※情熱魂の根性
『…アキレア、もしザクロ大公に何聞かれても”覚えていない”と言って』
カルミアはあの日ボクにそう言った。
父様も怖い顔をしていた。
シレネ様は人形のような笑みを浮かべてホーセ公爵の後ろに付いて行った。
カルミアとイキシアはずっとこの世界で生きてた。
父様達はずっと王家に仕えて生きてきた。
ボクはずっと何もせずに生きてきた。
ボクは変えよう、自分自身の生きる世界を。
護りたい人を護れる世界に。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「シレネ様!自分に稽古をしてください」
「嫌です」
今日も断られた。
もう何回目かも知らないが毎日のように頼み込んでも断られる。
でも諦めん!!
自分自身が少しでも早く!強く!そして…
護るんだっ!!
あの日に強く決心した自分は早速父様に願い出た。
身体の基礎を作り上げなければ、例え稽古しても身体が追い付かないと。初めて模擬刀を持った時はずしっとしてて重かった、今まで見てきて皆軽々しく持っていたからてっきりそんなに重くないんだと思った。
だけどそれが大きな間違いで皆日々鍛錬しているからこのくらいの重さが軽いんだ。
騎士てすげぇ、それだけで感嘆してしまった。
「自分は早く!すごい騎士になりたいんですっ!!」
憧れから羨望に変わり、そうしたらもう気持ちも身体も居ても立ってもいられない。
魔法よりも剣だ、あの鋭い刃、綺麗な銀色の形をしている剣で人を魔物から護るてすごい格好良くて…なんでそんなにすごいのに今まで怖かったんだろうて思う。
剣よりももっと恐ろしいのがあるのに。
「それはとても素晴らしいことだね、アキレアくん」
穏やかなその声に振り向けばシレネ様の誕生会で挨拶を交わしたタツナミだ。
「シレネ様は勉学がございますのでよければわたくしが教えますよ。実はわたくしも昔は騎士に憧れておりましたので剣の基本、程度は教えられるよ」
その言葉を聞いた時に心臓が高鳴った。
剣の基本動作を身に着けられることが出来る事が嬉しくて、公爵家の使用人ともなれば庭師に剣を扱うことが出来るのか!もちろん、タツナミさんに教えてもらうことにした。だが。
「おや、肩に力が入りすぎておりますね、それでは無駄に腕の力を使いすぐに持てなくなりますよ?模擬刀でなくただの木の棒でこのような力の入れ方では剣どころか模擬刀でも持てないです。よいですか、ただ力いっぱいに腕を振ったところで威力が出るわけでございません、基本動作でこれでは…剣を扱うことは出来ないですよ」
「はい…すいません…」
すっっっげぇ怖かった。
模擬刀の代わりに木の棒で教えますね、と言うところまでは優しく穏やかだったのにいざ始まれば人が変わったかのように無表情になった。
「アキレアくん…聞いてます?」
ビクッ!と肩が上下した。
鬼の形相で自分を見てくる姿にもうまともに顔を見れないかもしれない、父とはまた違った別の怖さを感じた。
「もちろんですっ!!もう1度お願いします!」
「わたくしでよければ何度でも教えますよ」
ニコオォォと口角を上げ笑うタツナミを見てしまい身体中が震慄した。
自分あの人に今から立ち向かっていくのか、シレネ様は普通の令嬢じゃないと思っていたけどそうなるのも目の前の庭師を見れば妙に納得がいく。使用人である彼もまた普通じゃないと思う、すごい怖いから。
「―……アキレアくんは反射神経はとても良いのですが、無理な姿勢で打突をしようとしてますね。それでは筋肉どころか靭帯まで損傷します」
「はい!!気を付けますっ!」
タツナミさんは真剣に稽古をつけてくれた。
どれも的確で少しでも無理をしようとすれば止め、注意やアドバイスをくれた。日を重ねればタツナミさんへの恐怖は打ち勝てるかもしれない。
「タツナミさん、アキレア殿。1度休息はいかがです?」
紫のこの人は…確かアスターだった。
自分とあまり変わらない年齢だろうなと思うが既にクレマチス公爵家の従者だ。タツナミさんも休息に賛成をして1度部屋へと戻ることになった。自分は汗で身体中が濡れてるのにタツナミさんは1つもかいていなかった…。
クレマチス公爵家の使用人は汗もかかないのか!
「アキレア殿…お嬢には手を出さないようにしてください」
??
なにを言ってるんだろう?
まさか手を出すてのは稽古の事を言ってる?
確かに稽古は怪我をする可能性もあるが…どちらかと言えば怪我をするのは自分だろう。どうやらシレネ様は父様との1件は隠していたらしく侍女に怒られていた。だが、自分はシレネ様よりも早く強くなりたい、その為の稽古だ。
「それは出来ない!」
シレネ様よりも強くなるために…シレネ様に少しでも早く追い付けるように稽古をしたいんだ。
「…ふっざんけんな!!お前お嬢に対して何考えてんだ!」
突然怒りだして声を荒げるアスターには少し驚いた。
何を考えてる?シレネ様を超えるためにも今は少しでも近づきたいと思っているな、と考えた。ああもしかしてこれは1種の試験なのか、さすがクレマチス公爵家だ。
「シレネ様に少しでも早く近づきたいと思ってる!」
嘘はない、と伝える為に真剣に答えた。
もしこの試験に失敗すれば出入り禁止になるかもしれない、そうすればシレネ様を超えるどころか近づくことさえも出来なくなる。
ただ自分の返答にアスターはわなわなと震えていた。
「お嬢に近づくなっ!!」
「それは出来ない!!近づくことが目標だ!」




