49.策略王子の無力
「おはようございます、カルミア様。タイサン国王陛下より起床後執務室へと仰せつかっております」
目覚めてすぐ、侍女から父上の呼び出しがあることを知らされた。
起きて早々に騒がしい父上に会わなければいけないのかと重い足取りで父のいる執務室へと動かした。だが、入室してすぐに気付いた。
いつもの快活さはなく険しく目の奥は怒りで滲ませていたのだ、母上とイキシアがいないということは僕に伝えるなにか”悪い知らせ”なのだと。
悪い知らせ…考えられるのは1つ。
シレネの身に何かあった。
僕しか呼ばれていない理由はそうなのだろうと考えた。未だ口を開こうとしない父上に早く聞かせてほしいという気持ちと聞きたくない気持ちで入り乱れた。
「カルミア、起きて早々に呼び出してすまないな」
重々しく開かれた言葉に緊張が身体中に巡る。
眉間に皺が寄りはじめる父上の尋常ではない雰囲気にやはり、という考えが先に走った。シレネが奇襲された?怪我をした?それとも…、そこまで考えたが思考を強制的に打ち止めた。
考えたくないことだった。
「昨日、我が城に多数の侵入者による奇襲が見受けられた。すべての侵入者は騎士と衛兵により食い止めることに成功し被害は出なかった。だが、その侵入者の全てがカルミア、お前のいる部屋周辺で捕らえられたのだ」
…僕の?
僕にとって父上の言葉予想外だった、当てが外れたという安堵感は緊張が解された。
まず思ったことは…よかった、だった。シレネへの被害でなく僕自身なのであれば冷静になることが出来た。
「…どういうことですか、父上」
第1王子である僕の暗殺計画、表に出てきた王位継承権争い…この2件が強く関与している事などすぐに辿り着く。気を付けます、では簡単に片付く問題ではない、恐らくイキシア派の過激貴族が雇ったのであろうことは予想付く。
…問題は誰、なのか。
まず浮かぶ人物はホーセ公爵。頭の中で数々の考えが脳裏に掠め始めた、そして最後の考えで脳に直接衝撃を受けたかのように揺れた。
その考えで脳内の中枢区間が埋め尽くされた。目を見開き奥歯がギリリッと音を立て噛み締めた。
腸が煮え繰り返そうになるッッ。
「お前の事だ、聞かずとも粗方予想はついているのだろう?だがカルミア。そいつだけじゃないもっと大きな権力者がいるだろう」
ああ…そうだった、もう1人いた。
ザクロ野郎。
奴を思い浮かべば狙いはどれだったのだろうかと考えた。
ずっとこの王位継承権争いでシレネが巻き込まれてしまい最悪シレネの身の危険、ばかりを危惧していた。ただザクロが絡んでいればそんな単純なことではない。
僕とシレネの婚約事実、シレネとイキシアの噂…ああそうか”罪の擦り付け”に最適じゃないか。
仮に…仮にっ!!シレネとイキシアが恋仲だと想定した場合、王族と公爵間の婚約は感情だけでは解消することは出来ない。であれば…暗殺計画を企てる、と事実無根な罪を擦り付けようとした。
「…父上、僕は無力です。イズダオラ王国の王子という立場では足りません」
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「ザクロ叔父様」
「……珍しいな、お前から話しかけてくるなど」
僕は奴に一矢報われた。
父上の仄めかしがなければ何も気付かないまま王位継承権の放棄をしていただろう。暗殺まで企てられたのだから…。
「…普段は伝えておりませんでしたが、ザクロ叔父様にはとても感謝してます」
イキシアと僕の関係に亀裂をつけたザクロを。
僕は知ってる、お前がイキシアに”兄の王位継承権の土台を作れ”と言っていたのを。僕が魔法覚醒をしたあの日に…っ!!
イキシアはあの日から僕を兄として、兄弟として見なくなったッ!
それも全てお前がッッ!!
イキシアの精神を支配したからだッッ!
…人格操作までしてしまう奴が怖かった、いつか僕自身も支配されてしまうのではないかと。
「ですので…僕はザクロ叔父様のご期待に沿えるよう誰もから王位継承権を与えられるに相応しい、と認められる様尽力します」
王子でも、大公でも足りない。
イズダオラ王国の最高権力でないと護りたい者は護れない。
「期待している。芽が出ない内に摘まれぬ事を」
退屈そうに何も映さない冷淡な眼差し。
昔は僕もこんな眼差しを他人に向けていたのだろうか?今はもう退屈などと思わない。
「はい、気を付けます」
取り繕った笑みを向けてそう答えた。
護る為に王の権力でも利用してやる、お前よりも強い権力を手にする。
僕の言葉を皮切りに背を向けて去るザクロに戦線布告をした。