フラガーラティオ>習得レベル10
1匹の獣の形をした時限爆弾。
相手に当たると爆発。
磁土<マンニャスゥリ>習得レベル20
電気を帯びた土、砂鉄のようなもの。
相手の動きを封じる。




