37.放恣従者と特訓
「はあぁあッッ!!」
ザシュッ!!ドスッッ!!ビシャアアァア……
「うわあー…相変わらず容赦ねぇな」
個人特訓、既に激しい運動が身についていた私には魔物を戦って動かさなければ気が済まなくなった。
毎日走りまくっていたおかげで今の自分よりもレベルが高い魔物の攻撃を躱すことも可能な私は走らなければレベルが落ちてしまうのではないかと危惧した。
「!塵土爆っ」
ドゴオォオオォッ!!
「アスターも人の事言えないわ…」
私の特訓に付き添ってくれるアスターも必然的にレベルが上がっていた。
元々野盗だった彼の開始レベルが10、ゲームではレベル13で仲間になる彼だったが既にこの時には10に達していたのだ。ジファストの森奥地がアスターの住処だったので妥当ともいえる。
ジファストの森入り口付近はレベル5なのだが、奥地まで行くと推奨レベルが10になる。野盗時代の経験で短剣、ナイフが得意なアスターは完全我流であるものの完璧に使いこなしていた。
通常であれば子供はレベル1であり学園に入学と同時に初めて森で魔物と戦いレベルを上げていく。
アスターが特訓を開始してから既に1年以上経過している、カエルウムの洞窟はアスターにとってはレベルを超えており強敵だらけの環境で鍛えていることになる。
そうすればレベルが上がらないわけもなく、今のアスターはレベル18。アスターもまたゲーム登場以上のレベルになってしまったのだ。
「いや…オレは避けんのに精いっぱいだけどお嬢は容赦なく斬り捨ててんだろ…」
引き攣った顔をしているアスターを見ていると師匠の観点を知れたように感じる。
魔物へ攻撃しつつ周囲の警戒を怠らない、仲間の危機も注意しなければならない。誰かを護りながら戦うことは想像以上に難しいことだ。
だが師匠は血の雨を降らせつつも私への配慮は抜群だった、何故なら私は1度も怪我をしたことがないからだ。何度も襲われて死ぬ!て思って全力で躱して逃げていたが、それは特訓に慣れた後半あたりからで最初の内は恐怖が勝り足が動かなかった。それでも襲い掛かるレベル45の魔物からは1度も怪我することはないままだ。
…それもあって侍女達には気付かれなかったのだが。
つまり、仲間の力量も把握しておかなければ護ることが不可能に近い。
「師匠の教えよ!」
「血を浴びる必要はねぇだろ」
別に浴びたくて浴びているわけじゃない。
ただ…師匠は血飛沫を噴射させる斬り方でそれを見てきた私も必然とそうなってしまうのだ。
一応”斬る”のではなく”刺す”ではこんなに血を浴びることもなく綺麗に魔物を倒すことは可能であるのだが、腕は勝手に振ってしまうのだ。
「!アスター油断しないで。音波っ!」
ブシュッ!ビシュ!グシャアァ…
「……うぇ」
レベル30に到達したことで呪文の種類も増えていき、以前イキシアからもらった本を参考にしてその種類を増やしていった。初期レベルの複数魔法陣組み立てをやっていたこともあり比較的簡単に呪文の習得は出来た。
「あのさぁ…もっと原形を保ったまま倒すことは出来ないの?」
最近はアスターの文句が激しい。
風の魔法は裂く系が多いし、水系は貫く魔法が多いのだから仕方がないと思う。
「そんなこといえば土属性だって圧迫が多いのだから原形を保つことは出来ないと思うわ?」
そう、アスターの属性は土。
少し意外なのはゲームの中での彼は物理より魔法が得意のタイプでその魔法攻撃力、魔法防御力はパーティー内で1番を誇っていた。全体攻撃が多かった土魔法は雑魚敵戦ではとても楽にレベル上げ作業が出来た。
ただ弱点でもある風属性にはその戦力は劣ってしまっていたし、ゲーム終盤に近付いてくるにつれて闇属性の魔物が多くなってくるにつれてあまり活躍する場面がなくなってしまった。
「いやオレそこまでの呪文使えねぇし」
「このままいけばすぐ使えるようになるわよ」
それこそアスターの生活魔法の使い方が凄まじく器用だ。
高いところを上るにしても土を階段のようにして操作したり、土台を作り上げてしまうこともある。
なので最近はそれをタツナミと一緒に庭師のお手伝いをしたり、フランネの花壇のお手伝いをすることもある。ふむ…さすがとしかいえない。
私もある程度は土も操れるがさすがに階段を作るまでの器用さはない、しかも風属性を使うことが多いので他の属性はあまり扱えていない。困ったものだ。
「てか!呪文だけじゃなくてオレにも短剣の扱い方教えてくれよ!」
??
何を言ってるのかしら。
「何度も見せてるじゃない」
「いや”見せる”じゃなくて”教え”ろぉ!」
何をそんなに怒ってるの。
ちゃんと見せてるのに、色んな斬り方を…。