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60.元人形の試験




「倒してこい」



私は気付けば13歳と呼ばれる年齢になっていた。


目覚めた時はソファーの背もたれと変わらない身長が年数経つ内に伸びていき今では余裕で通り越せるまでに成長していた。

鏡を見るたびに自分自身もゲームのシレネに近づいてる。

やはり恋愛要素あるゲームなので顔はとても美しいのだ笑うと何処となく不気味な笑い方になる、胸はある程度出ているがコデマリと比べると少し寂しい…。

それでも前世と比べると充分豊満な大きさまで成長しているので満足している!!


そして身体のスタイル、これは公爵令嬢ということもあり厳しく管理されていたのか、1日3食に甘いお菓子を食べていても太らない。

むしろ身体の線は細くてくびれがしっかりとある。これまでに姿勢やダンスで骨盤から鍛えられていた私は”見目麗しい”と自画自賛しても問題ないと思う。ただ1つの問題を残して…。



「師匠、あれを倒してこいと仰ってますか」


こくりと頷く師匠を横目に私は現実から目を背け続けた。


その問題というのは身長が思ってたよりも早く止まったこと。

前世では160あったが今の身長は…150ぐらいだろう。そこから急激に伸びなくなったので身長の成長期は終わった。

女の子の成長期は早いと言われているので13歳になった私は恐らくここから伸びない。

…身長があまり伸びなかった事は別にいい、私はレベルさえ伸びれば!

そう、私は師匠との特訓によりレベルは48になった。ウバガヨイの森の魔物へ攻撃の刃が通るようにもなり、師匠が当初見せてくれた魔法も扱える程に。

それでも師匠の様に群れを成す魔物を軽々しく倒せないし一刀両断等もっての外。


中々動かない私を不思議に思っているのか師匠は首を傾げた。


「倒してこい」


もう1度私に指示をした。


私の目の先にはここのフィールドボス、リントヴルムがいる。


ドラゴンらしい見た目に鱗のような固い皮膚、グルルと唸り声だけで身体は戦慄した。

私の身体の何十万倍と大きいドラゴンを師匠は私に「倒してこい」と指示をした、これは1人でリントヴルムを倒せと言っているのだ。

その事実から目を背け続けていたのだが師匠から2度目の倒してこいと言われてしまった。


…リントヴルムの推奨レベルは48。

属性は土。範囲攻撃でパーティー全体に強力な攻撃を受け、魔法耐性が低いキャラはその一撃で大ダメージを喰らう。

私はレベルを超過して挑んでいたので苦戦はしなかったが数々のプレイヤーからは『リントヴルムで詰まっている』『風属性で挑んでも負ける』と言われていた。

この世界にセーブ&ロードは存在しない、死んだらそれで終わり。そうなる前に恐らく師匠は私を助けてくれるだろうけど。


「師匠、私のレベルは48です」


推奨レベルには達している。

それにレベルカンストを目標に掲げている私にはリントヴルムを倒せなくては次へ進めない。


”ドラゴンの皮膚は硬い、首を落とせ”


ガルグイユ等とは比べ物にならない程、ドラゴンらしいリントヴルム。

空を飛ばないが鋸のような歯を持ち1度でも噛みつかれたら一溜りもないだろう、これまでに何度この恐怖を味ったかもうわからない。

毎回同じなのは足先から震え逃げ出したくなる、心臓が警告音の様にドクドク…と耳の奥で波打ち冷や汗があらゆる毛穴から吹き出し皮膚に伝る。



「倒せる」



短剣を握り締め駆け出した。

ビュウオウゥと風切り音が鳴ると瞬く間にリントヴルムに近づいた。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



光速射貫(シェリセスクーパム)ッ!!」


飛び出したまではいいものの私の攻撃は効いているのか怪しい。

風属性の魔法を放ち鱗のような皮膚は確かに傷ついているのだが、その身までは裂けない。



グガアァアッッ!!


ビリビリと身体が痺れる咆哮を上げ周辺の土が盛り上がる。

木々がバキバキと音を鳴らして土に飲み込まれ地響きが轟き上がる。足元の地が揺れて立つことが困難だ、風の生活魔法で自身を空中へと浮かせる。


その瞬間、地面が陥没する。


横へ一直線にヒビが入り地響きと共に広がり穴が開いたのだ。

何故私はリントヴルムと戦っているのか疑問を感じてきたが考えたら戦意喪失しそうなので左右に頭を振って止める。


「師匠はどこで見てるのかしら…」


この状況をどこかで冷静に眺めているのだろう。

気配を感じ取れるが今だに場所まで特定するには至っていない。


リントヴルムが空中に浮かぶ私を捉え睨んでいるのか1度動きが止まる。


グゴァァアアッ!


大きく1つ1つが分厚い壁のような爪を振り翳す。

ただ大きい分爪の隙間は広いので隙間を通り抜け、


風塵音波(ヴェントゥフルーク)


師匠の魔法も使えるレベルに達した私は最近習得した魔法を放つ。

ぐらりと足元をおぼつかせる隙をみてリントヴルムの顎下へと突っ込む。


短剣を掲げ身を槍にし柔らかい喉元へ刺す。



だが、グルルルと唸り声をあげ大きい身体を左右に振り暴れまわる。短剣では刃のリーチが短く分厚い皮膚を刺すだけで喉まで届かなかったのだ。


!?

やばい、ここで手を離せば死ぬ!


暴れまわるリントヴルムに今握りしめる短剣を離せば遠心力で身体は飛ばされ、何百トンもある身体に押し潰されるだろう。荒ぶったリントヴルムは理性を失ったのか収まる気配はない。



それならば今この状態で倒すしかない!



突き刺さった短剣を握り締めながら身を遠心力に委ねる、暴れまわるリントヴルムを逆手に取り遠心力で突き刺さった剣は徐々に肉を切裂いてく。

皮膚が裂かれる音と同時にブシュゥゥと血が垂れ自ら傷を広げていく。


それを見届けた私は口角が上げ、魔法陣を組み立てた。



光速射貫(シェレリセスクーパム)ッ」



その瞬間、私の視界は真っ赤に染まる。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「よくやった」


美しい自慢な白い髪は赤く染まり血でバキバキに固まった。

強烈に血の匂いが鼻につくがそれよりも死の瀬戸際から無事帰還出来た事を素直に喜ぶ。目の前の鬼畜師匠の水で血は洗い流されていき視界は開けた。


「師匠、私は死にそうでした」


今日こそはと強く進言した。

師匠が師匠になって何度も経験した死の瀬戸際を、今なら前世で死んだ要因トラックを跳ね飛ばすことが出来るだろう。


「死なせない」


そう言うと私の頭に手を置いた。



顔を見上げればいつもの無表情で抑揚ない師匠じゃなくて…何処か憂いを帯びた瞳を細め顔は優しく微笑んでいた。

これまで7年間、師匠の笑った顔なんて見たことがなかった、目を奪われしまう端正な顔立ちが笑めば見惚れてしまうのは仕方がない。


「行くぞ」


…どこに?

問いかける前に師匠は私を抱える、13歳にもなって抱っこされるのは気恥ずかしいのだが師匠の光速について行くのはまだ無理だ。しかも片手で軽々と持ち上げてしまう…さすがです。

ビュウオウゥと突風に目を瞑る。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



…どこだろうか?


このおどろおどろしい迫力を醸し出す荒れた場所。

枯れた木を飲み込む沼、丘と呼ぶには低いが決して平坦な土地ではない。昔はこの場所にも街がったのか建物の跡が残骸している。あれ、もしかしてここは…。



「し、師匠。ここはインフェルの跡地、ですか」


こくり、と頷く。


私を降ろそうと手を離す師匠にしがみつく。

何故ならここは…魔王討伐前に来るストーリー終盤に来る場所だからっ!!


推奨レベル65!リントヴルムのような魔物がうようよいる最凶なフィールドだ!



「わたしの訓練場所だ」



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