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オリエント公国はこの世界を創ったとされる創造神が生まれた地という言い伝えがあり、王は神の子だと謳われている大国だ。とても豊かだがその反面、他国からも狙われやすい。
僕が師匠といた国はオリエント公国に隣接するガリビアという小さくも自然豊かな国だ。…オリエント公国と逆側に向かってるつもりだったのに、何という方向音痴だ。
「これ、そろそろ外してくれない?」
「仕事をしたら外してやる。」
「騎士だって言う証拠は?制服なんてかっぱらいで何とでもなるだろう?山賊ならさ」
「…自分で言うのも難だが、こんな綺麗な山賊がいるか。」
「何処に向かってるの」
「仕事場だ」
騎士という割に何故こいつ1人なんだ。
確かに身綺麗にしているあたり、山賊なんて者では無さそうだけども。
「あんたの名前、なに?」
「名乗るならまずは自らってね」
「ちっ…僕は呪術師のノエだよ」
「呪術師?の割に結界を張るのも上手いように見えたが?家紋とかはないのか?」
「平民なんでね」
「…平民…」
「そちらはお貴族様と見えるけど?」
「俺はセドリック・ライ・オリエントだ。まぁ貴族だな」
…オリエント?
「あ、あんたまさか、オリエント公国家関係者…?」
「そうだな。父上が王の実弟ってところだな」
所詮貴族でもこんな山の警備に当たるなんて下流貴族ぐらいだろうと鷹を括っていた。
昔、師匠に王家関係には逆らうな、面倒になると念を押されていた事を思い出す。うわ、逆らっただけじゃ無く結界で弾き、礼節を欠いた言葉で話してしまった。何これ、死刑にでもされるの?
「ご非礼すみませんでした、命だけは…」
「はぁ?そんなことするか。非礼っていうのは公務にさえ気を付けとけば良いもんだ。硬っ苦しい。気にするな」
「…さっき首に剣を突きつけてきたくせに」
「何か言ったか?」
「何でもございません」
山の中を抜けて行く。方向音痴が発揮してさっきまで居たところに戻れる自信はない。荷物とかは持って来た(というか没収されている)ので戻る必要はないのだけれど。
暗闇の中を歩いていたが遠くに灯が見え始めた。それは段々近づいて行く。
「ここだ」
ピリっと肌に刺さる違和感、結界だ。人の出入りが可能だが魔獣や他の危険からは守れるといった複雑な構造で大きさはかなりなもの。これを作れるのはかなり凄い人だろう。
結界の中は騎士達の拠点となってるらしく、あちらこちらに野営のテントが見える。こういう複雑な結界なら結界内に煙が留まらずにすることができる。僕には無理な芸当だ。
「団長!?探していたんですよ!
何処に行っていたんですか!?」
「騒ぐな。ちょっと散歩だ」
「散歩って、誰か護衛は付けてください。1人行動しないで下さいってあれほどお伝えしているのに」
「騎士団長が護衛されるなんて可笑しい話だろ」
結界に入ると同時に目の前に繰り広げられたやり取りについていけない。団長、つまりこの銀髪碧眼の男の事らしい。小言を言う男は団長より背が低いがやはり騎士団員ということで貴族だろう。
「…で、団長?この人はどうしたんです?」
「捕まえた」
「捕まえたって…。あぁ、汚れた格好して、着替えはあります?湯はあるから拭くぐらい出来るけれど」
「大丈夫、いらない。」
落ち着きがないと言うか、俗に言う母親っぽい人だな。母が居なかったから実際は分からないが。
「せっかくの長い髪も綺麗にした方がいいのに。前髪伸びすぎてるけど見える?」
「切る理由もないから伸びたままなだけ…。視力は良い方だから大丈夫」
括る方が楽な時も多いし、
あまり顔を見られたいわけでもない。
「…で団長?捕まえた理由は何です?」
「立入禁止区域に居た」
「それだけ?それなら捕まえるまでも連れて来なくとも良いじゃないですか」
「こいつは呪術師だ」
「…呪術師…だって?」
呪術師だと聞いた瞬間、錆色の男は驚いた顔をしてこちらを見て来た。呪術師は確かに希少だが、珍しいわけでもない。何せ、転生の儀を行えるのは呪術師だけなのだから。
「呪術師様、お願いがあるのです…どうか、どうか!!」
「ちょっ…えぇ…?」
「私の妹を、ラザリーを救ってください…」