62.聡明国王の思惑
「デュラ、君の見解を聞かせてくれ」
「問題ないかと」
可愛くてどうしようもないシレネが再びこの王城通いが始まる。
それはとても喜ばしいことだ、それにカルミアとイキシアの話を聞けばコデマリ嬢の教養は素晴らしい結果となった。
「タイサン…本当によろしいのです?シレネと”カスミ”を会わせるなど…」
瞳を揺らし暗く沈んだ声はヴィオラの複雑な心情を語っていた。
「シレネはコデマリ嬢の”教育”も合格した。シレネに任せて問題ないだろう」
納得はしていないヴィオラは何か言いたそうにしているが、口を噛み締めるように噤む。
「カスミの様子はどうだい」
ヴィオラから目線をデュラに移した。
「特に変化はございません」
「そうか」と返すと頬杖をついて考える。
元々ザクロからヴィスカリア家とイキシアの婚約を提唱されていた、確かにカルミアの婚約が確定されたのならイキシアの婚約も考慮しなければならない。
ヴィスカリア家に関しては他国の家系ということもあり詳細までは知らない。精査するにしても名目が必要だった、シレネとコデマリ嬢を利用するのは憚れたが。
「国王陛下、お戻りになられました」
デュラの言葉に我が息子達が戻ったということだ、デュラは窓から退室をする。相変わらずだな。
衛兵を呼びここへ案内する様に伝える。
…さてどうしようか。
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「ご無沙汰しております。タイサン国王陛下、ヴィオラ国王妃陛下」
「コデマリ嬢、この場は公式の場ではないのだから楽にしてくれ」
以前のような所作ではなく素晴らしい振る舞いを身に着けているのを見て心から感心した。
やはり聖女教育は始めてもよいだろう。
”聖女が覚醒”したと公表してもいい頃合だ。
「シレネ、コデマリ。2人共ご苦労だったな…疲れただろう」
労いの言葉をかけると不思議とシレネは安堵していた。
王命という事が少なからず負担をかけてしまったと罪悪感と一緒に抱き締めたくなる。最近は前よりも増してシレネの可愛さは急増している。
もうどれ程ヴィオラとシレネの可愛さを語り合っただろうか。
「イキシア、コデマリ。2人に話しがある」
その言葉だけで察したのかカルミア達は腰を上げ、挨拶と共に部屋から退室をした。
ヴィオラも腰を上げたがそれを止め、イキシア、コデマリ、ヴィオラの4人だけが部屋に残る。イキシアは怪訝な顔をしているがコデマリは気を張っているのか身体に力が入っている。
いつしかのシレネだな、と思えば自然とクッと堪えた笑いが漏れ出てしまう。
「父上…何か変なこと思い出しました?」
すまん、と謝罪をし俺も顔を引き締める。
「2人の意見が聞きたくてな。イキシア、コデマリ。2人に婚約の提案が上がっているのだ、俺はこの件は2人の意見を聞きたい」
愕然とする2人にその反応は仕方がないだろう。
というよりも本来、婚約の話を本人達に問いかける事例は過去ないだろうな、と思う。王族から婚約の申し込みがあれば断ることが出来なくなる、今回は我が兄ザクロが提唱しているともなれば先手を打つに越したことはない。
何を考えているのか正直、検討もつかないが。
それにイキシアもカルミアのように自らが婚約者にしたい令嬢を見つけてほしいと思っているのだが、イキシアの様子を見れば…それは難しいだろうな。
「父上、母上。俺は以前に申した通り魔王の件が終息するまでは婚約の件は考えておりません」
「お言葉ではございますが…わたくしも同感でございます。それにわたくしには…想い人がおりますのでその様な感情を持ち合わせた上でのご婚約は不敬に値すると思います」
想い人…か。
「タイサン、これは阻止しなくてはいけませんわね」
「そうだな」
笑みを向ければイキシアはなにか勘繰る目を向けていた。
高笑いしたくなる抑え込んだ、イキシアがそのような目線を向けてくることがとても嬉しい。
「意見を参考にさせて頂こう。下がって良いぞ」
2人が退室するのを見届けデュラを呼ぶ。
「デュラ、ちなみにシレネは強くなったのかい?」
7歳だった小さな少女は強くなりたいと願った、13歳になった今でも小さいが果たして剣を持つことが出来るまで成長したのだろうか。
あのか細い腕では長剣はおろか短剣でも重いのではないか?
「先日、リントヴルムを単独で打倒しました」
俺とヴィオラが頭を抱えた。




