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呪術師ノエの旅路  作者: 真中ユウ
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腰を落ち着けて話しをすべく、結界の中の奥の方、一際大きく頑丈な野営テントの中へと通された。腰をかけるように促される。団長は壁際に立ちこちらを見ている。取調べかとも疑った矢先に、目の前に飲み物を出される。赤褐色の甘いフルーツの匂いがする飲み物。


「先程は取り乱して申し訳ありませんでした。私はセルシオ・トゥ・ケンディアと申します。」

「僕はノエ。旅をしてる呪術師だよ。で、それで話って何?」

「順を追って話します。まぁ、こんなテントの中ですから、おもてなしは簡単しか出来ませんが」


さあ飲んでと促される。


「これは何?」

「紅茶です。オリエント公国では良く飲まれる飲み物ですよ。…ノエ様はこの国の人ではないようですね」

「まぁ旅をしてるので」


まだ始めたばかりですけど、なんて流石には言えないだろう。プライドってやつ?まぁ見栄だな。


「では、ノエ様」

「ノエでいい。様なんて呼ばれ慣れない」

「…わかりました。ノエ殿」


流石に他国所以に名前を聞いても、家紋に心当たりはない。…オリエント公爵家は別だが。セルシオも何処かの貴族の子息という事はわかるが。



「貴方は呪術師で問題ありませんね?人の魂を転生させる生業をしていると?」

「そうだよ。…だけど、好きな所にホイホイ転生できるような、そんな簡単なものじゃない。魂は危ういから直ぐに天界へ逝こうとするのを、この世に繋ぎ止める術でしかない」

「…それでも、良いんです」

「術を受けた側にも全く影響が無いわけじゃない。天界の洗礼を受けないままの転生と言うことは、前世の記憶が残ったりすることもある。…それでも?」

「それは…仕方ありません」

「セルシオさんがそれを決めても?」

「…っ」



呪術師というのは人のエゴを見ることも多い。僕はそんなエゴを見て術が掛けられなくなる事があった。


師匠はそんな時に僕にいつも言った。世界を見なきゃダメだと。僕は僕の中の世界に囚われていてはダメなのだと。僕にとっての世界はずっと、僕と師匠だけだった。


だから、旅に出ることにした。

その中で出会った初めての呪術師としての仕事だ。出会い方は不本意だが。




「…僕は僕が最善と思える場合にしか術は掛けられない。だから、セルシオさんと妹さんの双方に話しを聞かせてほしい。」

「わかりました。ありがとうございます」


早速、明日にでもセルシオの妹に会うようにするとのことで、今日は解散となった。

テントを一つ貸してくれると言うのでお言葉に甘えて借りることにする。



「…貴方がさせたい仕事ってこれだったの?」


セルシオとの話の間、銀髪碧眼の男は何も言わずにやり取りを見ていた。


「いや、魔力使いなら何かと役に立つかと思っただけだ。守護者や施療士でも良かったけど、まさかの呪術師とはね。」

「そんなに珍しいことないんじゃ…」

「世間を知らないみたいだな。呪術師はもう、お役が減ってるんだよ。なんせ、魂の減少なんてのは迷信になりつつある。儲からないのと人の死に目に合うのが嫌だとかでなりたがる人が減ってる。同じ魔力使いなら守護者とかの方が求められるしな」


なるほど、理解した。

僕の中でもこの職の需要を考えることはあったけれど、やっぱりといった感じだ。特に不思議とは感じない。



「では、()()に会ったらさせたかったことは、これ、ですか?」

「…それは、どうだろうな。呪術師に会うなんて思ってなかったって言う方が正しいからな。それより、敬語はやめろ。慣れてなさすぎてぎこちない」

「でも…」

「あと、俺のことは普通にセドリックでいい。」

「流石にそれは…」



ここの野営テント内には騎士達がそれなりの数はいる。一国の血筋たる彼を呼び捨てなどにすれば切り捨てられても文句は言えないだろう。



「…セドリック様」

「様は嫌いだ」

「…セドリックさん」

「なんだ」

「そろそろ僕は寝るので、テントから出て行ってくれます?」

「見張りは必要だからな、外で見張らせておく。…逃げるなよ」

「魔力封じをされてるのに逃げる気なんて起きないよ」



この魔力封じ、厄介なんだよね。

魔力を発動させようとするけど、発動した魔力は腕輪に吸い取られる。

僕は魔力が使えないとなると、何も出来ない。一通りの生活はできるけれど自分を守る術は無いし、このまま逃げたところで魔物に食われて終わる気がする。



「まぁ、見た感じひよっこだよな。もう少し鍛えたほうが良いぜ。女にモテない」

「余計なお世話。セドリックさんはそんなの関係なしにモテそうだけどね」

「…結局、家紋に寄ってくるばかりだがな。そんなのはクソだと思う。それしか見ない奴はいらない」

「意外とロマンチスト繊細」

「何か言ったか?…まぁ、セルシオの件は俺からも頼むよ。」



セルシオとセドリックは、やはり仲は良いらしい。憎まれ口を叩き合う感じはあるものの、それを許しているのだろう。



「僕は僕にできることをするまでだよ」

「そうだな」


セドリックはふっと笑い僕の答に納得したようで、そのままテントの外へ消えて行った。



テントの中に置かれていた寝具は僕が寝ようとしていた草の布団とは比べものにならない程上等な品物だった。…褒美にこの布団が欲しいなんて言ったらくれるのだろうか?




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