4.クレマチス家の使用人
「お嬢様っ……………!!」
「ぅぐ……ほん、どに………よ、よがっだ…………っ!」
フランネはとは別の侍女に抱き着かれ、男性は私を見た瞬間に膝から崩れ涙をボロボロ流した。
その後ろで、2人の様子にため息をつきつつも小さく微笑んでいる侍女ととても優しそうに微笑む初老の男性。
「あ、あの………く、くるしい………でっす………」
感情いっぱいに抱きしめられ、いくらか細い女性とはいえ6歳の子供にとっては、充分窒息できる腕力だ。
フランネに呼ばれるや否や、飛びつかれ泣かれ首を絞められている。
「ガーベラ、お嬢様を離しなさい。………コルチカ、お嬢様の前でなんと情けない………」
はぁと溜息と共に凛とした声で言い放つ。
ガーベラ、と呼ばれた女性は一度ビクッと上下すると「た、大変失礼しました……っ!」と大慌てでシレネを解放した。
「まぁ、ルリも折角お嬢様が元気になられたのだから、少しぐらいは許してあげなさい」
ポンッと軽くルリの肩を叩くと、初老の男性は、シレネの前まで来ると両ひざを折り下げ、シレネの目線に合わせてくれた。
見た目通り、とても優しそうな初老の男性に、前世で大好きだった祖父を思い出す。
………祖父と比べたら全然若いし、とても失礼なのだけれど。でも、不思議ととても安心出来た。
「シレネ様、お元気になられて良かった………。わたくしは、庭師をしております”タツナミ”と申します。今後ともよろしくお願いいたします」
にこりと微笑み、優雅に自己紹介をしてくれた。
銀髪の髪はすべて後ろへと流し、正にダンディなおじさまを連想した。
「そして、そちらで号泣している男は”コルチカ”でございます。この屋敷の料理人です」
未だに膝をついたまま腕で顔覆い、号泣している男性に手を向けて紹介する。
フランネは苦笑いを浮かべながら、コルチカに片手で肩を添え、もう片方で背中を摩っていた。
「わたしとしたことが、自己紹介が遅くなり申し訳ございません。わたしは”ルリ”と申します。そしてこ「ガーベラと申します!!」
ルリと名乗った女性が最後まで言う前に、ガーベラは元気よく笑顔で遮った。
ピキッと音が鳴ったように思えるほどルリの顔は、怒りで青筋を立てたが、ガーベラは全く気付く様子もなくきらきらした表情でシレネを見つめ続けていた。
「……タツナミ、コルチカ、ルリ、ガーベラ、そしてフランネ。今まで私のお世話をしてくれてありがとう。改めてよろしくお願いします」
とても愉快な使用人たちに思わず笑みを浮かべてしまう。
シレネ、あなたこんなにもいい方たちに恵まれていたじゃない………。
コルチカがさらに大声で号泣してしまい、さらにはガーベラも泣いてしまい落ち着かせるのに一苦労することになった。
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少し時間がたち、皆と一緒に楽しい晩餐を終えた。
私はタツナミに長すぎる髪を切りたい、と頼んだところ笑顔の快諾をしてくれて地面についてた髪は、腰あたりまで切ってもらえた。さすがは、庭師、とても手先が器用だった。
どうせなら前世のようにショートにしたかったのだけれど女性の短髪は、貴族世界では御法度とのこと。
確かにそういわれると貴族=きれいな長髪、という印象はある。
散髪したあとは、フランネとガーベラに湯浴みに案内され身体を洗われそうになったが、さすがに前世の私が許さなかった。
『一人でお風呂ぐらい入れますっ!!』
顔を真っ赤にして大声で叫んでしまった。
2人はオフロ……?と呟きながら呆然としていた。
その隙に私は一人、お風呂に駆け込んだのであった。
お風呂に出てきた後は、フランネが風の魔法で瞬時に乾かしてくれて初めて目の当たりにする魔法にとても感動した。
クスクスと笑われながら、あんなにもごわごわで、ぼさぼさの髪はとてもきれいな柔らかいサラサラヘアーへと変貌してしまい別の感動をおこしてしまった。
ただ前髪は切るのではなくかき上げてもらうようお願いをした。
伸びたら切るというのもめんどくさいし、いくらフランネたちが髪を整えてくれても額に髪があるのはどうもくすぐったくて嫌。
鏡の前で整髪された状態をみると、やはりお人形感は抜けないが前世だったら、間違いなく世界中から大注目を浴びるであろうほど美しい子供だ。
子供のうちで可愛いではなく、美しいとはどうなのだろうか?
思わず美しすぎる自分に見惚れてしまったが、ハッと本来の目的があることを思い出した。
「そ、そうだった………!フランネ!わたしに魔法を教えてくれない?」
すぐ傍でにこやかな顔をしていたフランネに顔だけ向け、お願いをしてみた。
一瞬、驚いた顔をした後気まずそうな顔へと変化した。
「…?フランネ?」
「……お嬢様、失礼ながらそちらは出来ません」
ぴしゃりと、少し離れたとこにいたルリがフランネの代わりに答えた。
「なぜ……?」
「わたし共は旦那様よりお嬢様に魔法を教えるなと仰せつかっております」
なっ……!!クレマチス公爵、いえ父上はそんなことを言っていたのか。
ゲームでは、ただのいいひと役だったが実際はとんでもないく〇野郎だわっ!
そう、ゲームではシレネ戦後、主人公に土下座でシレネのことを謝罪をする。
主人公がそれを許すと、聖女の後援をしたいと申し出て、クレマチス家の養子に迎えられ、両親がいなく、家族というものを知らない主人公には喜ばれ、はれてクレマチス家令嬢となる。
そして、クレマチス家という肩書と正式に聖女として授爵する。
「なら、勉強することは構わないでしょう?どうせ、学園で魔法学について教わることになるのだから。今からその予習よ」
「ルリさん…それぐらいはいいんじゃないですか…?お嬢様のお願いですよ!」
ガーベラの援助攻撃でルリの顔がさらに曇る。
「……例えば本とかでしたらいかがでしょう?いつかは知ることになる知識ですし、実践がなければ問題ないかと思いますよ」
「…フランネがそういうのであれば、そうしましょう。お嬢様、お約束ください。くれぐれも実践はしないでください。…まぁわたしたちもこの屋敷に居住しておりますのですぐに気付きますが」
うっ…手厳しい。ルリにはまるで私の考えていることがわかるように指摘してくる。
ガーベラは「え?なぜフランネさんはいいのぉぉ」と落ち込んでいたが、それは無視して笑顔で「もちろんよ!危ないことはしないわ!」と返しておいた。
知識があるのとないのでは全く違うわ。
「よかったですね、お嬢様!それでは明日にでもたくさん本をご用意致しましょう」
にこり、と柔らかい笑みを浮かべるフランネはまるで天使のようだった。
お姉さんのような親しみやすさもあり、とても人気の女性であろうなとも思う。
ゲームで登場しなかったが、もし登場でしていれば人気投票ランキングでも20位以内には入っていたかもしれない。………因みに、シレネは見事ランキング外だったが。
「ありがとう!フランネ、ルリ!………そしてガーベラもありがとう!」
「お、お嬢様っっ!」
ぱあと明るくなるガーベラに中身26歳の私はとても可愛らしい女性だと感じた。
細かな年齢は知らないがきっと3人は私よりも年下であろう、それでも彼女らは公爵家侍女でありとてもしっかりしていた。ゲームばかりしていた自分とは大違いだ。
「あの~私も一緒に外出するのは………?」
「「なりません。」」
ガーベラを除いてルリとフランネがはもり、そしてガーベラからも援助の声が上がらなかったのでどうやらお留守番確定であろう。
「…………はい」
残念な気持ちを抑えて大人しく従うことにした。
ただでさえ、父上の意向に無理を言っているのだから…きっと私の外出制限も父上の命令なのであろう。