57.コデマリ・バイモ・ヴィスカリア
「はい、とても素敵な殿方でしたわ…」
頬をピンク色に染めているコデマリは正に恋する乙女状態だった。
いつもここに来ると1度は甲高い声で怒鳴られていたが今日に限ってはそれがない、というか本当にコデマリなのか?と思う程お淑やかだ。
恋は人を変えるというがどうやらそれは本当らしい。
前世ではゲームばかりだしセカシュウの恋愛イベントも興味なかった私には未知な世界だ、ディアスから報告受けた時は頭を抱えたがコデマリの様子を見る限り大丈夫そうだ。
ただ、コデマリの恋した相手て…ディアスよね?
「本当に素晴らしいのですわ、所々跳ねてらっしゃる黒髪、紺鼠色の瞳は真っ直ぐにわたくしを捉えてくれましたの。大人にも負けない堂々とした振る舞いに”次はない”とまで仰ってくれましたわ!あの御方はきっと異国の王子様です!」
んー…ディアスね。
色々美化されているようだけど多分”次はない”というのは”次は行きたくない”ていう意味だと思う。だってディアスは性格悪いし。
あら?何か影の方から視線を感じるけど気のせいね、それよりもドレスの下を見たら許さない。
「そうでしたの。素敵な殿方でしたのね、私もいつかは好い人と巡り合えたら嬉しいですわ」
「…え?シレネ様にはもういらっしゃるではありませんか」
何を言ってるのかしら?
ああ、もしかしてカルミアかイキシアのことかしら、でもあの2人には主人公がいるから私は関係ない。
まだ出会ってはいないからそう思われるのも仕方ない。
「そうですわね。では、コデマリ様本日から改めてよろしくお願いいたしますわ」
コデマリ・バイモ・ヴィスカリア、主人公の親友になる完璧令嬢。
彼女は主人公の恋敵にならないもう1人の婚約者だ。
苛められている主人公を何度も助け寄り添った。そして平民から貴族社会に放り投げられた主人公に淑女マナーやダンス等は全てコデマリが教えていた。
だから主人公とコデマリはとても仲が良かった。
…ただ彼女もまたグーロ伯爵の人形だったのね、もしかしたらゲームのコデマリが完璧令嬢になったのは全てグーロ伯爵の手の上で転がされた?
そう考えれば尚更、ディアスが居てくれてよかったわ。彼が居なかったらコデマリの苦しみは私には気付くことが出来なかった。
ゲームではシレネとコデマリは犬猿の仲、というよりコデマリがカルミアもしくはイキシアをシレネから護っていたという表現の方が正しい。
シレネの不気味さは異常だった、婚約相手にストーカー並みに付き纏うシレネに嫌悪していたカルミアやイキシアは逃げ回っていたもの。
「こちらこそよろしくお願いしますわ、シレネ様」
穏やかに笑むコデマリにやはり完璧令嬢だわ、と思う。
既に以前に来た時とは比べ物にならない程コデマリは優雅になっていた、少し話を聞けば妹のエリカにも教えられてるそうだ。
最初はまさかコデマリとエリカが不仲だなんて!と思ったが今は良好な様子をみれば良かったとも思えた。
「そういえば…シレネ様はどうしてエリカが病弱だと気付いたのです?」
「…あの時少々顔色が優れないと感じましたの」
…さすがに難しいかしら。
「そうでしたの!さすがでございますわ。シレネ様は医学にも精通しておりますのね」
ニコニコと可愛らしい表情をするコデマリに拍子抜けをしてしまう。
恋の力は恐ろしいのね。
「…ではコデマリ様、早速でございますが…淑女マナー、ダンス、そして必要知識、こちらは我が屋敷に最強の教師がおりますの」
へ?と不思議な顔しているコデマリを横目にアスターにフランネ、タツナミ、ガーベラの3名を呼ぶように伝える。
承知致しました、と頭を下げ1度部屋を退室したのを確認し、コデマリに改めて顔を向けた。
「コデマリ様、我がクレマチス家は全力でコデマリ様のお手伝いをさせていただきますわ」
ゲームでは頭の固い伯爵令嬢とまで言われていたほど彼女はマナーはもちろん、勉学にも長けていた。そのうえで見目麗しさや優秀な魔法力を持っており、公平に人と接していた彼女は誰もが認める完璧令嬢。
コデマリであれば少々厳しい特訓でもついて行けるだろう。
なんせプレイヤーには『怒らすと1番やばいタイプ』とまでは言われたいたほど”目標を達成する努力”を惜しまない性格なのだから。
コンコン
「アスターです。3名お連れしました」
口角が上がり引き攣りそうになるがそこは抑える。
…これで、コデマリ様の件は解決よ。
あとは私の目指せレベルカンスト、目標はまだまだ遠い…。




