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55.我執亡霊の護衛




……ん?


どうやら何か起きたらしい。

コデマリの影に潜っていたが部屋の外から騒がしい声と音が聞こえる、その様子を探る為に妹エリカの方へ影を移動した。


「…か……エリカアアァァ…ッ!!」


最初に聞こえた来たのは女性の泣く声だ。

ハランだろうな、頻りにエリカの名を呼び時々何かを叩くような音が聞こえる。肝心のエリカの方はいつものような喧しさはなく静かにしている、寝ているのか?とも思うがそれにしては只ならぬ雰囲気だ。

…さて、どうしたものか。この様子では今日はこの屋敷内で何かが起こるだろう。

ボクが命令されたのはコデマリの護衛だ、もしその何かがコデマリに危害を加えるのであれば必然的にボクも動かなければならない。それは面倒だし楽をしたい。



「アイツがぁッ!!あの女のせいでッ!貴方たちついて来なさい、コデマリの所へ行きますっ!!」

…それは無理そうだ。


ハランの指示に侍女、従僕が後ろに付き部屋を退室していく。

ボクもコデマリの元へ戻るか、と影移動をする。



「は…ぅぇ…」


か細い小さな声が聞こえた気がした。


でもボクは気付かないふりをした、関係のない事だから。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




バシンッ!


「コデマリッ!エリカに何をしたのよ!!」


殴られて赤く染まる左頬を抑えながらコデマリは呆然としていた。

何が起きて、何故自分が殴られたのか分からずただ母であるハランを見つめた。

…これ、ボクが出なきゃだめかな。

頬を叩かれた時点で危害だ、ただ殺していいのか迷う。


その点をシレネは明確に言ってくれなきゃわからないやー…。



「母上ッ!わたくしは…ッ!!」

「だまれぇぇええッ!!」


腕を大きく振り上げ、感情のまま振り下ろそうとした、が。


身体が動かなくなった。



「ア…が…ッ!?」

不自然に止まり奇妙な呻き声をあげるハランに侍女と従僕は顔色を変えた。

ハランの様子を窺おうと声を掛けようとした、その時に初めて気づいた、



”身体が動かない”ことを。



声を上げようとすればハラン同様、呻き声しか上げることが出来なかった。

何よりも不自然だったのはそんな状態で一切苦しくないことだ、喉を締め付けられているわけでもないのにまるで頭が声を出す事に拒絶している様だった。


「!?は、はうえ」


コデマリだけは声が出せた。

突如様子が急変した母や使用人達に駆け寄る、だがハランはコデマリを怖じ恐れ身体が震えあがりそうだが動きが制限されいる今は震えることも許されなかった。


「ど、どうしたのですか!?母上ッ」


さて…ここからどうしようか。

殺す?解放する?それともこのまま洗脳させておく?いやそれはそれで面倒だな、と考えた。だが考えるのが億劫になり護衛対象のコデマリに任せようと思い付いた。


「ねぇ~、アンタならコイツらどうしたーい?」

「なッ、え!?」


コデマリの影内から顔を出すがコデマリ自身はそれに気付かない。

使用人の中には気付いた者がいて怖気ているのだが当の本人が気付かなければ意味がない。仕方ないので姿を見せよう。



「ひっ…!」


まさか自分の影から手が現れ、這い上がってくる人の形をした黒い少年が出てくる等と微塵に思わないであろうコデマリはその光景に後ずさる。

だが自分が後ずされば付いてくるように移動するディアスを見て足に力が抜け落ちてしまった。

トサッと座り込んでしまうコデマリの様子に失礼だな、と思う。ボクは命令でここ最近はずっとアンタの護衛をしていたというのに。


「で、どうするのー?殺す?殺さない?」

「!?こ、殺してはダメぇッ!!」


その言葉を聞いてコデマリを横目にボクはハランと使用人達に顔を向けた。

「よかったね~死なずに済んで!ただ…次はないから。アンタらみたいな弱者は強者に黙って従っておきなよ~。その方が死なずに済むから」


とてもいい助言をすることが出来た、そう思えば顔から笑みが零れてしまう。

なぜだろうか、青を通り越して白い顔になるハラン達を見て疑問に感じた。だがここまで言えば少なくともコデマリに手は出そうなんて思わないだろう。


「何事だ!」


!!

アイツか。


扉の外から男性の声が聞こえた。

グーロが戻ってきたのであればボクの姿を見られるのはあまり良くないだろうと思い影の中へと潜った。ただ洗脳を解く事を忘れていたことに気付き、今見たことをグーロに秘匿、という事だけを残して体の制限は解いた。

魔物とは違い、人間の洗脳は単純だ。

力社会の魔物は自分より強い者にしか従わないのに対して人は”精神”に少しだけ手を加えれば勝手に怯え、脳に手を加えればその身体は思うままに操作出来る。



シレネにもボクの洗脳が出来ればよかったのに。

残念だがシレネはボクよりも強いし今は主だからそれが出来ない。


ま、とりあえずご命令は終了したとみてシレネのとこに帰るかー。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「―…みたいな感じだった」


ボクの報告を頬杖つきながら頭を捻るシレネにきちんと言わなきゃいけないことがある!

「ボクは頑張ったんだから長期休暇いただくよ、休暇期間は100年でよろしく」


魔物使いが荒いシレネには進言したところで聞く耳を持たなさそうだけど。

ただ言わなきゃ分かってくれないだろうしボクは外の世界をゆっくりと堪能していたいんだから邪魔しないでほしい。


「100年はともかくとして…ディアス、本当にありがとう。貴方がいなければ何も進展しなかったわ…貴方のおかげよ。私の使い魔になってくれてありがとう」


穏やかな声色で微笑み、スッとボクの方へと手を伸ばしてくる。

それに縫い付けられたようにただ、見届けようとした。




だが、その手がボクに触れることはなかった。


「…ああ、そうね。亡霊だもの、触れることは出来ないわね」


眉を垂らして憂いを帯びている瞳を見てボクの胸が締め付けられた気がした。

途端にシレネの顔が見れなくなって顔を逸らしてしまった。

「わかったらなら…別にいいよ。じゃ、ボクはもう戻るから」


それだけ言い残しボクは影の中へと潜った。

胸に手を当てても鼓動等感じることはない、自分が生きているというような感覚もない。それなのにあの一瞬だけ確かに胸が締め付けられた感覚があった。

褒められて悪い気なんて起きない。

ただもし次の命令を熟したら褒めてくれるかもしれないと思えば…つぎ?


何を考えてるんだボクは。



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