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56.傲慢令嬢の恋慕




「シレネ様!!これまで大変無礼な態度を取り誠に申し訳ございません」


わたくしは土下座をする勢いでシレネ様に頭を下げた、

本当は土下座をしたかったのですがそれはシレネ様の従者アスターに止められてしまい叶わなかったので、深く頭を下げることにした。

「コデマリ様、これまでの事はどうかお気になさらず。それよりも何故そのような…?」


謝罪をすればシレネ様はとても優しくわたくしを窘めてくれた。

これまで大変失礼な態度をお取りしていたというのに…カルミア様とイキシア様がシレネ様を特別視しているのも納得です。


「わたくしは…素敵な殿方に出会いましたの。とてもお強い方でしたわ」



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「…エリカ様!!」


父上が屋敷に戻りわたくしに1度目を向けた。

だけど何も言わずにエリカの様子を見に行く、と言った。わたくしも特に指示された訳ではないがその後ろについていく、母上達も一緒だった。

部屋に入ればエリカの息が荒くなっておりゼェゼェと苦しそうにしていた。


「い、急ぎ医者を!!」


侍女が部屋を飛び出そうとしていたが「待て」と父上が止めた。

「必要ない」


”必要ない”


…わたくしにとっては別の意味に聞こえた。


「コデマリ、お前に教養をする。直ちに覚えなさい」


それだけを言い残し、父上は部屋を出て行った。

父上の態度に心を奪われたような気がした。



あれだけ完璧なご令嬢だったエリカを必要ないと切り捨てた?

父上にとって…わたくしやエリカは何なのです?

お母様は?母上は?


…エリカも父上から突き放されないようにしていたの?

だから…王子の誕生会の日わたくしにあのようなことを指示したの?


『父上からお姉さまの髪色は普段の色に、と指示を受けましたわ。お姉さまの準備が終わるまで待ってくださるそうなのでこの馬車内で落としてください』


エリカからそう言われてどういこと?と最初は疑問が口から飛んだ。

それでも父上からの指示、と聞けば黙ってそれに従った、なのに終われば既に父上達は会場内にいてわたくしを置いていった。


「コデマリ…今までごめんなさい。これからは心を入れ替えるわ」

…母上?

思い描いていたお母様の愛情、エリカがその愛情を持っていて羨ましいと思っていたのに今目の前にいる母上はエリカに向けていた優しい表情を引き攣らせてわたくしを見つめていた。

その後ろにいた侍女や従僕はわたくしに悍ましい者を見る目を向けていた。


「コデマリ…エリカの事は気にしなくていいわ。エリカは昔から病弱だったの」


―『エリカ様はお身体が弱いということはありますか?』


少し前にシレネ様が仰っていたことが頭に過った。



「みんな出て行ってッッ!!!早く!!医者を呼びに行きなさいよッ!!」

まるでわたくしの言葉で堰を切ったかのように使用人たちが動き出した。

「母上にとってエリカは大切な愛娘でしょ!?ッなら!!助けなさいよ!わたくし達を捨てるなぁあ!」


自分でも何を叫んでるのか分からなかった。

無我夢中で心に思っていたことをただひたすら大声で叫んだ、使用人たちは慌ただしく出ていき母上はその場に倒れるように座り込んでしまった。


「…ゼェ…ね…ぇさま?」

「エリカ!!苦しいわよね、今医者が来るからもう少しの辛抱よ!」


エリカの手を握り締めて少しでも安心できるように背中を摩る。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「…落ち着いた?」


医者が来てエリカを診てくれたおかげで幸いにも処置が間に合いエリカは一命を取り留めた。

吐いてたこともあり顔はぐったりはしているが処置前よりは顔色が良い。医者の指示通り白湯をエリカに渡した。


「熱いから少しずつね。それじゃあ」

「あ!ま、待って!どうしてわたしを助けてくれてたの?」

悲痛に満ちた目で唇を噛み締めていた。

どうして、と言われると正直わからない。ただあの時は無我夢中で自分が何を叫んでいたのかもよく覚えていなかった。


「よく覚えておりませんわ。医者を呼ばなきゃとしか思っておりませんわ」


そう言い放つとエリカからは返答がなく無言の気まずさに顔を俯かせた。

引き止められたことでわたくしから足を動かすことが気まずいけどこのまま沈黙を貫くのも気まずい、ここは部屋を出よう、と決意した時にエリカが沈黙を破った。



「…ありがとう、お姉さま。そして今までごめんなさい…謝って許されることではないけども」



エリカからの思いがけない言葉に目を見開いた。顔を上げるとエリカも少し気まずそうな顔をしてわたくしを見つめていた。

視界が滲みだんだんエリカの顔がぼやけてしまう。

「や、お姉さま!?泣かないでくださいッ!…それよりもお姉さまこそ大丈夫なのですか?その、左頬」


あ…そういえば、と母上に叩かれていた事を思い出した。

色々なことが一気に起こりすぎてしまいすっかりと忘れてしまっていた。


…黒髪の少年。


彼の事を思い返せば心臓がドクンッと大きく1度波打った、心臓の鼓動が次第に速くなるのを感じ手で胸を押さえた。

体温が上昇したのか酷く身体が熱い、熱?とも思えたがそれにしてもいきなりだわ、と考えた。


「……お姉さま?」

怪訝な顔をしているエリカの言葉に妙に慌ててしまった。

「あ、いえ!な、なんでもないわ!?黒髪の、殿方なんて…!」


くろかみ…?とエリカが呟く、つい焦りすぎて変なことを口走ってしまった。

顔が熱くて胸を押さえていた手を顔に移し、顔を覆う。恥ずかしくてこんな姿を見てほしくなかった。


「あー!なるほど!お姉さまはその黒髪の殿方様に恋をしちゃったのですね!」

「こ、恋ッ!?」

先程まで”毒”で苦しんでいたエリカは今は元気に延々とその黒髪の殿方について聞いて来られた。

恥ずかしくて恥ずかしくて心臓が千切れそうになった。



…せめてお名前だけでも聞いておけばよかったわ。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「わたくしは…素敵な殿方に出会いましたの。とてもお強い方でしたわ!」

「そ、そうですか。良い出会いがありましたのね」


口元に手を添え気品ある動作はさすがシレネ様ですわ。

公爵令嬢として相応しい振る舞いをし、イズダオラ王国の王子方の隣に立つには申し分のないご令嬢。シレネ様のような方こそ…あの黒の王子様の隣に立つのにも相応しいですわ。

ギュと手に力を込めて握りしめた。


わたくしもシレネ様のようなご令嬢になりたい…そして父上の駒ではないわたくしになりたいッ!

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