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33.聡明国王は危惧する



「シレネ・クレマチスは監視すべき対象だ」

「ザクロ大公、理由なくして為すべきことではありません」


こうなることは予測していた。

俺があの時、シレネが強くなりたいと申してきたあの時から。


「ヴィオラ国王妃、わたくしは貴方に発言しておりません」

「残念だなザクロ大公、俺も同意見だ」


鋭い眼差しを向け室内に緊張感が漂う、誰か1人でも唾を飲み込めばその音が響くだろう。


「愚王に成り果てるとでも?」


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「なんだと!?」


衛兵の報告に血の気が引いた。


”大群の魔物により襲撃”


カルミア、シレネ共に大きな傷はなく命に別状がない、そして騎士にも死亡者は出ていないという内容に胸を撫で下ろした。だが、同時にこの件が起因となり我が王城内で大きな波紋が出てくるのではないかと感じた。

その報告を聞いた後、居ても立ってもいられず執務室を飛びだした。


「シレネ!カルミア!アキレア!」


イキシアの悲痛な叫びが聞こえてきた。

まさか、そんなにも酷い傷を負ってしまったのか、そう考えれば足を速めた。だがその姿を見れば再び安心した、身なりは無残な姿となっているが大きな怪我はない。既に俺よりも早く到着していたイキシアとヴィオラは3人を抱き締めていた。

…いいな、俺も混ざりたい。


俺を見て気まずそうな顔をするシレネには、恐らく何かやったんだろうなということは予想出来た。カルミアは怪訝そうにしているしアキレアは何か信じられない者を見てきたらしい。それを見れば何をしたかなんて十分理解できたし、申し訳なさそうにするシレネがとても愛らしい。


「タイサン国王陛下、ご報告申し上げます」


その言葉を皮切りに俺とグロリアは執務室へと戻った。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「―…以上がご報告です」


ふむ、と考えた。

報告内容を聞いても不備は全くない、むしろそれだけの大群をたった10名で混戦しカルミア達に大きな怪我もなく護り抜いたことに賞賛を捧げたいものだ。

神妙な面持ちを変えずにいるてことは王族に怪我をさせてことを根に持っているのだろう。

グロリオとはそういう男だ。


「よくやった、グロリオ。やはり君はすごいな」


思いもしなかった言葉なのか、気の抜けたような表情をしていた。


「グロリオ…君の見解を聞かせてくれ」


その言葉で一瞬で気を引き締め、眉間の皺が寄っている。


セイレーンが群れを率いていた…セイレーンは単独を好む魔物だ、ましてや好戦的ではないしこちらから縄張りに侵入しない限りは襲ってこない。

それが複数のセイレーンと他の魔物がいた、となればこの件は只事ではない。



魔王の復活は近い…。


その考えに至るには簡単だ。

だが、”特定”のセイレーンを倒したら魔物は去った、という事には疑問が残る。そのセイレーンが頭首だったというのか?縄張り意識が強いセイレーン同士が?


「そのことに気付いたのか?」


王である以上、我が国に危険を脅かすことはあってはならない。

王は民の為に存在する、王族とは民の幸福の為に存在する。その民を脅かす存在は徹底的に排除しなければならない。


「…偶発でございます」


王は間違えてはならない。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「愚王に成り果てるとでも?」


愚王、ねぇ。

既に民1人を犠牲にしてしまっているんだ、とっくに愚王に成り果てている。だが、俺が生きている限り俺の王政は続く。


「俺が愚王ならば…貴方は愚大公だな」


部屋中に冷たい空気が流れる…幾度となく兄ザクロには一矢報いれられてきた、昔から。

だが俺ももう思い知った…存分に、優しいだけじゃ人を護ることが出来ないと!時に冷酷にならなければ誰1人も護れない!



「ザクロ大公、俺がイズダオラ王国の王だ」



「…国王陛下の御心のままに従いましょう」


そう言い残すと話は終わったと言わんばかりに部屋を退出していった。

ふぅと溜息が出てしまう。まだ牽制仕切れていない、むしろこれからだろうな。



「わたくしでは力不足だわ」


ヴィオラは呟く声で話を続けた。


「以前まではカルミアとイキシアも貴方と同じ道を進んでしまうのかと怖かったわ。でも今は2人共兄弟らしく仲良くしているのを見ると杞憂で終わった良かった…そう思えたのは紛れもないシレネちゃんのおかげよ。あの子が2人に別の道を開いてくれたわ」



カルミアとイキシアは良くも悪くも俺とザクロに似てる。


カルミアはザクロに、イキシアは昔の俺によく似ていた。だから同じ道に歩ませたくなくて何度も言い聞かせてきたつもりだった。

それが逆効果だったのだろうか…2人の距離は離れていくばかりだった。


「ヴィオラ、今の俺がいれるのは紛れもない君のおかげだ」


ヴィオラに出会わなければ俺はただの愚王になっていただろう。

ザクロにいい様に扱われ何も気付く事も出来ずに…。



「ヴィオラが教えてくれただろ?大きな光を持つ国は、相応の闇も持ってるて」


優しく微笑むヴィオラに出会えてよかったと心から思う。

そして、我が息子達とシレネが出会えてよかった。


…だから俺はもう間違えない。


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