表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/97

11.婚約という名の護衛



クレマチス公爵夫妻と国王夫妻は、押し問答を繰り返していた。

通常であれば、我が家にとってもこの上ない光栄な話であるが、私が婚約者というのが問題であったのだろう。万一のことがあれば、クレマチス公爵家は一気に没落貴族へ真っ逆さまに落ちていくことになる。それを見越して、猛反対するのは公爵側としてはご尤もな理由だ。


意外な人物が手を挙げ、延々と終わりそうにない話に終止符をつけた。


「ザクロ大公………許可しよう」


タイサン国王陛下の兄、ザクロ大公だ。険しい顔をしながら、発言の許可を得ると静かに言葉を発した。


「秘密裏に婚約を結ぶ、ではどうでしょう」

「どういうことでしょうか、ザクロ大公」


ザクロに負けじと険しい顔をしている我が父上は、低く重たい声色だ。

こんなにも小さな子供がいるというのに、そんな恐ろしい顔をしないでほしいものだ。ふと、イキシアの方を見れば真っ青な顔をしている、隣の兄は、相変わらずだが………。

国王陛下は何故、イキシアもこの場に連れてきたのだろうか。カルミアは関係者であるがイキシアについては態々この場にいる必要はない。


「それほど遠くない未来に、魔王復活します。そうなれば、我が国の平穏は途端に大規模な戦争へと見舞われるでしょう。我が国の弱点になる婚約者をお守りする為にも、個人名は秘匿にすることが良いのではないかと」


「ふむ、一理あるな」と呟くタイサン国王にザクロはさらに追撃をかけた。


「それに、今は騎士や魔法士への混乱は避けるべきです。今後、現れる聖女様をお守りすることこそが最優先事項ですから」


淡々として発言するザクロにタイサンとヴィオラが顔を顰めた。

まるで、婚約者に護衛は必要ない、と論理的なザクロへの不満が募る。ザクロは、国王の次ぐ権力者だ。世界を救う聖女と王子の婚約者では聖女へ護衛を固めるというのはむしろ、至極真っ当の意見だとも思える。



「それであれば、カルミア第1王子とシレネの婚約、お引き受け致しましょう」




♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「そう、緊張しないでシレネ」


ふわりと柔らかで気品溢れる微笑みを向けるヴィオラ国王妃に、侍女フランネを彷彿させた。

国王夫妻からはザクロのように敵意を感じなかった。

王族との婚約は、色々手続きがあるらしく、皆部屋から退出していった。私もついて行こうとしたが、タイサン国王に呼び止められ、今この部屋にはタイサン国王、ヴィオラ国王妃、私の3人しかいない。さらには、タイサン国王が人払いをしたのだろう、1度手を上げると衛兵たちも下がっていった。


「シレネ、子供である君へ言うことではないのだが………カルミアはしっかりしているようでまだまだ幼い部分もたくさんある」


砕けた口調で苦笑いし、腕を組むタイサン国王に緊張が少し解れた。国王、国王妃であると共にカルミアとイキシアの親である2人は、父親と母親らしい優しい顔をしていたから。


―ふと、私にある考えが過った。



「だから、シレネにはカルミアの婚約者として傍で支えてほしい、そう思っているんだ」


きっと、嘘ではないのだろう。

ゲームでもヴィオラはあまり登場しないがタイサンは国王らしくない気楽な性格で主人公からも親しみやすいと評されていたし、シレネの事を唯一、心を痛めてくれていた人物だった。だからこそ、その優しさを利用することが申し訳ない気持ちになるが、私が生き抜くためにも必要なことだ、とその罪悪感を押し殺した。



「承知しました、国王陛下。1つよろしいでしょうか?」

「?………なんだい?」

小さく深呼吸をする、大丈夫、きっと。


「大変不躾な発言でありますが、私が強くなるご許可を頂きたいのです。婚約者として、カルミア王子の傍につき必ずお護りします」

「なっ…!なにを!?」


驚いてはいるが、怒ってはなさそうな2人の反応に安堵し、言葉を繋げた。

これだけでは、足りない。


「私は、全てを思い出しました。儀式のこと、そして闇属性のことも。私が贄としての役目があり、生かされていることを理解しました」


タイサンは目を見開き、ヴィオラは顔面蒼白になり言葉を失った。

儀式、これはカルミアルートのみで明かされた真実だ。聖女が何故、イズダオラ王国でしか誕生しないのか。


それは”聖呪の儀式”が行われているからだ。



光があれば、必ず影があるように聖呪の儀式は、光属性を得ると同時に闇属性も受けることになる。相反する2つの属性を本来であれば持てるはずのない人間が持てば体内で力の矛盾が生じて命を落とす。だからこそ、儀式には2人必要だった。

1人は光属性を持つ聖女として、もう1人闇属性を持つ生贄として………そして生贄は、聖女が覚醒する為に殺される役だ。


「聖女覚醒させることが贄の役目であるなら、聖女を強くするのも贄の役目でしょう。歴代のどの聖女よりも強くして見せます!その為にも私自身が強くなりたいのです」


本当は。




魔王幹部も魔王を倒せるレベルは分かっているし、RPGやりこみ勢の私に任せた方が手っ取り早いわ!目指せ、レベル99!レベルカンスト!!

打倒は魔王じゃない、打倒!裏ボス!


………心の中の興奮を表面に出さない様に、顔面の笑顔に集中した。



「シレネ、君は何故そこまで………っ」

有頂天な心とは裏腹に神妙な面持ちのタイサン国王。もしや、これはいけるのでは?



「とても単純ですが、生き続けたいからです」



楽しいクエストがたくさんある、セカシュウの世界を楽しむために。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ