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66.内気少女の出会いイベント



「お嬢!」


教室の扉が開きアスターが入ってくる。


「…犬め」

「カルミア様、何か仰いました?」

ぼそりと何か呟いた気がするがよく聞き取れなかった。

なんでもない、と言われたが不貞腐れているようにもみえて何かしてしまったのだろうか、と考えてしまう。

カスミの事がありどうしても過敏に反応してしまう。


「お嬢、大丈夫ですか?何もされていませんか?」

「?え、ええ。大丈夫よ」


…さすがに初日に何かしてくる者はいないだろう。

「アスター…少し神経質じゃないか?」

「お嬢の従者なので神経質ぐらいが適切ですから。何せお嬢には()()()虫を寄り付かせたくないので」

「…ほぉ?その虫とは何処の誰を指しているのかご教示願いますか?」


なんだろう。

こんなことを思ってはいけないのだろうがアスターとカルミアは同じ匂いがする。にこにこと表面上は笑顔なのに片や真っ黒な覇気と片や猛吹雪な覇気を放出させて何時ぞやの心臓がキュッとする感覚が思い起こされる。

「待て2人共、この場所にはカスミもいるのだから…程々にしなよ?」


イキシアに窘められつつカルミアとアスターは睨み合う。

喧嘩するほど仲が良い等とは言うが果たしてそうなのだろうか?

「相変わらずっすね、カルミアとアスターは」

「本当ですわ。片や王族片や公爵家従者なのですから少しは自粛されてはいかがです?」


ガラガラと扉が開き顔を向ければアキレアとコデマリだ。

コデマリの正論にアスターは少し効いた様子で口を尖らせてそっぽを向きカルミアは平然として気にしていなさそうだ。

「ところでそこの女の子は聖女様っすよね?」


アキレアの言葉にハッとしてカスミの方を見れば唖然とした顔で私達を眺めていた。口を開けている姿でさえも可愛らしさを感じる。


「カスミ様、大変お恥ずかしいところをお見せして申し訳ございません。彼はアスターと言います、私の従者をしておりますので以後お見知りおき願いますわ」

「シレネお嬢様の従者をしております、アスター・ベラドンナリリーです。お見苦しいところを申し訳ございません」


いえ、と慌てふためく姿にアスターは口角を僅かに上げて小さく、くすっと笑む。

「カスミ様、オレは平民なのでどうぞお気を楽にして下さい」

「ん!?自分も平民なので楽にしてほしいっす!」

「いや、アキレア殿はまず名乗ったらいかがです?」

「ああ、自分はアキレア・アマランサスです。自分は平民枠として入学してるんで」


「わたくしはコデマリ・バイモ・ヴィスカリアです。カスミ様会えて嬉しく思いますわ」

気品を感じる穏やかな微笑みは正に完璧令嬢そのもの。

カスミも緊張の糸が解れたのか、コデマリに負けない穏やかに微笑み3人に自己紹介をしていた。やはり私だけは怖いのかしら、とまたショックを受けた…そしてゲームとは全く異なる出会い方に密かに危惧をした。



「あ、あの…ッ!わたしが聖女とはどういう事なのでしょうか…」


この様子ではタイサン様にも特別な説明を受けぬままここへ来たのだろう。

一体どういうつもりなのだろう?聖女に関する事は私へ全て一任するとでも言うのだろうか…。

皆に目を向ければ神妙な面持ちで黙してしまった。



「カスミ様、この後のご予定はいかがですか?もしご都合がよろしければ私の屋敷へご招待させていただけませんか?」


入学式の今日はもう学園は終わりで明日から本格的に通学が始まる。

それであれば話せる範囲でも教えてあげた方がカスミにとっても安心できる材料になればいいと思った。それならば学校で話すには人が多すぎるので私の屋敷に招待して話す方が良いだろう。

こくり、と重く頷くカスミを見れば早速向かうことにした。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「―…どうぞ」

「あ、ありがとうございます!」


フランネとルリが紅茶とお菓子を用意してくれた。

カスミを連れてきたときにルリとタツナミの目の色が変わったのを見て何かしらを察したのかもしれない。一瞬の変化ではあったがルリは何事にも鋭い。

「あの…すみません。こんな招待していただけるなんて…」

…今はカスミに集中しなくては。



「とんでもありませんわ、こちらこそ急なご招待になって申し訳ないわね…さてカスミ様、今からお話する事はカスミ様にとっては戸惑いが大きいお話です」


顔をバッと私に向け困窮に染まる顔色を見れば彼女にとって過酷な話をすることに気が引けてしまう。

「…どちらにせよ、遅かれ早かれ聞く話なんだから。早い方がいいでしょ」

カルミアの言葉に誰も言葉を発さなかったが他の皆も同意の様子だった。

…まぁ、仰る通りなのだが。どうも実妹となると調子が狂ってしまう。



「カスミ様、貴方様が覚醒された属性は”光属性”です。聖女の力を覚醒されたカスミ様にはこれから復活するであろう魔王封印戦争の最前線に立って頂く必要があります…聖女のお話は歴史等で粗方ご存じかと思いますので省きますが、私達はカスミ様が強くなるためのサポートをさせて頂きます」


瞼が見開いていき困惑は顔面を真っ白に染め上げてしまった。

小さな唇を噛み締めて僅かに身体を震わせていた…自分が同じ立場になっても同じ反応をしていただろう。つい最近までは平民としてイズダオラ王国の国民として過ごしていた彼女は唐突に日常が奪われた挙句世界の危機を救いなさい、だなんて。

…私も前世の記憶を知らなければきっと同じだったかもしれないわね。

今のカスミの姿に6歳の時の自分を重ね妙な既視感に襲われた、境遇や背負っているもののレベルは違うけどもどこか似ている気がした。


「…わ、わたしには出来ませんっっ!!なんなんですか!?だってわたしは、わたしは修道女を目指していたのに…ッ魔王封印戦争に立てだなんて!」

「落ち着いてくださいませ!カスミ様」

「カスミを1人で戦場に立たせる等させたりはしない、俺も援護する!」

私の話に混乱状態のカスミにコデマリとイキシアが落ち着かせようとする。



「わたしに出来ませんッッ!!」


「…出来る、出来ないの話じゃない。君が聖女の力を覚醒させた以上嫌がろうとやってもらう」


酷く冷たい声色は普段の重圧なんて比ではない。

ぞわりと背筋に沿って悪寒が走り身震いしてしまいそうだった。そしてその冷酷ともとれる眼差しを向けられたカスミは底知れない恐怖を感じてるだろう。



「カルミアッッ!!」


ビリビリと今度は電気が走る感覚に襲われた。

カルミアとは別の覇気に肌が痺れる程強いものだ、そしてその怒声の主であるアキレアはグロリオ団長を想起させた。


「…ふぅッぐ」

只ならぬ空気感に一変し耐えられなくなったカスミは大きな瞳を滲ませて一筋の涙が零れた。

コデマリはいち早く気付きカスミの元へ行き背中を優しく摩った。


「お嬢…これ以上は難しいかと」

アスターの言葉に私も同意し専用馬車を所有していない私はイキシアに送り届けてもらえないか依頼しイキシアも快諾をしてくれた。

コデマリもカスミが心配ということでイキシアと共に付いていくことになった。


「それでは失礼しますわ」

「カスミ、さぁ行こうか」


カスミを慰めながらイキシアとコデマリは退室していく。

それを後目に見送ればカルミアとアキレアへと目を向けた、今にも手が出そうな程アキレアは怒りで顔を歪めている。このような姿は初めて見る。


「カルミア、12歳の子供だぞ!?」

「…それが何の理由になる?年齢がどうあれ聖女の力を覚醒したなら魔王復活は近いてことだ。あの子が嫌がろうと役目は変わらない」

「お前が言うことは正しい、っだが言い方や時期というのがあるだろ!」

「…時期とはいつだ、魔王復活した時にでも言えと?」


「お辞めください!!…元は私の早まった行動が原因です、今ここでおふたりが言い争っても水掛け論にしかなりませんわ」


このまま白熱して埒が明かなくなりそうと判断して止めた。

私の言葉にカルミアもアキレアもチラリと目を向けたがすぐに逸らし黙してしまった。


「シレネ様…申し訳ございません。自分も失礼します」


そう言い残してアキレアは退室してしまった。


「…恐れ入りますがカルミア様も本日はお帰り下さい。少々皆、頭を冷やした方がいいでしょう。明日から学園も開始されるのですから」

「…そうだね。僕も失礼するよ」

重そうに腰を上げた。



「…シレネ、僕は()()するつもりだから」


それだけを言い残すとカルミアは去っていった。


??

それは私にじゃなくカスミに言うべきなのでは。


既にゲームシナリオと大きく違う展開の数々に深く溜息をついた。

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