14.天然国王妃は
「………やあ、迎えに来たよ」
「ご機嫌よう、カルミア様、えっと、迎え、とは?」
ある日の正午、危険王子は突然にやってきた。
タツナミとダンスの練習中に、ガーベラがが勢いよく扉を開けて「お嬢様っ!!大変です!」と大慌てで駆け込んできた。あたふたするガーベラをタツナミと落ち着かせ話を聞くと王子が来た、と聞いて大急ぎで向かった。
「………さぁ行こうか」
私の疑問は何も解消されないまま、連行されてしまった。
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「シレネちゃん!」
連れてこられたのは、王城。そしてなんと国王妃が直々にお出迎えという好待遇。
なるほど、私はこの為に連れてこられたのか、せめて一言でも言ってくれれば色々と心の準備が整えられたというのに。
「ご機嫌よう、ヴィオラ国王妃陛下」
挨拶を済ませば、ヴィオラ国王妃に案内されるまま以前きた部屋とはまた別の部屋へと案内された。そこは、豪華な家具、調度品で飾られているが煌びやかさはない、落ち着いた雰囲気の内装だった。
1人掛けのソファーに腰を掛ければそのまま埋もれてしまうのではないかと思う程ふわふわで、これなら長時間座ってても疲れないだろう。むしろ、今の身長なら寝れる。
「………では、母上。ごゆっくり」
部屋に着くや否や、役目を終えたカルミアは滞在することもなくいなくなってしまった。本当に此のためだけに私を迎えに来たみたいだ。
「シレネちゃん、ごめんなさいね。こんな形になってしまって………デュラとはあれからどうかしら?」
用意された紅茶を1度、口に含み優雅に振る舞う国王妃の姿はさすがだな、と思う。
師匠のことを聞かれると言葉が詰まる、優しくはないしあんまり教えてくれないし魔物の群れの中に投げ込まれるし、いきなり来るし。
「とても………強い御方です」
それしか言えない、強いのは紛れもなく事実だし。ただいつまで経っても私は強くなれないのではないのか……
「仲良くしてるみたいね!シレネちゃんはすごいわ、カルミアとも打ち解けちゃったみたいだし!2人共ちょっとだけ人見知りだから」
ひとみしり?それは、違うような。そんな可愛らしい性格じゃない、特にカルミアは。あんな恐ろしい7歳児が他にいるかっ!
「ヴィオラ国王妃陛下、お言葉ですが…打ち解けては、いないです」
変に誤解されたくもないし、訂正をした。
「いやだわ、シレネちゃんっ!そんな他人のような堅苦しいのはよして?シレネちゃんは将来わたくしの可愛い娘になるのに!」
口を尖らせて、多分怒っている?ヴィオラにシレネは察した。この人の心情は全く予想がつかない、母親とはいえあの捻くれた息子をお迎えの駒にしたヴィオラは、すごい方なのだろう。色々とキャラが濃い。
これだけ強烈な性格なのに何故ゲームではあまり登場しなかったのだろう?ヴィオラは序盤、シレネ戦前までは割と登場していた、同じく強烈な国王と共に。
中盤あたりから国王はともかくとしてヴィオラは、ほぼ登場しなくなった。
そして、ゲームではカルミアと国王妃はお互いに全く干渉しない不仲になっていた、カルミアなんて『母は、いないようなもん』とまで言っていた。今の2人の関係を見てしまえば良好の仲とまではいかないが、そこまで不仲でもないし。
「カルミア様と私は婚約を結んだとはいえ、仲良くはありませんし………今後カルミア様が好い人が現れれば身を引こうと思っていますから」
テンション高いヴィオラを窘めつつ、遠回しに私は”婚姻”する気はない、と牽制をしておく。
「カルミアの妃が務まるのはシレネちゃんしかいないわ!シレネちゃんはすごいわ~………あのカルミアを一瞬で射止めてしまうなんて」
さすがね!とパチッとウィンクするヴィオラに自分の牽制はまるで効いていないご様子。表に出てる時のヴィオラは妃として、気品溢れる振る舞いで国王の隣で穏やかに立っている印象が強かった。
今ヴィオラが少女に見えてきてしまう程、脳への打撃が強かったのかもしれない。まるで、フランネがガーベラみたいな性格になってしまったみたいだ。
「カルミアはね!頭がとっても良くて可愛らしい子なのだけど、感情がちょっと表に出すことが苦手なのよ。だからこそ、よしよししてあげるととても喜ぶのよ?シレネちゃんも今度やってあげてね!」
…ほぅ?いいことを聞いた。
「はいっ!婚約者として頑張ります!」
今日1番の笑顔で答えた。