2.シレネ・クレマチスという人物
扉を出れば、まるで高級ホテルのような廊下だった。
私以外の人がいるのか、怪しいぐらいに人気は感じることがなくやはり不気味に感じた。
「だれか!いませんか!?」
歩きながら、大声で叫んでみる。が、返事はなく広い廊下に響くだけだった。
おかしい…やはり私はこの世界で誘拐された?でも、いくら子供とはいえ拘束することも扉を施錠していないのも変だ、見張りひとりいないのは誘拐であれば考えにくい。
とりあえず、鏡を探して自分を確認しよう!!
ふと、目についた扉へと入ると、そこは自分ががいた部屋とは比べ物にならないほど煌びやかな内装をしていた。
ベッドはないが、相も変わらず豪華絢爛なテーブル、ソファー2つ、絨毯も敷かれシャンデリアはなかったがブラケットライトがついていた。誰か個人の部屋というよりは応接間、であろう。
カーテンは開かれていて、明るいその部屋はまさに”金持ち貴族様”の室内とも思える。
「………素敵な部屋ね」
外は一体、どんな景色かしら。
そう思い窓に近づけばガラスの反射で今の自分を確認することができた。
真っ白く、手入れされいてない長い髪、”人形”のような小さい顔に大きな目。
小さくピンクの唇に紺碧色のきれいな瞳…
全身から嫌な感覚が押し寄せてくる、ひやりっと頭から下へと流れこめかみから冷や汗がひとつ、顔の輪郭に沿って流れた。
「シレネ………くれ、まちす?」
「…………お嬢様?」
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「なるほど…」
先ほど、侵入した部屋で用意された紅茶を飲みながら私自身の現状を聞いた。
今目の前にいる女性は、この屋敷に使える侍女。
やはりここは”クレマチス公爵家”所有の屋敷らしい、ただ両親は王都中心部に住んでいるらしくほとんどこちらの来ることはない。最初は目の前の女性に前世のように他人行儀の対応したら拒絶されてしまった。
「教えてくれてありがとう。フランネ」
「いえ、とんでもございません。」
なので、少し偉そうに呼び捨てにしている、正直抵抗感がある。
まるで奇妙なものを見る目は、慌ただしく目を逸らした。
それもそうだ。話を聞くと私は3歳の時に両親に連れられ、屋敷に帰ってきたときには別人のように感情を失い、口を開くこともなく立っていたらしい。
そして、両親は今まで愛情いっぱいに育てていた私を一人屋敷に置いて王都のほうへと引っ越してしまった。
私自身はというと、今この瞬間までまるで置物のように大人しく、床に座り込んで過ごしていたらしく、喋りかけても無反応で食事も取ろうとせずにいたらしいが、仕方なく部屋に食事を置けば気づいたら食べていたので距離をとって世話をしてくれていた。
ゲームでは、知ることはなかったシレネの過去…すこし不憫に感じた。
ゲーム開始時には攻略対象者だけでなく、サブキャラにも『人間味を感じない』『人形のようで気味が悪い』と言われていた。
「そういえば、私は今何歳なのかしら?」
「お嬢様は、今年で6歳になります。」
6歳か。
もし、ゲームの通りであればわたしは7歳の時にこの国の双子王子どちらかと婚約を結ぶことになる。
「あの、お嬢様。一体なにが…」
言い難そうに顔を少し俯かせ、目線はシレネに向けた。
それもそうだ、つい先ほど迄シレネはいつも通りでいたにも関わらず突然、部屋を飛び出し今の現状を教えてほしいと頼み込んできたのだから。
「あー…えと。夢を見たの!楽しい夢を!だから、いつまでも部屋に引きこもっていないでお外に出てみようかな~なんて…」
えへへと苦笑いして頬をかく。
我ながらなんと子供らしい言い訳なのだろう…まぁ今は6歳の子供だけども。
でも言えるはずない、前世の記憶が舞い降りてきて将来、主人公に殺されるんです、なんて!
ただでさえ人形ようだと避けられているのにそんなこと言ったら本気で頭おかしくなったのではないかと疑われてしまう!!
「…お嬢様が笑った」
呆然とするフランネ。
そんなに奇妙な笑い方したかしら…いや、確かゲームでもシレネは常に笑顔保っていたし、とても不気味な顔してた。
「フランネ、美味しい紅茶をありがとう。屋敷の皆が戻ってきたら教えて!一度部屋に戻るわ」
承知しました、というと私を最初に目覚めたあの部屋へと案内してくれた。
この屋敷に使える人はフランネ含めて、たったの5名。
内3名は侍女、庭師、料理人で、この5名は長らくクレマチス家に仕えていたみたいで昔の私をよく知るひとたちらしい。
1人この無駄に大きい屋敷に置いておくのは心配で、みんな住んでいるが今は外出しているとのことで少しすれば全員戻ってくるとのこと。
なんとも心優しい方たちなのだろう。
「それでは、ほかの者たちが戻り次第、お声掛け致します。」
「ええ、よろしくね」
フランネが部屋から出ていくと、改めて状況整理する。