※純白王子の懐疑
最近、俺の兄カルミアの様子が変だ。
シレネと出会う前は気怠そうにしてたのが楽しそうにし、色々な表情を見せるようになった。
ただカルミアはシレネと嫌味合戦をする時以外は笑うことがない、まあ笑うといっても良いものではなくどちらかといえば…不敵な笑み、というのが1番しっくりくる。
最初こそはカルミアの変化は嬉しく思ったしシレネのおかげだと思っていた。
…嫌味合戦はともかくとして。
だが、最近のカルミアはどうも変だ。
「カルミア様、イキシア様。お茶をご用意致しました」
「…ありがとう、頂くよ」
にこやかな笑みで礼を言うカルミアに俺だけじゃなくお茶を用意してくれた侍女もピキリと固まった。礼を言うどころか表情1つ変えなかったのに…にこやかに笑うて何があった?
しかもそれだけじゃないのだ。
それは…カルミアが嫌悪している貴族への振る舞い。
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「カルミア第1王子殿下、本日も素晴らしい魔法力でございますね」
ある日の護身術の授業。
10歳を迎えたあたりから呪文の使用も項目として増えたのだ。火と風の2属性を持つ優秀なカルミアはさらに注目の的になった、それは貴族の方々も例外ではなく時間を見計らって諂いに来る。
…失礼な考えだが以前の王位継承権争い勃発で俺も痛いほど身に染みた。今ではカルミアが嫌悪していた理由がよくわかる。
「…お褒め頂き光栄です。僕の力が国民へのお力になれると思えばこれ以上ない喜ばしいことですね」
…一体何が起こったのだろう、カルミアに。
少し前までは頭痛の種でもあったカルミアの振る舞いが王族らしく熟すようになった事は俺にとっても望んでいたことであり喜ばしいことだ。だが…それが時系列があったのであれば何も問題はなかった…。
そう、カルミアは唐突に今の振る舞いをするようになった。
いや1つ考えられる要因はある、王位継承権争いが収束した以降からこうなったのだ。むしろこれが要因としか考えられない。
しまいには…、
『僕とシレネの婚約を公に発表しようと思うんだ』
本気で言っている訳ではない。
俺らが王位継承権争いで1番の憂いはシレネへの危害だ、様々な噂が立つと同時に憶測も飛び交ったことでシレネが巻き込まれてしまう可能性があった。
俺らの問題に巻き込ませたくない、それが俺もカルミアも表立って動かなかった理由の1つだった。
一時的とはいえ、収束した今はシレネへの危害を回避出来た。
それなのに!なぜ!!
冗談を言わないカルミアがあんな笑えない冗談を言ったのか分からない…ッ!
あの時は何か変なものでも飲んだのか、それともベッドに頭でも打ったのかと心配したが最近の様子を見ていると……冗談ではなく本気だった?
しかも恐ろしい事にこれで終わりじゃない。
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「今日も綺麗だ…ヴィオラ」
「タイサン、貴方も素敵よ」
父上と母上は俺らの前では昔からこんな感じだ。
物心ついたときから両親の熱愛は見慣れている者でありどこもこういうものだと思っていた。
執務に戻れば国王、国王妃として幼い頃から嘆美してしまう程の立ち振る舞いをしており私的事と仕事を分け隔てる両親を尊敬していた。
カルミアはその様子を苦虫を潰したように眺めていたのだが…。
最近はその様子を観察するように眺めているのだ。
しかも時々頬杖をつきながら「なるほど」と何かに納得している。
正直、嫌な汗が止まらない。何を考えているのか分かってしまいそうだが敢えて考えないようにしている。
俺は前とは別の頭痛の種がいつかは芽を出してしまいそうで恐ろしい…。
シレネとカルミアには今の関係でいてほしい。
そうしたらいつか婚約破棄をするのではないかと…考えてるから。