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28.楽観侍女は語る



『お前がいなければよかった』

『役立たずね、産まなきゃよかった』


親に言われ続けていた、これが普通なんだと思った。


金を作ってこい、と言われて家を追い出された、金を作ってこないと家に入れてもらえない。

だから通りがかる人から盗んだ。


盗んだ金を親に渡せば家に入れてくれる。雨が降ってる日に追い出された日は最悪だ、道行く人は少ないしずぶ濡れになるし…体調崩すし。

1度どこかのバカに助けられたことがあったけど、その後が最悪だった。

親からは『お前のせいで金を取られた』と怒鳴られ、殴られ、蹴られ、蔑まれる。助けられたせいで殴られるようになった。



親、てみんなこうなんだろう?

大人、てみんな殴るんだろう?


…なのに。


なんで手を繋いでるの?

なんで笑っているの?

なんであの大人は優しい顔で撫でているの?



オレの親て、なんだろう。


ある日、いつものようにオレは金を盗んだ、でも大人に捕まった。すげぇ殴られて蹴っ飛ばされた拍子に頭をぶつけ意識を失った。

次に気付いたときは家の中だった、親が目を覚ましたオレを連れて外に出た。


初めて親と一緒に出掛けられて、周りの子供達と同じになれた気がして嬉しかった。手を繋ごうとしたら叩かれたけど…でも嬉しくて痛む足を一生懸命動かした。




「なんだぁ?坊主、なにしてんだ」

「親にここにいろて」


オレは自由を教わった。


「いいか、あそこの大人を引き止めておけよ」


新しい盗み方を教わった。


「よくやった!!坊主!!」


褒められることを教わった。


「アスター!おめぇすげぇな!!」


そして、全部失った。


いつものように過ごしていた、なのに皆がすげぇ慌てて逃げるぞ、て言ってオレの手をとり森を抜けて丘へと向かった。でも、森よりも魔物がすげぇたくさんいて殺されたやつもいた。

そしたら、騎士が来て…助かった、と思ったら「逃げろ!!全力で走れぇ!」て。


それに言うとおりにしたら騎士は皆を殺し始めた。






「どう?侍女仕事慣れました!?」


騒がしい声にハッと意識が戻ってきた、どうやら物思いに耽っていたみてぇだ。

ルリさんは厳しいし疲れるし、1日でも早くこの居心地わりぃ屋敷を抜けたいのは変わらねぇ。


「オレ、女じゃねぇ」


あ!そっか!て笑う、このガーベラさんは何が楽しいのかいつもヘラヘラ笑っている。

何も考えてなさそうでいいなとその性格が羨ましい、1日でも早く抜けたいのに日々の仕事に疲れて寝ちまう。情けねぇ…でも重労働ばっかでおじょうサマは毎日、ラク出来ていいな。



「…わたしもお嬢様に拾われたんだ!」


楽しそうに笑うガーベラの言葉に驚き言葉が出なかった。



「わたし、親に捨てられたんで!」



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



気付けば本に囲まれていた、よくわからないまま読み続けた。


世界中の地理、歴史、法律、民法、魔法学、錬金学、医学、薬学…一通りは本が教えてくれた。

”オヤ”という人はご飯をくれた、白い粒々が集まっているやつ。



『アナタは聖女になりなさい』


時々、オヤはそう言った、聖女…イズダオラ王国から古くに伝わる…―知識が頭の中でぐるぐる回りだしては止まらない。満足するまでずっと聖女について唱え続けていた。


「聖女はイズダオラ王国でしか誕生せず―…」



パシンッ!!


頬が痛んだ、ジンジンと痺れるような痛みと左側の頬が熱くなった。ああ…刺激による一時的炎症か。そう納得すれば、今度は何故その刺激がきたのかわからなかった。



「あなたがっ!!聖女になりなさいっ!!!」


オヤが叫んでいた、オヤの言葉がわたしの知識とちがうからそういうとまた叩かれた、何度も何度もちがうといっても叩かれた。

なのにある日「もういらないわ」そう言って国の外にわたしを連れだして、平地に置いたまま帰ってこなかった。


もういらない。


<<いらない―…誰も必要とされないさま、物事に必要とされないさま。>>


辞書の情報が頭に浮かんだ。

そうか、わたしが魔法覚醒しなかったから、いらないんだ。


そう理解すれば、胸が締め付けられて喉が塞がったように息がし辛くなった。病名がたくさん浮かぶけど結局、知識だけじゃ何も役に立たない。



―イズダオラ王国

―聖女誕生する国

―平和の国


へいわ…


<<へいわ―…戦争や紛争がない、穏やかな状態、心配やもめごとがないそのさま。>>





「おねえちゃん、だいじょうぶ?」


イズダオラ王国は平穏で戦争も紛争もない平和の国だった、だからわたしみたいな浮浪者には誰も近づいてこないし、誰も手を伸ばしてこない。争いを好まないから。


「具合わるいの?」


顔を上げると…空中に浮かんでいる小さな女の子だった。紺碧色の大きな瞳が私のすぐ目の前にあった。


「シレネ、何をしているの?」


もうひとりの女性が女の子に近づいてきた、わたしを見た瞬間に女の子を抱き引き離そうとした、でも女の子は激しく抵抗した。


「おねえちゃんは具合わるいのっ!!たすけるのっ!」





わたしはお嬢様の侍女ガーベラ。

お嬢様の笑顔の為にお仕えする。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「―…なので!わたしはお嬢様に仕えられたんです、なにも侍女の教養も受けてないのにですよ!?とても運がいいと思いません!?」


ものすごい満面の笑みで語るガーベラは、話してる時も終始楽しそうにしていた。”楽しい思い出”として語る内容は親に捨てられる話で笑える話じゃない。

似た境遇のオレも、その話にはあまりいい気持ちはしなかった、ていうのに!話と顔の表情がちげぇだろ!と言いたくなった。



「だから…お嬢様の笑顔を護るんです。もう2度と…」


自分の過去は楽しそうに語ったくせにおじょうサマの話題になった瞬間、笑顔は消え無表情ともとれる顔に変貌した。



「人形などにさせたくないのです」



低くまるで、地の底から吐き出したように強く、そう言った、

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