21.鬼畜師匠は学んだ
キィィインっ!
激しい剣の打ち合いは、金属が交わりギギギッと金属音が鳴り響いた。時に剣を受け止めて力の競り合い、時に剣を躱して隙をつく。頭では敵との戦い方を知っているが、やはり実際にその動きを見ると鍛え上げなければ同じ動きは出来ないと実感する。
訓練している姿はどの方も格好よくて、やはり騎士とはとても素晴らしいと惚れ惚れしてしまう。
さすがに剣の扱い方は参考に出来ないが、攻撃の躱し方はとても参考になる。腕力が乏しい今は、受け止めるよりも躱して隙をつく戦法の方が合理的だ。
そこに魔法がそれなりに扱えれば、もっと敵を倒せるだろう。魔法士団の方を見ればこちらも高レベルの呪文を扱っており、あまり参考に出来ない。だが、魔法陣の組み立てが速い初期レベルの魔法も使用しており、王家魔法士団ともなれば1度に複数の魔法陣が発動している。
確かに戦場では、組み立てに時間がかかる大規模な呪文よりも、少しでも早く敵の数を減らすことの方が有利になる。
やはり、さすがは王家騎士団と王家魔法士団だ。騎士団の敵の躱し方、魔法士団の複数呪文、この2つを今は参考にした方が良さそうだ。
「シレネのやつ、すごい真剣に見ているな」
「…意外だな」
シレネが集中しているその後ろで3人は並んで立っていた。最初こそ音で怯えていたシレネだったが既に順応していた。普通の令嬢であれば激しい剣の打ち合いや大規模な魔法は嫌がり近づくことはない、それなのにシレネは集中して眺めていた。
「2人共、少し合わないうちに仲良くなったね」
カルミアとイキシアが仲良さげに会話していることにアキレアは少し驚いていた。2人が一緒にアキレアに会いにくることなんて久方ぶりだ。お互いがお互いの愚痴をアキレアに零していた。その都度、窘めていたがここ最近はどちらも愚痴を言いに来ることはなかった。むしろ、仲良くなっている。
それはアキレアにとっても嬉しいことで、前みたいにまた3人で楽しく話せる、と思うと胸がくすぐったく感じた。
「…前に戻っただけだ」
「ごめんな、アキレア。カルミアのことでたくさん話聞いてもらって」
”兄上”から”カルミア”と名指しになっていたことにもやはり驚いた、そんな2人の変化がなんでだ?と疑問が浮かべばその答えは1つだ。今目の前にいる彼女がいることが最近の変化だ。
「ううん、ボクも前みたいに話せるようになって嬉しいよ!」
その笑みは…少しだけ複雑そうにしていた。
「わあ!すごいですわ、今の動きとても速かったわ!!」
胸に両手を当てながら、テンションが高くなったシレネの声に3人は目線をシレネに集中させた。
素晴らしい!恰好よすぎ!あの回転して避けて、足を蹴りよろける隙に横からの一閃はとてもかっこいい。
思わず燥いでしまった淑女らしからぬ行動に気付くと、急に気恥ずかしくなった。
「し、失礼しました…」
顔を真っ赤にして俯いてしまったシレネに騎士達は心が和み、思わず口元が緩んでしまう。グロリオ団長の厳しい叱責が飛び、また意識を集中させた。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「ありがとうございました!グロリオ団長、コバン団長」
あっという間に時間は過ぎてしまい、気付けば王城内へ戻る時間になってしまった。もっと眺めていたいけど、それは仕方ない。
「こちらこそ」「また是非!!いつでもお待ちしております!」と笑顔で言ってくれてすぐにでも来たい、と思う。コバン団長はちょっと怖いけど。
―…ハッ!!師匠の気配っ!
感じ取った師匠の気配にキョロキョロと周りを見渡すが、どこにもいない。確かに感じた筈の気配はすぐに消えてしまい、気のせいだったかしら、と頭を捻る。
考えたら師匠がここにいるはずないわね。タイサン様の護衛についている筈だもの!
それに師匠が来る理由がないし!
「アキレアも今日はありがとう」
他の騎士達にもお礼を言い、最後はアキレアにも感謝の念を伝えた。戸惑わせ目どころか顔も合わせてくれない態度に少しショックだった。多分、今後も演習所に来ると思うし少しずつ打ち解けられたらいいな。
「…また来ようとしてる?」
横から冷ややかな声色で指摘してくるカルミアに敢えて満面の笑顔で答えた。
「もちろんですわ!!」
たった1時間という短い時間の中でとても勉強になった。正直、毎日でも来たいくらいだがカルミアとイキシアの護身術の日があるときにしか来れないし、2回目の視察許可が下りるかもわからない。
だけども想像していた騎士は堅苦しい印象があったが、皆いい人で純粋にまた会いに来たいと思ってしまった。
特に魔法士団には、とても可愛がってくれて嬉しい。
騎士団は、剣を軸にし腕の力が求められる為、男性しかいない。扱うのは剣だけではないがどれも力が求められるのに対し、魔法士団は騎士団と比べると腕力は必要ないので女性が多く在籍をしている。どちらも凛々しく逞しく優しく、騎士としての誇りと威厳を持っている姿に感銘を受けてしまった。
ただシレネは気付ききれなかった、もう1人感銘を受けた者がいたことを。
「ほぅ」
スカーフを口元に巻き、顔半分を隠しているその者はビュウゥゥと風切り音と同時に姿を消した。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
俺の側近であり護衛であるデュラは、命令しない限り俺の傍から離れることがない。いくら護衛任務についてくれているとしても休息時間を与えているのだが、コイツは休息時間になろうとも離れることはしなかった。
正直、いつ飯を食べているのかいつ睡眠をとっているのかが全くわからなくて心配にもなる。それでも完璧に任務をこなすデュラに何を言っても聞き流される。
だが、そんなデュラが俺から離れることが増えた。
1つはシレネの特訓、そしてもう1つは…騎士団と魔法士団の視察。
少し前から休息時間は、ちゃんと取るようになったのかと感心をしていたが、どうやらそれは違うらしい、帰ってきたデュラのホクホクした顔を見れば明確だ。珍しく可愛い表情を示している部下に面白半分でつい、聞いてしまった。
「デュラ、珍しいな。俺から離れるなんて」
律儀に「申し訳ございません」と頭を下げてきた。いや、ちがうてと慌てて手を左右に振り、止めた。
変にデュラが誤解しないように正直に話した。
「お前が最近楽しそうにしてるからな~、可愛い部下の話は聞きたいもんだ」
パチパチと瞬きをし何のことかわからない、と首を捻っている。どうやら本人は自分の行動に無自覚だったらしい。
まぁ、粗方予想はついている。多分…、
シレネの愚痴が相当ショックだったんだろうな~
あの時からだもんな、休息時間に離れるようになったのは。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「師匠、これは…?」
早速、騎士団と魔法士団の動きを実践しよう!と意気込んだ師匠との特訓。
なのに今日は師匠の様子が変だった。
ズラッと並べられた武器。
今までは長剣を扱うことが主だった。騎士団が扱っている大剣とは別物で、刃の長さは大剣と同じだが違うのは刃の幅と重量。大剣は重量ある分その威力も絶大だが、女性には到底扱うことは出来ない、むしろ騎士団だから扱える武器である。
それに対し長剣は、鍛えれば女性でも扱うことは出来る。そして師匠はその長剣を使うことが多いので必然的に私も長剣を扱っていた。の、だが。
短剣、銃、弓、鞭、ナイフ…様々な武器が並んでいた。
「全て教える」
そういうと、師匠は鞭を手に取り、魔物の群れへと近づいて行った。
ヒュンッ!ビュシュアアアァァァ……
……何が起きた?
師匠が魔物と少し離れたところで鞭を振るった、そしたら周囲にいた魔物の身体が裂け、中には半分に切断された魔物もいた。
噴水のように血飛沫が舞い、苦痛の叫びをあげることなく絶命してしまった。
開いた口が閉じれない私に師匠はただひとこと。
「覚えろ」
どうやら特訓の項目が増えたようです。




