42.恐怖!ボロ屋敷の真相
「本当に入るのか?」
私を案内したもののアスターはやはり嫌がっている様子。
確かに想像していたよりもかなり不気味だ。
外観は中世ヨーロッパの洋館、我が屋敷にも少し似ている。
パッと見た感じでは風貌はそこまで崩れていない、窓ガラスが割れていたり苔が生えていたりはしているものの崩れている箇所はなかった。
ただ庭だった場所は酷く荒れていた、玄関までの階段があっただろう場所は石が風化で割れ崩れ落ちている。登れなくはないが気を付けなければ転ぶだろう。木々の葉は溜まり芝生が敷かれていたかもしれないその場所は枯葉で覆いつくされていた。
イズダオラ王国の歴史や地理は全て頭に入っている、それでもこの屋敷に関する情報は一切知らない。
誰も寄り付かなかったとしても不自然だ、何もこの屋敷をここに残しておく必要などないのだから撤去でもするのが通常である。
…この屋敷は一体いつ建てられたものだろう。
歴史を感じさせる外観に目を奪われてしまった。
「ええ行くわ、難しそうであればここにいて」
私は屋敷の中へと入った。
アスターは何も言わずに私の後に付いてきていた。
中は酷く荒れていた。
辛うじて面影を残しているが、シャンデリアだったものは錆で落ちたのだろうガラスの破片とボロボロな骨組みでシャンデリアだったと判断できる。大理石の床は所々割れ、建物の骨組みが露出している。
きっと現役当時は立派な室内だったのだろう、室内を遮るはずの壁は崩れて奥の部屋が見えていた。家具類は残されており椅子やテーブルなどもあるが…きっと当時の面影はないであろう。
埃臭さが目立つ室内は真っ黒に淀んでいた、まるでこの屋敷が生み出している様にも感じひやりと冷たい。
中に入った途端に私もアスターも言葉を発することが出来なかった。
屋敷の雰囲気というのもあるが、靄が見えいないアスターも何かを感じるのだろう強張った顔を見れば理解出来た。
…この屋敷の雰囲気の主でもある、この靄は”亡霊”。ゲームの終盤になるにつれて似たような魔物が出現するが魔王復活前に初めて闇属性の魔物として出現する。
推奨レベルは18。今の私でも充分に倒せるほどだが厄介な特性を持っている、それは物理完全無効、光属性以外の属性も無効。つまりは私達の物理攻撃も魔法攻撃も効かない。
だからゲームでは主人公とこの魔物の一騎打ち戦となっていた、アスターもそこで主人公の素晴らしさに気付くのだが…。
闇属性であればどうだろうか。
ゲームのシレネはレベル13程度の主人公に負ける程弱いが闇属性の攻撃魔法は使用してきた。どこで習得したのか、正直魔法陣も分からないが私にも使えるのではないだろうか。
最悪の場合は逃げ出せばいい、私の移動手段があればそれは可能だ。
今ここでこの魔物を倒しておかなければ…あのような襲撃はまた起きるであろう。
室内を歩き回るうちに靄が濃く漏れている扉があった。
この奥にいる…それは靄を見れば明確なものだった。
ギギイィィと嫌な音を立つ扉を開けて室内に入る。
息が詰まる。
暗い靄が1つの塊のように集まっていた。
「ぅ…」
「…アスター?」
後ろにいるアスターから呻き声のような声を上げた。
振り返ると苦しそうに蹲り顔が酷く真っ青だ。しまったと感じすぐにでも退出しようとしたが…
ギギイィィッッ!バタンッ!
扉は硬く閉まった。
ガ…ぁ…グゥ……ッッ
後ろから呻き声が聞こえる。
男性のような低い呻き声だ、既にアスターは意識があるのかないのか分からないほど苦悶に満ちた顔で倒れている。
後ろを振り向けば…塊は1つの異形な形へと変化していた。
それはだんだんと形を変えて人の手のようなものが何本も生成されていった。恐怖、というよりも今目の前の光景にただ無機質に眺めていることしか出来なかった。
―来るっ!
勘が先に働いた。
ぼわっと手のようなものは伸び襲い掛かってきた。
反射で躱してしまいその手はアスターの身体を掴んだ、捕まったアスターから「あ…ガッ…!」と苦しそうな呻き声が漏れる。
しまった!!
だが、その手は直後にアスターを解放した、そのまま床へと落ちるがすぐに立ち上がった。
身体を不自然にゆっくりと左右に揺れながら…。
その顔はアスターの顔だが全く別のものだ、目は見開き口からは唾液が垂れていた。短剣を手に持つアスターは別人のように感じる。
洗脳
闇属性魔法の1つ。
ゲームでシレネが行っていた魔法だ。
他者を乗っ取り操ってしまう魔法で対象は人だけでなく、魔物も。
私も短剣を持ち、戦闘態勢をとる。