19.王家騎士へ
「師匠、魔法が知りたいです」
師匠の厳しい特訓?のおかげで私のレベルは上がり、レベル1が気付けば21になっていた。
ウバガヨイの森なのにあまり上がらないなと思っていたのだが、その理由は簡単なものだった。
ゲームでは次のレベルアップまでが数値として出ていた。”あと、1000ちょっとでレベルが上がる”と、レベル上げ作業をしてる時はよくその数値を見ていた。レベル上げ作業が割と好きだった私はひたすら敵を倒しまくり、ボス戦は推奨レベルを越していたので難なく突破していた。
ただ主人公達に残虐極まりないことをさせていたんだと、申し訳ないと思う。
ゲームの”経験値”と現実の”経験値”は大きく異なる、むしろ当たり前のことであるが、例えレベル1の私がレベル45の魔物を1匹倒したところで、一気にレベルが上がるわけではない。攻撃を避け、魔法を避け、ひたすら走り回っていたらレベルは上がったのだ。
師匠は時々攻撃の仕方について教えてくれるが、私のか弱い腕力では精々、魔物の毛を切る事しか出来なかった。
つまり、例えレベルが1上がったとしても、ゲームのように攻撃力5上がる等の個人能力も上昇するわけではない。攻撃力を上げるのなら腕や肩を、防御力を上げるのなら身体全体を鍛えなければならないのだ。
…まぁ7歳の女の子が魔物を一刀両断するほどの力を持っていれば恐ろしいけど。
私は魔物から逃げ回っているうちに足腰の筋肉が鍛え上げられ、師匠の動きを常に目で追っていたこともあり”素早さ”が格段に上がったらしい。
師匠の本気の速さは光速すぎて追えないのだけれども。
「覚えろ」
そう、レベルは上がった。主人公の序盤レベルよりも。
ただ、武器は扱えない魔法も扱えない、ただ足が速いだけでは意味がない。それなのに師匠は「見ろ」か「覚えろ」としか言わない、しかもどれも今の私のレベルでも習得出来ない呪文だ。
見たところで実践すれば、魔力血液が爆発して死ぬ!
さぁ…どうしたものか。
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「どうして、騎士団と魔法士団を見たい、と思ったんだ?」
王城へ毎日、連行されている今こそ利用しないわけがない!
イズダオラ王国の軍事勢力は凄まじい、鍛え抜かれた何百人の戦士たちの中からさらに選び抜かれた戦士たちが、王家騎士団と魔法士団の騎士として所属が許される。
所属している騎士の方々は毎日厳しい訓練や演習でさらに鍛え上げている、そこから何かを見出せるのではないかと目論んだ。
「私たちも将来は学園へ入学しますから、今の内から予習ですわ!」
実は、ヴィオラ様とタイサン様に少し愚痴った。師匠の特訓が特訓ではないと…。
タイサン様は笑っていたがヴィオラ様には心配されてしまったが、王家の騎士団魔法士団への視察許可をくれた。
「なぜ、おふたりもこちらへいらっしゃるのです?」
王子2人が護身術の授業を受けているときは、私は自由にしていた。本来であれば妃の教養があるそうだが、秘匿されている為それはなかった。
なので、城内や庭園を散歩したり、本を読んだり…割と自由にしていた。その時間を使って視察でもしようと思っていたのだが何故か2名ほどくっついてきた。
「……暇だった」
「今日の授業が視察だった、から」
そんなわけないだろ、と言いたいところだが騎士方がいるのでやめておいた。侍女や衛兵は既に私らのやり取りは認知しているが騎士はちがう、それに王家に忠実な方々に見られれば捕まる。
私はこの2人に構っている暇などない、技術は見て盗む!!
「火砕爆破っ!!」
「海豹散水ッ!」
ドゴオオオォォオオッッ!!!
ヒュッビシュァアアッ……
「土豪塊」
ガガガガガ……ッッドォンッ!!
けたたましい轟音に地震が起きた。その轟音が耳を通り過ぎ脳に直接響き渡り、不意の轟音によって心臓が止まるかと思ったほど、頭がぐらつき音が収まった後も足元がふらついた。
「…そんなんで大丈夫なの?」
カルミアはまるで人を見下すような白い目で私を見てきた。2人は特段驚いでいる様子はなく、平然としていたので私だけ驚いたらしい。
カルミアの言葉に返す余裕がなく、ふらついた足元が崩れそうになる。
「カルミア、慣れないうちは仕方ないだろ」
イキシアが私の腰に手を添え支えてくれたので崩れ落ちずに済んだ。
礼を言い、しっかりと足に力を込めて踏ん張った。
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少し時間は経ち、私は何故か魔法士達に囲まれていた。特に魔法士団長がすごい。
「シレネ様!!ほかにぃい!他にはいかがでしょうぉおかああっ!?」
恍惚状態の魔法士団長コバンは、最初こそは「魔法の勉強です」とお伝えした時はとても冷静で落ち着いていたのだが…。私の属性を聞かれた際に4属性と答えたところで火がついてしまったらしく、生活魔法を実演してみせればこの状態になってしまった。
「え、えと空を飛べますっ!!」
そうして実演して見せればオオオオッ!と魔法士団の歓声が響いた。『これは素晴らしいわ!』『4属性持ちなんて初めてみた!』とそこら中から声が上がった。
カルミアとイキシアという王子を差し置いて、囲まれてしまったが大丈夫かしらと思い視線を向ければ2人もポカンと拍子抜けした顔をしていた。
大勢の人に囲まれることなんて、初めてだった私は見事に委縮してしまった。




