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32.厳格騎士は



「シ…シレネさま…っ!貴方は何者なんですか?」


血の気がなくなり真っ白くなっている顔、目を見開き困惑と恐怖に染まっていた。唇を震わせ拳を作りながら私に問う。


「…シレネ、戻ろうか」



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




ガタガタッと馬車が激しく揺れ、私とカルミアは身体を打ち付けた。

揺れは収まることがなく頭を打たないようにするのに精いっぱいで何が起きたかなんて確認する余裕がなかった。


「引けええぇえっ!!」


誰かの怒声が外から聞こえてくる。

魔物の声と鎧が駆ける音が響き、同時に馬車も後退し始めた。グロリオ団長率いる前方は既に衝突し、争闘している。

魔物の襲撃、そう理解した。王家騎士となればこの周辺の魔物等敵ではない。だが騎士は尋常ない声で”引け”と激を飛ばした。

…なんだろう、すごく嫌な予感がする。


「アキレアっ!!馬車に入りなさい!!」


考えよりも先に声が出た。

何とか窓からアキレアを馬車内に引き込めないか、と手を伸ばしたが突如のことに混乱しているアキレアの耳には全く聞こえていない。それどころかアキレアの目には混戦している様子を捉えているのだろう。


「とうさまああぁっ!!」


断末魔のような叫び声を上げ走り出してしまう!

まずいっ!10名ほどの王家騎士団魔法士団が未だ混戦しているという事は。それだけの強敵か群れかのどちらかだ。

「アキ!行くなっ」と護衛の騎士がアキレアを止めて、少し安堵した。だが、



「カルミア様!シレネ様!伏せてください!!」


近くの騎士がそう叫んだ。

その直後、


ドゴオオォォオオオオォオオッッ!!!



!!??


あまりの衝撃に眼を瞑り、容赦なく襲い掛かる打撃にただ耐える事しか出来なかった。

馬車が横転したのだろうか?バキッと何かが壊れている音に合わせるように私も身体中を叩かれているような打撃が続いた。



「―…シレネっ!!」


打撃が収まり、カルミアの声で私は目を開けた。

髪は乱れており、高価な服は所々破れ無残な姿になっていた、それはカルミアだけじゃなく私もアキレアもだった。

…何が起きた?


身体は痛み起こそうとすると悲鳴を上げるようにズキズキッと痛んだ。

カルミアが手を差し伸べてくれて、ゆっくりと立ち上がる。周りを見渡し、言葉を失った…



先程まで護衛していた騎士が血を流し倒れていた。



「そんな…ッ」


痛む足に鞭を打ち、近くの騎士に駆け寄ると呻き声を漏らしていた。

息はある、その事実だけでも安堵するのに十分だった。


「…どうやら峠から落ちたみたいだ」


遠くなっている混戦の音にそれだけの高さから落ちてきた。



私は上を見上げて息が詰まった、氷が体の中で解けるように冷たく嫌な感覚が足の先まで伝わる。



「あの…靄はなに?」



―『シレネ様に見えるあの暗い靄はなに?』



ゲームの主人公のセリフが頭に過った。


…闇、属性?

その靄は峠の上に纏わりつくように漂っている。私の目には真っ黒な雲のように濃く見えた。


「…もや?」


私の発言に訝しんでいるカルミアに確信した、あれは私にしか見えていない。


「とう、さまあぁあ…っ!」


見えているのであれば、倒せる。

ビュオウゥと風切り音共に飛び出した。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「シレネ様っ!?」

「グロリオ団長!!」


私の姿を見てグロリオ団長は顔面蒼白へと顔色が変わる。

だが、私はそれよりも魔物の多さに驚いた、群れというよりも大群だ。


ガルグイユとセイレーンもいるの!?


ガルグイユは以前戦ったボス、そしてセイレーンはカエルウムの洞窟のボスだ!

そのボスが群れを成して襲っていたのだ。その数の多さではさすがに騎士10名では捌ききれないであろう。それに…闇属性を持っているのであれば魔法が効きにくい。


「シレネ様危険ですっ!!お逃げください!」


グロリオ団長が私の方へ駆け寄ろうと足を動かした。



ビュウオオウゥゥ…ザシュッグシュッグシャッッ


鞭を振るい、まずはガルグイユの翼を傷つけ落としていく。風の生活魔法で威力を高めて1匹、また1匹と地面へと落としていく。


「グロリオ団長、自分の身は護れますわ」


ザシュッ!

ドスッ!


「シ、レネ様……?」


言葉を失うグロリオを横目に私は靄の正体の探す為に全力で駆けた。



…1つだけ思い当たるクエストがある、魔王復活前に闇属性の魔物と戦うクエストが。



「…いた」


1匹だけ真っ黒な靄に包まれている。

遠くから見れば人形のような美しさを持つが近くで見れば鋭い牙を持っている、どういう仕組みかわからないが空中を泳ぐように移動し、水魔法を使う魔物セイレーン。どこかの本でセイレーンの唄声は引き込まれるなんて逸話がある。

光属性がいない中では、物理でセイレーンを立ち向かうしかない。それでは中身の魔物までは倒せないが撃退でもいいか、と考える。



ヒュオオウウウウ…ビシャッ!!


鞭を振るい確かな感触はあった、それでもセイレーンは特に苦しむことなく襲い掛かってくる。短剣を持って来ていれば喉を掻き切ってやれたのに。


ギグギャア"アアァアッッ!!


この声のどこが引き込まれる声なのかしら、と皮肉を考えるほどの余裕はあった。

攻撃も魔法も遅かった、もう少し私に腕力があれば1発だったのに…師匠のようにはいかない。


「シレネ様!」



!!グロリオ団長…。


汗を額に濡らせ焦燥していた、私が勝手に飛び込んで勝手にいなくなってしまったからだろう。


「グロリオ団長!あのセイレーンがボスですわ!!」


ぼす…?と首を傾げていた。

だが、すぐに思い直したのかセイレーンへと態勢を取り「大人しくしててください」と叱責を受けてしまった。


あっという間だった…。


大剣を軽々と振りかざすその様はまさに”騎士団長”の実力を持ち、タイサン様が称えた栄光ある騎士の背中だ。

ザンッ!とセイレーンを一刀両断、大剣は風をも切りその余風で私の髪は靡いた。


か…格好いい…。


つい先程まで、靄のせいで冷えた身体は、今度は足のつま先から頭へと熱を帯び高揚感で鼓動が速くなる。感動するあまりに顔がだらしなく綻んでしまう。


「魔物が…引いていく?」


騎士の1人が呟いた。

グロリオ団長が憑物セイレーンを打倒したおかげで、他の魔物は堰を切ったのように逃げ出した。同時に暗い靄が消えていくのも見えた。さすがです、グロリオ団長。



「…シレネ?」


…後ろから真っ黒な別の覇気を感じて私は冷や汗が溢れ、笑顔が引き攣った。

しまった、無我夢中になりすぎた。


「シ…シレネさま…っ!貴方は何者なんですか?」


血の気がなくなり真っ白くなっている顔、目を見開き困惑と恐怖に染まっていた。唇を震わせ拳を作りながら私に問う。

私はその言葉を聞いた途端、ゲーム内の彼のセリフが過った『シレネ様は父が食われているときも笑ってたんです』…あ。



「…シレネ、戻ろうか」


城に、と言葉を聞いて黙って頷く事しか出来なかった。

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