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46.伯爵令嬢は傲慢





「お姉さま!大変無礼でございます。こちらの方々はクレマチス公爵一家でございますっ!」


顔面蒼白になり恥をさらすコデマリを窘めていた。

そんな妹にフンッと鼻で笑い不服気な顔は変わらず、妹のエリカを見下すように睨んだ。


「初めましてコデマリ伯爵令嬢。わたしはシレネ・クレマチスと申します、よろしくお願いします」

「コデマリ・バイモ・ヴィスカリアよ」


…え、それだけ?

コデマリは私の方へほとんど顔を向けずに両親である伯爵夫妻へ先程と同様に文句を言い始めた。

貴族社会は爵位が重要視される為社交場においては身分が低い方から高い方へは話しかけるのはご法度。だから私から話かけ形式な挨拶をしたのだが、会話の区切りをつけるのは身分が上の方だ。

コデマリは淑女マナーがまるでなっていない、動作、言動全てが伯爵家令嬢とは思えない振る舞いだった。



「お嬢様、大丈夫ですか?よろしければこちらを」

コデマリに言葉を失っていた私にそっと水入りグラスをアスターが差しだしてくれた。

いつ受け取っていたのだろう、小さく口に含み1度心を落ち着かせた。ゲームの彼女とは全く正反対の彼女は本当にコデマリなのか…そう考えてしまうがシナリオはゲーム通りに進んでも私が出会った攻略対象者達は既にゲームと違う、アキレアが特に…。

だからコデマリがゲームの面影を見た目でしか残していないようでも何ら不思議ではない、そう頭と心に叩きつけた。


「あら、貴方はなに?」


ふとコデマリから声を向けられた。

グーロ伯爵と伯爵夫人がコデマリを止めようとしていたが私が構わない、と止めた。ただコデマリの視線は私にじゃなく隣のアスターへと向けられている。じっと上から下まで観察するように見ていた。


「彼はアスター、私の従者ですわ」

「アスター・べラドンナリリーと申します」

私が手をアスターへ向けるとアスターは合わせて片膝を僅かに折り下げ、片方の手を胸に当て挨拶をした。


「従者…?従者がなぜここにいるのよ!」

ああ、なるほど。

コデマリがアスターへ怪訝そうな目を向けている理由を理解した。本来は王子誕生会は従者同伴は禁止とされている場だ、だがその中でクレマチス公爵家は従者を連れている。これは9歳の王子誕生会に様々な貴族に指摘を受けていた。


「彼は王命により私の従者をしておりますので」


アスターが従者として任命した私の9歳の誕生会、そこでヴィオラ様に”王命”だと言え、と遠回しに言われた。なので王家主催の社交場でもアスターは私の傍にいてくれている。既に他貴族に認知済みの事だが初出席のコデマリが知らないのは当然だ。

「なによそれ!!ずるいじゃない!」


甲高い声を荒げるコデマリに耳が痛くなる。

ずるい、と言われても私を監視する為の王命なのだからずるいも何もない。私の従者なら必然的に私に1番近しい人となるのだから。

色々と怪しい行動を起こしている手前、監視役として王家から利用されるのは仕方ない。

ただ父上やザクロ大公等の敵意が水面下から顔を出し行動に出ようとする今の状況はアスターが傍にいてくれるだけでも心強い。それに―…



「なにがずるいと?コデマリ伯爵令嬢」

今は()()彼らは味方だ。


淡黄色の髪を輝かせ堂々と歩くその姿からは確かな威厳を感じる風貌。

昔から変わらない振る舞いなのに、既に私が見上げなければならない程身長は伸びているからかさらに煌びやかさが年々と増している。


「…王命にずるいがあると?」


琥珀色の髪を耳に掛けイキシアと共に歩く彼もまた威風を感じるようになった。

気怠そうな顔をしていたのが懐かしく思う、今のカルミアは昂然たる振る舞いでその瞳の奥には確かな強い意志を持っているからだ。


同じ身長で同じ顔なのに正反対のイズダオラ王国の王子。


成長をしていく内にどんどん輝きを増した上にカルミアまで王子らしくなってしまい、私は彼らを見るときは太陽を見ているのではないかと錯覚するぐらい眩しい。


「…グーロ伯、最低限のマナー教育を受けてから出席を。それとも恥を()()()()()()のでしょうか?」


申し訳ございません、と深々と謝罪するグーロ伯に未だ現状をよく理解出来ていないコデマリは「父、上?」と眉を顰めて見つめている。


「カルミア様、イキシア様。11歳のご誕生日おめでとうございます」

折角の誕生会だというのに…騒ぎを起こしてしまったと反省する。

2人からも礼を言われた後は主役の2人はまたほかの貴族へ挨拶回りへ向かって行った。私もこれ以上はコデマリといるとまた王子を呼び戻してしまいそうなのでその場を離れる。


…ようとしたのだが。


「貴方、カルミア王子とイキシア王子と仲がよろしくて?」


付いてきたのだ。

アスターが「追い払います?」と耳元で囁いてきたので止めた。私のこれまでの経験上ではいずれにしてもコデマリと関わることになるだろうなと確信している。王子はともかくとしてアキレアやアスターは偶然にして必然に出会ってしまったのだから。

「ええ、幼い時から誕生会に出席しておりましたので」


今ほど仲良くなったのはあの忌々しい婚約の件以降だけども。あれさえなければ今でも交流はさほどもなかったであろう、ただ婚約がなければ師匠やアスター、アキレアとも出会えなかっただろう。

そう思えば少し複雑な感情を抱いた。


「なら、わたくしとの仲を取り持ちなさいよ」



……ん?仲?


「失礼、それ以上のお嬢様への無礼は見逃せません」

アスターが私の前に立ち手で下がる様に指示をしてくれた。


「貴方こそわたくしへの態度は無礼ですわ!わたくしはヴィスカリア伯爵家の子女なのですよ?」

「ご冗談を。お嬢様はクレマチス公爵家のご令嬢です。無礼なのはどちらです?」


ハッと小馬鹿にするようなアスターに怒りの沸点が多いだろうコデマリは歯を食い縛り、今にも大声を上げそうだ。

…まずい!またあの甲高い声を聞くことになるっ!

「コデマリ様!…失礼を承知の上ですが淑女としてのマナーがなっていない貴方を取り持つことは不可能ですわ、ましてや交流を深めるかはカルミア様とイキシア様のご判断です」


再びわなわなと震えて顔を真っ赤にし始めるコデマリに追い打ちをかけた。

「もし、交流を深めたいと望むのならまずコデマリ様自身の魅力が欠ける行動はお控えください。あのような大声ははしたない事ですわ。せっかく可愛らしいお顔をしているというのに」


目をパチパチとさせているコデマリにとりあえず怒りは抑えられたみたいだ。

サーモンピンクの髪色に桃色の瞳色をしているコデマリはとても美人だ。私と違いウェーブかかった長い髪、前髪はくるんと軽く巻いている。女性らしく身嗜みを整えており黙っていれば子供とはいえ数多の男性の目を引く容姿を持っている、それなのに彼女の言動や行動で台無しだ。


「わたくしの魅力がおわかりになるようね。いいわ、気に入った!貴方、わたくしの友人として認めて差し上げますわ!」


オホホホと高笑いをする彼女が少し羨ましくなる。私ならまさに悪役令嬢がやるようなことは恥ずかしくて出来ない、ましてやこんな公の場で堂々と出来るコデマリに尊敬の念を送る。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「どうだ?シレネの意見を聞かせてくれないか。俺としては良案だと思うのだが」


タイサン様が腕を組みながらニッと笑みを零している。


誕生会が終了した後、私はタイサン様からお呼びが掛かった、嫌な予感がするなと思いつつ向かえばやはり予感は的中した。


「…僕もそれがいいと思う」

「そうだな、シレネなら大丈夫だろう」


タイサン様、王子2人、アスターに加え父上、ザクロ大公そしてグーロ伯爵もこの場にいた。

誕生会での騒ぎの1件は問題視された、タイサン様は何も言わなかったがこれだけ大事にするのであればやはり”婚約”が関わっているのだろう。

これまで不参加だった伯爵家が今回は参加したのもその件であろう、だからコデマリの1件は大きく捉えられあろうことか……同じ婚約者の立場にいる私が”友人”としてコデマリの教育をするという話が出た。


「シレネ嬢…申し訳ない…」

まずタイサン様からの頼みで私が断れる訳がなく、その事でグーロ伯爵は私に謝罪をしてきた。

父上やザクロ大公が横やりをしないということは2人も納得しているのだろう。


「とんでもございません、グーロ伯爵。精一杯努めさせて頂きます」

そう答えるしかない、もうこれは強制だ。



「じゃあ、シレネがコデマリ嬢を教育する、で異論はないな」


この場にいた誰もから異論の声は上がらなかった。


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