65.カスミ・スノーフレークという人物
「は、初めましてッ!わ、わわたしは!カスミ・スノッ…フレークと申します!」
教室内の自己紹介。
ありがちな事であるがカスミにとっては緊張と不安でいっぱいになるのは仕方ないことだ。何故ならこの教室にはこの国の王子であるカルミアとイキシア、そして公爵令嬢である私しかいないのだから。
なぜこんなにも極端なクラス分けをされたのか謎だったがカルミアがどこか悪どい顔をしていたので何かしたのだろう。
「ふふっ…カスミ様が緊張なさるのは無理もないわよね、私はシレネ・クレマチスと申します。これから宜しくお願いしますわ」
手を差し出すと顔面蒼白なカスミは恐る恐るという感じで私の手を握った。
正直これが私個人に対してなのかそれともこの教室の異空間ぷりに対してなのかわからない。後者であると信じていたい。
…大丈夫、レベル1のカスミに私の靄は見られない筈。
「イキシア・ダリア・グラジオラスだ。畏まらなくていい、と言っても今は無理な話だよね」
怯える小さな少女を落ち着かせる様に膝を折り下げ、カスミと同じ目線で自己紹介をするイキシアはさすがの紳士だ。私も同じようにすればよかったと後悔する。
カスミはイキシアの振る舞いに少し精神が和らいだのか小さく微笑んだ。
「…カルミアと申します」
短い挨拶だが、にこやかな顔にカスミはイキシアの時と同様安堵しているのか私には恐る恐るだったのに対しカルミアとの握手はすんなりと握り返した。
やはり私はゲームの設定通りにカスミとは敵対する様に出来ているのだろうか?私の笑顔、そんなにも不気味かしら。
何度見てもシレネの顔はお人形感は抜けないが美しい顔をしているしシレネの顔は気に入っている。今であれば私はセカシュウで1番好きなキャラ認定しても良いぐらいだ。
―ハッ!!
これが主人公とカルミアとイキシアの出会いイベント、になる?
自己紹介が終わり今後の学園生活の流れを教師から説明を受ける。
なので私はその間にセカシュウの恋愛ストーリー学園編を振り返ることにした。
まず主人公は光属性を覚醒した事実は知れ渡っており入学時には注目の的になる。
それは攻略対象者達からも例外ではなく接触を図ろうとするところから物語は始まる、ただゲームでは貴族枠として主人公は入学するが年違いでカルミアとイキシアとはそもそも教室が異なる。
だからこそ出会いイベントではイキシアは入学時に主人公に自ら会いに来る。カルミアは学園が本始動してから図書室でサボっているところで出会う。
そもそも既に色々おかしい、カスミが15歳じゃなく12歳で入学という時点からおかしいしシレネの成績は中の上ぐらいでカルミア達とは教室が別だった。
むしろカルミアとイキシアそしてコデマリが同じ教室でシレネは授業の合間に通っていたのだから。
そんなストーカーまがいの事をしていてイキシアからは『あまり目立つ行動はしないでほしい』と言われカルミアからは『近づくな』とまで言われていた。
…あれ、私のセカシュウ知識は役立つのかしら。
いえ!役立たせて見せる!だって私はこの時の為に策略王子と戦い、師匠の鬼畜特訓に耐え、貴族社会を生き残る術を磨いてきたし、しまいには亡霊を使い魔にしたのだから。
これまでの気苦労を無駄にしたくない…セカシュウの世界を楽しむ為にはさっさとカスミには魔王を打倒してくれなきゃ困る。
そう考えれば先程感じた不安や焦燥は綺麗に消え去った。
改めてカスミの姿を垣間見ると、やはり遠巻きからでも目立っていた水色の髪は光に当たると輝いて見える。平民である彼女はミディアム程の長さに毛先は外に跳ねていた。シースルーな前髪を横に流しており、正に清楚な女性を想起される。
今は12歳の少女らしいあどけなさがあるが、3年後の15歳の時はきっと今よりも女性らしい魅力的な女の子になるだろう。
薄水色の瞳はカスミ自身の純粋さを表しており”聖女”を抜きにしても引き寄せられる魅力を既に持っている、あの師匠がカスミに引き寄せられたのも納得がいく。
師匠は最後の言葉に『お慕いしておりました』と言葉を残す程主人公への想いが強いのだから。
…やはり少し嫉妬してしまう。
ゲーム知識のおかげでカスミの魅力がわかる今は羨望と嫉妬が沸々と沸いて来そうになるがその考えを強制的に止める為に別の考えを呼び起こした。
―カスミ・スノーフレーク
セカシュウの主人公であり光属性を持つ聖女。
そして…私の実妹だ。
今考えれば父上の策に見事ハマッていたのだと痛感する、0歳にして聖呪の儀式に出された挙句何かしらの理由で修道院へ送られた。そして聖女覚醒をすればまるで善人のように近づき再びクレマチス公爵家に迎え入れたのだ。
そう、考えればカスミもとても悲惨な人生だ、彼女はその事実を知らないほうがきっといい。
私の役目はカスミに聖女教育を施していくこと。カスミの信頼を取る為にも苛めない、恋の応援、魔法力の助力が重点だ。
苛めない、これはそのままの通り私が洗脳の魔法を使わなければ問題ない。
恋の応援、カルミアとアスタールートが濃厚だけどもカスミが好きになる人は全力で応援、強いて言うならカルミアルートにしてほしい。
魔法力の助力、これはゲームでも光属性の事や光以外の属性を持たない主人公は最初は魔法力の事をよく理解していなかった。だがこれは単純にカスミが自覚していなかっただけでこれまでも何かしらの兆候があった筈だ。
例えば火属性持ちが小さな火を出す生活魔法を無意識化で放出することで、自身が魔法力保持者であり属性の自覚が取れるように”覚醒”はカスミ自身が魔法力保持者として自覚をしただけだ。
現に私も闇魔法を使えたのだし。
つまり、きちんと魔法力の知識や魔法力の感覚を教えればカスミはゲームよりも断然に早く聖女の力を身に着けることが出来る。
「…シレネ、先程から何を考えてるの?」
「お前…話を聞いてたのか?」
突然の横やりに考えに集中していたのが途切れてしまった。
「ええ、勿論聞いておりましたわ」
だけれども改めて私のやることは纏められた。
纏めると小ボスは殺されないように聖女教育をする、だ。