39.天然国王妃は傍若無人
「シレネちゃんっっ!!」
あー…。頭が痛い。
「ご機嫌よう、ヴィオラ国王妃陛下……っ」
「いやだわっ!!なんでそんな堅苦しいのっ!」
「娘なのにっ!」とぷんぷんしているヴィオラ様に頭が痛くなってくる。
…またこの人は来たのね、お忍びで。
両隣にいるカルミアとイキシアまでもが私と同じ顔をしている。だが、当の本人は嬉しそうに燥いでいる、この国の国王妃なので何も言えない。
「あら!アスターちゃん、立派になったわね!」
「お言葉ですが…4日前にも聞きました」
そうなのだ、この人も割と来るのだここに。
しかもお忍びなので急遽国王妃をお迎えする形になるので困っている。
最近ではルリが感知するようにもなってきてしまい、事前の準備が円滑になっているのはさすがクレマチス公爵家だと思う。
城通いがなくなった私だが逆に通われる立場になってしまい決して毎日が休息の日々でない。
「ヴィオラ様、カルミア、イキシア」
「あらアキレアは今日もいたのね!」
ヴィオラ様は飛びつく様にアキレアを抱き締める。
恐らく昔からなのだろう既に慣れている様子のアキレアを見ると私もそろそろ慣れなければと思いつつヴィオラ様の息子たちが慣れていないのだから難しい。
「ごめん、シレネ…どうしてもて」
「イキシア様は悪くないですわ。侍女が何となくで察知しておりました」
「さすがだ」
「シレネちゃんっ!暫く会えなかったからお話がたくさんあるのよ」
4日前が暫くとは…。
いつものように部屋へ案内し、席に着くとテンションがやけに高い。少々嫌な予感をしないでもないが…。
「次はタイサンも一緒に連れて来るわ!」
やはり…。
パチッとウィンクするヴィオラに私は最近思うことがあるのだ。
似た者夫婦の息子であるカルミアとイキシアは20年後ぐらいにはこのように強烈になっているのではないか、と。それはそれで想像すれば面白い事だろうがそんなこと言ったらカルミアの重圧で今度こそ圧迫死するだろう。
「タイサン様も、ですか」
いいのだろうか。今は王城内でも色々とあるのだろう、最近は王子の誕生会以外では城へ行くことはないので今がどうなっているかはよくわからない。ただあのザクロ大公が大人しくしているわけがない、そんな状態でこの国の王が城を離れても大丈夫なのだろうか。
「ええ!タイサンもシレネちゃんに会えなくて寂しくて泣いているわ…」
哀しそうな顔で伝えるヴィオラだが、私に会えないぐらいで泣かないでもらいたい。
あの時の冷たい目をしたタイサン様は一体何だったんだろう、もしやタイサン様に似た誰かだったのだろうか…。
「とても…光栄です」
笑顔が引き攣っていないか心配になる。
すぐ傍でお茶の用意をしてくれているアスターは顔が引き攣っていた。
「シレネちゃん、今王城内では表向きは今まで通りのままよ。でも貴族方が少しずつ動き始めているわ。来年のカルミアとイキシアの誕生会できっとシレネちゃんとアスターちゃんなら気付くと思うわ」
!!
表情はいつものように優雅な立ち振る舞いで微笑んでいるが、仰っていることは警告だ。
今年は大きなことは何もなかったが、来年には動きが見えるということなのだろう、その後も言葉を続けるヴィオラに耳を傾けた。
”王位継承権争いの勃発”
やはり起きてしまっていた。
しかもゲームとは少し違い、”反カルミア派”なのではなくて”カルミア派”と”イキシア派”の派閥が水面下で大きく分かれ始めている。
カルミアもイキシアもそれぞれの派閥の貴族たちを抑えている為大きな争いにはなっていないがそれも時間の問題とのことだ。当の本人たちが止めているというのもおかしな話だが、貴族側の取っては支持していた王子が国王になったときに優位に立ちたいのだろう。
特に野心が強い者は強行手段に出るだろう、それがゲームではイキシアの心に大きい傷として残り続けていたのだから。イキシアが気付いているとはいえ、カルミアに何かあった時には同じようになってしまう。
ただ、アスターがここにいる状況下でこの話をしたということは…
「次の誕生会は警戒します、ヴィオラ国王妃陛下」
「シレネちゃんっ!だからその堅苦しいのはよして!!もう何度も言っているのに」
ヴィオラ様の心情を掴むのには難しい。
この話の後にいつものテンションに戻るヴィオラに私も見習わなければならない。多分、私には無理だ。
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「それじゃあね!シレネちゃんっ!」
元気に手を振るヴィオラ様にどっと疲れを感じた。
「…父上が一緒に行くと最近喚いているんだ。どうにかしろ」
「あら、それはカルミア様のお勤めですわ」
「シレネ、カルミア。ここで嫌味合戦し始めたら父上と母上の元に送るからな」
イキシアの言葉に何も言えなくなった。
ヴィオラ様1人でも大変なのに…もう1人追加なんて恐ろしい。
あれ?次は一緒に来るて宣言してたような。