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22.軟弱子息の屈辱




ボクの父はとてもすごい。


騎士で、強くて、色んな人から慕われて、怖くて恐ろしい魔物から人を助ける仕事をしてる父はとてもすごい。そんなにすごい父はボクが3歳の時に国王様からも認められ、ただの平民だったのに”士爵”を授爵した。


貴族ではないけどただの平民でもない父の背中はとても広くて、ボクもいつかはこんな風になりたいな、て思っていた。

それに、ただの平民では話すことも叶わない立場にいるカルミアとイキシアともお友達になれてすごく嬉しかった。ボクの周囲の人達はすごい人ばかりだからボクもすごくなれるように頑張ろうと思っていた。



でも、ボクは弱虫の駄目な奴だ。


騎士を目指す為に父の仕事場に着いていった。でも、いざ剣を見れば鋭い刃が怖くてそれを振るなんて…もし斬れちゃったらとても痛い。

すぐ近くで魔法士団の呪文が発動すれば轟音と地震が起きて、あんなすごい魔法に巻き込まれてしまったら…身体はぐしゃぐしゃになっちゃう。考えただけでもとても恐ろしいのに、父の仕事には自分の見栄だけで着いて行った。


いざ着けば、怖いし父様には叱られるしで情けなくなった。それに訓練で怪我している人が見てしまった時は、本気で死んでしまうんじゃないかて思えたら身体が震えた。



『アキレア、もうわたしの仕事場に来るな』


何度も言われた、呆れた顔をして。ボクは何度父の仕事場に行っても恐怖を克服することが叶わなかった。



カルミアとイキシアは前に進んだのに…ボクだけ変われないままだ。



2人の仲が悪くならないように愚痴を聞いては窘めていた。前みたいに仲良くしてほしい、その一心でボクにはボクに出来ることをしようと思った。少し間が空いて最近来ないな、と思っていたらカルミアとイキシアが揃ってボクの前に現れた、知らない女の子と一緒に。



前みたいに戻って嬉しかったけど…ボクは取り残されてしまった。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「ほああぁぁ…格好いいですわ。さすがグロリオ団長です」



あの子はまた来た、今度は1人だった。


「アキレアの父上はやはり動きが違いますわね!」


白い髪を靡かせて、当たり前のようにボクの名前を呼び隣に立つ。


「…はい」


父様からは失礼な態度はとるな、と言い聞かされた、彼女はクレマチス公爵家の令嬢だと。知らなかった、それだけ高位貴族の令嬢だったなんて。だからボクでは出来なかったカルミアとイキシアの関係を戻せたんだ。権力とか使えば簡単だ。


そんなことを考えれば自分の幼稚さに情けなくなった、どうみても2人の関係は権力とやらであそこまで修復することは出来ない。


「私も参加させてもらえないかしら…」

「はい…え!?」



彼女の話をちゃんとに聞いていなかった、頭の中で復唱すれば意味不明なことを言っていたと分かって驚愕した。ボクよりも身長が小さい、ボクよりも細いくせにボクよりも芯の強い彼女はその言葉が冗談ではなく、本気だった。

駆け出した彼女は父様とコバンさんに何やら話していた、驚いた顔で止められていたけども彼女が何か言って複雑そうな顔をして許可をしていた。



嘘でしょ?あの堅物父様を納得させることが出来るなんて…!

ボクが何を言っても怒られてたのに…やっぱり権力てすごいや。


その光景を眺めていたら父様が彼女と向かい合った。何やら話していることだけはわかるがその内容まではボクがいる距離までは全く届かなかった。ただ、嬉しそうな顔をしているというのはこの距離にいても気付けた。

自然と他の騎士達からも注視され、訓練の手を止めボクと同じ様にその光景を眺めていた。



「はじめっ!」


コバンさんの掛け声が響いた。



ヒュッ!


その声と同時に彼女が動き、あっという間に父様との距離を縮めた。その素早さは令嬢が持てるはずがない、それどころか…大人よりも速い。


騎士の訓練は互いに向かい合うとき、両者の距離間隔を10メートルほどあける。

その距離を彼女はコバンさんの掛け声と同時に、父様の元まで駆けつけてしまったのだ。しかも、それだけじゃなかった―…



ザザザッ!


彼女は騎士たちがやっていた動きと、



ガッ!


同じことをしていた。


小さな身体を足で跳ね飛ばし、空中で回転して攻撃を避け、そして身体の小ささを逆手に取り大きな父様の懐に入る。



「そこまでっ!」


両者の動きがピタッと止まった。


父様が手加減していたとはいえ、小さな少女は確かにコバンさんが止めるまで父様と対等に戦えていた。


「ありがとうございます、グロリオ団長!とてもいいお勉強になりましたわ」



少女が優雅にお辞儀をし、柔らかに微笑んで感謝の念を伝えている姿を見て、本当にご令嬢だと痛感した。いつの間にか目を見開き、少女の動きに縫い付けられたように見入っていたことに気付いた。

口を開いたままで口の中が乾いてしまっていた。それだけボクは見入ってしまっていたんだ。


一瞬にして騎士の輪に飲み込まれてしまった少女は見えなくなってしまったが、父様とコバンさんは神妙な顔持ちをしていた。それが何故かわからないけど。



それよりもボクの中に沸々と沸いて出てくるこの感情はなに?

心臓がまるで小さな針で何度も刺され、身体中がなにか糸のようなもので縛り付けられるような感覚、顔が熱くなり目が滲む。


滲んだ視界が開けたと思えば頬には何かが伝う感触を感じた。



ああ、悔しいんだ…


ボクの方が父様の背中を見てきた。

ボクの方が先にカルミアとイキシアと仲良くなった。

ボクの方が騎士達の訓練を見ていた。




なのに()()()()は一瞬で今までのボクを超えてしまった。




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