64.ゲームは開始された
「あの御方が聖女の力を覚醒されたカスミ様ですわね」
「俺らと同時期に入学等…父上も思い切ったな」
「失礼だが意外と普通の可愛らしい子っすね」
…何故?
聖女の入学は私らが18歳の時ではないの…?
「…父上の思惑はともかく、接触する必要があるね」
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豪奢な馬車に揺られながら私は窓から外の景色を見ていた。
城通いが開始されてからはこの街並みも見慣れたが実は1度も街中を探索したことがなかった。お店での買い物も私自身はした事がなく必要なものは使用人である皆が揃えてくれていた。
父上から命令されている、という事もあるが既に色々な意味で目をつけられている私が目立つ行動をすることは好ましくない。
フィールドの冒険だけじゃなく街中を探索していきたいが父上からの監視が強まっている以上屋敷の皆に迷惑を掛ける事は出来ない。きっと皆が口に出さないだけで何かしらの通達が来ていると思う。
だが、今日は見慣れた景色の中で一味違った。
マージカラ学園の入学式。
15歳になった今年から私も入学することになる、勿論だがカルミア、イキシア、アキレア、コデマリもだ。これは入学する時に知ったのだが他国令嬢であるコデマリはマージカラ学園の入学はイズダオラ王国の国王であるタイサン様と隣国の国王の承認が必要になるらしい。
確かに考えてみれば国内の学術機関へ入学が義務付けされている世界観では前世の高校や大学を選択するのとは訳が違う。どちらかといえば外国の小学校に通うと言っているようなものだ。
何度も思ったがゲームの裏側はとても複雑だ。
「…シレネ、緊張でもしてる?さっきから険しい顔をしているけど」
…しまった。
つい考え込んでしまっていた。
「仰る通りですわ、カルミア様。新たな世界へ行くのですから」
ゲームの開始が刻々と迫ってきていることが実感する。
6歳の時に前世を思い出したとはいえ、それでも時間の猶予は充分にあったのだから。だからこそ私は私なりに対策を取ってきた。
ゲームの世界観と現実の世界観で試行錯誤をしてきた。
レベルは50を超えているし呪文だって使える、攻略対象者達とは少なくともゲームよりかは親しい間柄だろう。未だ貴族間からは”不気味”とは思われているが”人形”とは思われていない。
…コデマリとイキシアが婚約関係ではないのが気掛かりだけど。
「…大丈夫、僕はシレネの傍にいるから」
―『アイツは僕に付き纏っているから気味が悪い』
不意にゲームのカルミアのセリフが過った。
退屈で気怠そうな顔のカルミアを不審の感情を顔に浮かべさせていたシレネはある意味では主人公を除けば唯一、彼の厚皮面を破っていた。
「なりませんわ、カルミア様。私達の婚約は秘匿されている中で行動を共にしていれば必然的に尾がつきます」
「…何故そんなことを気にする?それにその件は噂程度だろうと処罰の対象になるでしょ。さすがにそこまで愚行をする輩ではない」
確かにカルミアの言う通りだ、だからこそゲームでもシレネは婚約者に付き纏っていた。
全てがゲームと真逆の行動をすればいいとは言わないがなるべく避けたいところだ。主人公への嫌がらせをしない、むしろ聖女教育を担っている。
ただ、万一私が主人公へ敵対心を持ってしまったら?
…感情のないシレネが都合よく主人公だけに嫉妬したのは”ゲームの設定”で敵対するようになっていたから。
「聖女様や魔王復活の兆しが強まる中で不必要な不審への対策に尽くすべきですわ」
もし私がゲームの設定通りになればこれまでの事は全て水の泡。
それどころか私に協力をしてくれたタイサン様、ヴィオラ様そして師匠は自らの失態を覆す為に持てる力をすべて使って私を殺しにくるはず。
その上でカルミア達との学園生活で関係性を不審がられれば同時に王族への不審になる、今までの恩を仇で反す真似はしたくない。
怪訝な目を向けてくるカルミアに7歳の王子誕生会の日に尋問されたことを想い返す。
「…そうだね。シレネの言う通り措置があるとはいえ対策を怠るなど…決して許されないね」
…ああ、進化している。
最近はにこやかになって愛想が良いな、と思っていたが悪どい面をするカルミアは悪い方向へと進化していた。7歳のカルミアがとても可愛らしいかったと思えるほどに。
やめて頂きたい、いくら王族の馬車とはいえ狭い空間なのだからその真っ黒い重圧を放つのはやめて頂きたい。本当にカルミアは闇属性を持っていないのだろうか?
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「お見事な素晴らしいご挨拶でしたわ!さすがシレネ様ですわね!」
「ありがとう、コデマリ様」
式が終了し、コデマリからは大げさに褒めてくれた。
入学式事態はいたって普通なものだった。
前世同様に新入生が入場した後は学園長の式辞、来賓紹介と祝辞や新入生代表挨拶。今年は王子入学というのもあり国王であるタイサン様の式辞も加えられていた。
そして新入生代表に選定受けた私は登壇をして挨拶をしたのだが、事前に用意されていた言葉を暗記して言っただけのこと。この学園でも入学前に学力試験が実施されていたのだ、学力によってクラス分けをする為、その試験で首席という結果を残した私は王子を差し置いて登壇をして挨拶を行ったのだ。
「シレネ様すごいっすね!自分も皆と一緒だったらよかったなー」
「何言ってんだ、授業だけが別なだけでそれ以外は関係ないだろ」
「そうですわ、アキレア様。その様なこと仰ればわたくしだってクラスは別なのですから」
そうなのだ、アキレアは平民枠として入学しているので校舎が別になる。
そしてコデマリは私達と学力差で別の教室になる、残りのカルミア、イキシアそして私が同じ教室になる。
「あとおひとり、シレネ様方と同じ教室になられる御方がいらっしゃるのですよね?」
「…カスミ・スノーフレーク」
その名を聞いて私達に緊迫した空気が漂った。
心臓がドクン、と1度大きく波打った。
タイサン様が聖女覚醒を宣布した日、私達はタイサン様に呼ばれた。
聖女を覚醒された方の名前はカスミ・スノーフレーク。
魔法力の覚醒はこんなにも早い段階だったのか、と思ったが聖呪の儀式を知っている時点でタイサン様が主人公の存在を秘密裏に監視兼護衛をしていたのだろう。
頭の中では単純な疑問で覆い尽くされた。
何故、主人公がこんなにも早く入学したのか。
タイサン様の考えがわからない、12歳の小さな平民の女の子を貴族社会に放り投げる等。
「1度見てみたいですわね、聖女様の姿を」
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「…父上の思惑はともかく、接触する必要があるね」
「それなら俺達が同じクラスだし必然的に接触するだろ」
あれ、てことは主人こ、じゃなくてカスミは12歳にして私達と同じ頭脳を持ってること?
天才すぎるのでは?
「とても可愛らしい御方なのに成績が負けた事は悔やまれますわね…」
「…確かに」
コデマリは純粋に12歳に負けたことが悔しがり、カルミアの成績は2位だったがカスミの頭脳には関心を向けている様子だ。
カルミアの言葉を皮切りに私達はカスミの姿を遠巻きに眺めた。
1人だけ異色を放つ幼い少女を見ればカスミという人物が安易に特定が出来た、とても綺麗な水色の髪は遠くからでも目立っていた。
カルミア達は既に興味深々なのを見ればゲームの通りに出会うのだろう。
不安と焦燥に駆られた。
その感情に気付けば不安は更に募る。
ゲームよりも早くゲーム開始されてしまった。




